0221.ビャッコちゃん
「男性だけですね」
「そうキュね。重たい物が多いから、男性の方が良いと思うでキュ」
「こちらの男性は転職回数が多いな」
「そうでキュね。面接の時に聞いてみるでキュ」
面接時の質問などについて話していたら、あっという間に着いてしまった。
「おう、クマちゃん」
「ゴンしゃん、どうもでキュ」
「応募殺到だって聞いたぜ。うちに貼ってあるのも大勢見てたしな。選ぶのが大変だな」
「それがでキュね、二人なのキュよ」
「へっ、二人⁉ 何かの間違いじゃないのかい?」
ゴンさんの肩に乗せて貰ったクマちゃんが耳打ちする。
「ありゃ、それは大変だったな。もし、集まらないなら俺の知り合いに声を掛けてやるよ」
「ありがとキュ。今日はお店の棚とかを運ぶでキュから、女将さんにも挨拶してくるキュ」
「ああ。女将も顔が広いから相談してみな」
「モキュ」
路地を通ってお店へ入ると、女将さんと一緒に男の人がクマちゃんの求人の紙を見ている。夢中なのか僕達に気付いていない。
「でね、もうクマちゃんが可愛いのなんのって。お花も見せて貰ったけど本当にいい匂いでね。他の花屋とは一味違うと思うね」
「女将さん、おはようキュ」
クマちゃんが遠慮がちに声を掛けると慌てて振り向く。
「あら、クマちゃん、いつ来たんだい? あっ、そうそう、この人ね、自分でもお花を育てていて興味があるんだってさ! 土の国には、村を出て植物に関係した仕事がしたいから見学に来たって言うんだよ。お薦めだよ」
「ふふっ、私の言いたい事は女将さんが全て言ってくれました。ビャッコと申します。よろしくお願いしますね」
「よろしくでキュ。ビャッコちゃんも良かったら、金曜日の面接に来るでキュか? お花大好きなら大歓迎でキュよ」
「よろしいのですか? 応募が殺到しているとお聞きしたのですが」
「それがでキュね、今は二人だけなのキュよ」
びっくりしている女将さんにセイさんが教えてあげている。
「呆れたねぇ。じゃあ、尚更お薦めだよ。礼儀正しいし、よく気付くし手先も器用なんだよ。ほら、このフォークを入れている木彫りのコップね、前のが壊れたって言ったら作ってくれたんだよ」
「凄いキュ、器用なのキュ。さっきから疑問だったんでキュけど、ビャッコちゃん、ここでバイトしているでキュか?」
「はい。元々は客として来ていたのですが、お手伝いとして入っていた女性の具合が悪くて暫く来られないとの事で、大層お困りだったんです。ですから、私がお手伝いしましょうかと申し出てみたのです」
「そうなんだよ。一週間くらいお願いしたいって頼んだら、快く引き受けてくれてさ。具合が悪かった子も日曜からは来られそうなんだよ」
性格も良く、手先も器用でお花好き。もう決定でいいんじゃなかろうか。
「回復して良かったキュ。バイトが終わったら、ビャッコちゃんは土の国に住むでキュか?」
「考え中です。出来れば住み込みの仕事がありがたいですね」
土の国は農家さんのお手伝いが多いから、住み込みのお仕事が結構あるもんね。ビャッコちゃんに働いてもらう為には、シン様の許可がないと駄目だなぁ。
「住み込みでキュか……。クマが住み込みのようなものでキュからねぇ……」
「ですよねぇ。面接の時にシン様にも来てもらいますか?」
そんな僕達の横でセイさんが訝し気に首を傾げている。どうかしたのかな?
「……気の所為か?」
ポツリと聞こえないくらいの小さな声で呟く。尋ねようと思ったら女将さんが話し出したので口を噤む。
「そう言えば、今日は求人の事で来たのかい?」
「それもなんでキュけど、お店で使う棚とかを持って来たいのキュ。いいでキュか?」
「勿論さ。路地に置くのかい? それとも通り沿いかい?」
「通り沿いがいいでキュ」
「では、俺が持ってくるから外で待っていてくれ」
セイさんからクマちゃんを受け取り、通りに出る。
「荷馬車に載せて来たのかい?」
「魔法でビューンでキュ」
「魔法でなのかい? ――わっ!」
「すまない、驚かせたな。怪我はしていないか?」
「ああ、大丈夫だよ。あんた、凄いねぇ。こんな魔法は初めて見たよ」
女将さんが興奮してセイさんの背中をバンバン叩いている。良い音がしているが大丈夫だろうか?
「ごほっ……。クマ、指示をくれ」
「モキュ。モモしゃんが作ってくれた棚はお肉屋さん側で、セイしゃんが作ってくれたのは背の低い棚を真ん中にお願いしまキュ」
地面を土の魔法で凹ませ、倒れにくくしてから宿屋を背に三つ設置される。お花を飾る階段状の台は穴を開けてから設置するようだ。
「これ可愛いね。お花の絵が描いてあるじゃないか」
「そうなのキュよ。とーっても絵が上手な人が描いてくれたのキュ。覚えているキュ? この前、クマと一緒に居たピンクの髪の毛の人キュ」
「ああ~、あの美人さんだね。天は二物を与えるねぇ」
「でキュねぇ~」
全くだ。僕にも長い足をくれないだろうか?
「防水の布を掛けてしまってもいいか?」
「お願いしまキュ」
汚れたり濡れないように、セイさんが布を掛けて紐で固定してくれる。
「そろそろ帰るか」
「モキュ。ビャッコちゃん、金曜日はよろしくなのキュ。女将さん、バイバイキュ」
「はい、よろしくお願いしますね」
「気を付けて帰るんだよ」
お肉屋さんにもブンブンと手を振って魔国の城へと向かった。
噂にもなって、沢山の人が求人の紙を見ていたので、女将もお肉屋さんも少なさにびっくりです。
働きたい人が増えて良かったですね。しかもいい人材ですよ。
女将さんが力強いのでセイもびっくりです。細マッチョにもダメージを与えるとは、女将さんやりますね。
次話は、怒りの雷です。
お読み頂きありがとうございました。




