0218.ダーク様、改心して下さいね
「完売しました。またのご利用をお待ちしております」
「はぁ、仕方ない。ニコの手を買い占めよう」
「現在、僕の手は書類味です。おいしくありません」
「気にするな。別の味付けにしてやろう。チョコレート味にするか?」
机の上にあったチョコレートを差し出される。うぐっ、誘惑が……。だが、負けん!
「今日の合言葉は『脂肪を燃やせ!』なので我慢します」
ダーク様が笑いながら僕のお腹を触って来る。
「太ったのか? この辺りが?」
「きーっ、憎たらしい! セクハラで今日こそ訴えてやります! ミナモ様、正義の鉄槌をお願いします!」
書類を抱えて戻って来たミナモ様にお願いする。
「えっ、私ですか? ここはヒョウキ様では?」
「ん? ミナモ様が最強で、最後の良心ですよね?」
「くくくっ、見事な観察眼だな。確かにミナモが最強だ。なぁ、ヒョウキ?」
「ちぇー、俺が王様なのにな。俺もミナモが最強だと思っているけどさー」
全ての王の頂点たるヒョウキ様が認めた。これで決定だ。ミナモ様が一番!
「――そんなミナモしゃんにお願いがありまキュ」
い、いつの間に⁉ クマちゃんがちょこんと正座していて、そのソファーの下からは灰色の尾が見え隠れしている。分かった、カゲちゃんの仕業ですね! あぁ、じりじりとホノオ様が近付いて行っている。狙いはカゲちゃんの手ですか?
「はい、どうされました?」
「明日、求人の複写の紙を貰いに行くのと、お店用の棚とかをセイしゃんに運んで貰いたいのでキュ。午前中だけお借りしてもいいでキュか?」
「はい、構いませんよ。ただ、ヴァンちゃんは一日、こちらでお願いしたいのです。よろしいですか?」
「はいでキュ。ニコちゃん、セイしゃん、明日はお願いしまキュ」
「ああ、任せておけ」
「はい」
すっかり綺麗になったヴァンちゃんが戻って来た。そして、その影からカゲちゃんがにゅっと出て来る。
「ガウゥッ」
ホノオ様を物凄く警戒している。これじゃあ、触らせて貰えないだろうなぁ。
「カゲちゃん、どうした? よしよし」
ヴァンちゃんが宥めている。僕はホノオ様を励ましてくるか。
「あんな風に近付いたら警戒されちゃいますよ。普通に触りたいって話し掛けた方が触らせてくれますよ。行きましょう」
ズボンを引っ張って、カゲちゃんの所に連れて行く。
「カゲちゃん、ホノオ様が触りたいそうです。いいですか?」
「ガウーッ」
駄目か……。やっぱり本人が頼まないと駄目らしい。
「ホノオ様も頼んで下さい」
「あ、ああ。さっきは悪かった。あ、あのさ、えーと、撫でてもいいか?」
「ワフッ」
「お許しが出ましたよ」
カゲちゃんが右前脚を差し出す。自由に触るのは許しませんという事なのだろう。恐る恐る前足を握ったホノオ様が嬉しそうに笑い僕を見る。
「可愛いな。ニコ、ありがとな」
「はい。カゲちゃんにもお礼を言ってあげて下さい」
「ああ。ありがとな。お前に触れてすげぇ嬉しい」
「ワフッ」
この調子でどんどん仲良しになっていけば、あのモフモフを堪能出来る筈。僕も帰る前に触っちゃおう。わしゃわしゃ~。
「名残惜しいだろうが、そろそろ帰るぞ。カハルが首を長くして待っているだろうからな」
頷いてセイさんの足に抱き付き、こちらをじっと見ているダーク様に言ってみる。
「ダーク様、改心して下さいね」
「改心? 俺ほど素晴らしい心の持ち主はいないだろう? 俺のお気に入りなんだから光栄に思って欲しいものだな」
ニヤニヤと笑いながら僕のお腹に手を伸ばしてくる。
「わ~っ、セイさん、早く魔法を使って下さい!」
慌ててセイさんの足をペシペシと叩く。
「あ、ああ。お疲れ」
「お疲れ様でした」
クスクス笑っているミナモ様と、チッと舌打ちしてみせてから笑うダーク様に見送られて城を後にした。
「ただいま戻りました。僕の癒しのカハルちゃんは何処ですか~?」
「おかえりー、にこちゃ」
「ニコ、手洗い、うがいが先」
「ぐえーっ」
飛び付こうとしたら、ヴァンちゃんに襟首を掴まれてしまった。でも、これは僕が悪いので仕方ない。
「だいじょーぶ?」
「はい、元気いっぱいですよ。そこで待っていて下さいね」
引き摺られながら手をブンブン振っておく。
「ニコはカハルが大好きだな」
「それはもう。一日中ひっついていたいです」
「そうか。俺と一緒だな」
「セイさんもですか? じゃあ、僕が右側にひっつくので、セイさんは左側にお願いします」
「ははっ、そうさせて貰う」
おぉ、珍しい。セイさんが声を上げて笑った。なんて素敵笑顔なの。モモ様の魔性の微笑み並みの威力があります!
バシャバシャ。ガラガラガラ……。手洗いよーし、うがいよーし、いざ抱き付け~!
「はい、お預け。お風呂に行って来なさい」
「ガーーーン……」
「カハルを連れてね」
「イエッサー!」
ビシーッと敬礼して、ヴァンちゃんと手を繋いでスキップで向かう。カハルちゃんとお風呂♪ お風呂♪
「揶揄いがいがあるよね。はい、よろしく」
「ああ。あまり揶揄うと嫌われそうだがな」
「ちゃんと加減はするよ。ヒョウキじゃあるまいし」
シン様と何かを話していたセイさんが追い付いて来た。
ダークがとうとうセクハラで訴えられました(笑)。改心する気がゼロです。
ニコちゃんはこの先もダークに勝てそうにありませんね。
シンもニコちゃんで遊んでますね。皆に引っ張りだこのニコちゃんでした。
次話は、みんなでお風呂です。
お読み頂きありがとうございました。




