0220.お兄ちゃん呼びは、もう結構です……
「シン様って笑い上戸ですか?」
「えっ、どうかな? セイ、どう思う?」
「限定的じゃないか? カハルやお前達と居るとよく笑っているな」
「だって、ニコちゃん。自分でも考えてみたけど、普段はそんなに笑わないと思うよ」
「そうなんですか? なんだか勿体無い気がします。シン様が笑うと、お花がポンと咲いた感じと言うか、眩しい太陽が出たぞーみたいな感じで、凄く華やかな空気を感じるので僕は好きですよ。他の人も見たら嬉しくなっちゃうと思います」
「ニコちゃん……。ありがとう……」
びっくりした顔をした後に優しく笑って僕を抱き締めてくれる。シン様の素敵な笑顔をたくさん引き出せるように、もっと仲良くなっていきたいと思う。同じ思いなのかヴァンちゃんがシン様の背中にジャンプしてベタッと抱き付く。
「わっ、びっくりした。どうしたの、ヴァンちゃん?」
「俺もギュー希望」
「ふふっ、いいよ。前へおいで。――はい、ギュー」
満足気に目を閉じて抱き付いているヴァンちゃんをシン様が優しく見つめる。まるで本当の親子のようだと思っていると、カハルちゃんがコソッとセイさんに囁いている。
「むしゅこがふえたねぇ」
「そうだな。俺の弟か?」
「おー。わたちはおねえちゃねぇ」
「見た目は妹だがな」
「はい、はいっ。僕はお兄ちゃんが良いです!」
二人が黙って顔を見合わせる。そして、セイさんが言いにくそうに口を開く。
「……ニコは弟だろう」
「でしゅねー」
「そ、そんなぁ……。せめて、カハルちゃんが赤ちゃんの間はお兄ちゃんって呼んで下さい」
「にぃに?」
破壊力が抜群だった……。村に小さい女の子が居なかったので憧れだったのだ。毎回、これに耐えられるだろうか? いや、土の国の産業部部長さんのように鼻血が出そうな気がする。
「この一回でもう十分です。ありがとうございました」
深々と頭を下げると、「もう、いいの?」と言うようにカハルちゃん首を傾げたので、大きく頷いてみせる。にぃには失態を晒したくありません。
「兄貴ーでキュ」
「兄貴ー」
クマちゃんとヴァンちゃんの兄貴呼びで余韻が吹っ飛んだ。尊大に返してみようと腰に手を当ててふんぞり返る。
「何かな? 弟たちよ」
「偉そうでキュ……」
「うむ。偉そう」
その後、キラーンと目を光らせた二人に散々くすぐられて地に倒れ伏した。ぐはっ……。お兄ちゃん呼びは、もう結構です……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「忘れ物はないか? じゃあ、行くぞ」
セイさんに連れられて土の国の城へ向かう。あんまり混んでないといいけど。
クマちゃんと受付に向かって行くと、求人の紙を見ていた人達がざわつく。その中の一人が急いで近付いて来た。
「あの、花屋さんをやるクマちゃんて君の事?」
「そうでキュ。どうかしましたキュ?」
「俺に面接を受けさせてくれよ。受付で落とされたんだ。何かの間違いに決まってるんだから頼むよ」
セイさんが険しい顔をしてクマちゃんを深く抱き込む。僕もいつでも武器を取り出せるようにしておく。
「――そこの方、騒ぎは困ります。あら、昨日の方ですか。募集内容に合わないので不合格だとお伝えしましたよね」
前回来た時に僕達の受付をしてくれたベテランの女性が、カウンターを出て間に入ってくれた。
「納得いかねぇよ! ちゃんと面接して貰えば受かるに決まっているだろ!」
「大きい声を出さないで下さい。この時点で誰が見ても不合格だと思いますけどね。では、もう一度ご説明しましょう。雇用主の求めている人材は、お花が大好きな方です。花の名前を五つも言えず、そのような優しさも感じられない言動の方に客商売は向いていません。お分かり頂けましたか?」
「言いたい放題、言いやがって!」
女性の襟首を掴もうとしている。急いで足払いを掛けようとしたら、女性の方が素早く相手の腕を取り投げ飛ばした。えっ、強い⁉
「兵士の方、お願い出来ますか」
「はっ」
呆然としている男が連れて行かれた。クマちゃんと僕もポカーンとしながら見ていると、ニコッと笑ってくれる。
「お待たせ致しました。カウンターへどうぞ」
「あ、ありがとうでキュ」
「あのような輩が多かった為、期限前でしたがご連絡をさせて頂きました。誠に申し訳ございませんでした」
「謝らないで下さいでキュ。怪我とかはしてないでキュか?」
「はい、大丈夫です。お気遣い頂きありがとうございます。――こちら、複写の紙になります」
「ありがとうでキュ。あれ? 二枚でキュ」
「お一人は別のお店で採用が決まった為、そちらの二枚だけとなります」
「そうなんでキュか。色々とお騒がせして申し訳なかったでキュ。また、お世話になる事があると思うでキュ。その時はよろしくお願いしまキュ」
「いいえ、こちらこそご心配をお掛けしました。採用が決まりましたら、また手続きにいらして下さい。その他にも何かお困りの事がございましたら、いつでもお越し下さいね」
「モキュ。ありがとうでキュ」
「ありがとうございました」
深々と頭を下げてくれる女性にお辞儀を返して宿屋さんの方に向かう。道すがら、クマちゃんと一緒に応募者の内容を見る。
ニコちゃんはお兄ちゃんになれそうにありませんね。ちょこちょことお兄さんの後ろを付いて行く姿が似合います。
受付の女性が強いですね~。城で働く人は一通り護身術を学びます。
次話は、宿屋で面接希望の人を紹介されます。
お読み頂きありがとうございました。




