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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第三章 クマの花屋
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0206.一生懸命我慢したんだよ

「ヴァンちゃんは平気なの?」

「ん? どっちでもいい。でも、色んな人に見せられるのは嫌だ」

「大丈夫、私が楽しむだけだよ。ダークもそうでしょう?」

「俺は城の者達の期待に応える使命がある」


 速攻で消去してやった。


「恥ずかしがり屋め。カハルがしょんぼりしているぞ」


 ハッ、そうだった。思わず手が動いてしまった……。


「すみません。でも、カハルちゃんは生で見られますよ。いつでも期待に応えますからね」


「私にも見、うっ」


 モモ様が口にスイカを入れられている。シン様、ナイスです。ここは良い場面なので邪魔しちゃいけません。


「にこちゃ、あんがと。いちゅも、いっしょね」

「そうです。いつでも一緒なので見放題ですよ」

「カハルちゃんなら大歓迎」

「キュ~」


 クマちゃんも加わり、皆でカハルちゃんを抱き締める。はぁ、可愛い。なんなりとお申し付け下さいと心から思う。それに、シン様と同様に『いつも』と当たり前のように言ってくれた。


 僕にはまだ白族の掟を破る覚悟が無い。だから、ずっと一緒に居たいですと心の中だけで言う。


「ニコちゃん、暗い顔してどうしたの? お腹が痛くなっちゃった?」

「シン様、大丈夫です」


 シン様の透き通った綺麗な眼差しは、僕の心の奥底まで見抜いてしまいそうだ。弱い僕を軽蔑されてしまう時が来るのが怖い。


「――いつでも相談に乗るよ。それだけは覚えておいてね。それと自分を卑下しない事。白ちゃん達は素晴らしい存在なんだから」


 ハッとした眼差しを送って来たヴァンちゃんともしっかりと視線を合わせて、シン様が真摯に伝えてくれる。ヴァンちゃんと共に小さく頷くと、先程の表情とはガラリと変わり、いたずらっぽく笑う。


「次のお楽しみも参加してくれるかな?」

「まだ、あるんですか⁉ 絶対にやります!」

「その前に顔と手を洗うぞ」


 ダーク様に綺麗に洗って貰ってからシン様の所に行くと、虹の様に七色に染められている二十センチ位の紙縒こよりの様な物を渡される。


「ピラピラしている方を持ってね。火を使うから火傷しないように気を付けてね」


 全員に配り終えると、シン様が実演してくれる。


「これは線香花火と言います。地面に垂直にではなく、四十五度位の角度にして先端に火を点けると長持ちするよ。そのまま動かさないようにしてね。いくよー」


 蝋燭で火を点けると丸いオレンジ色の火球が現れる。そして、パチパチッと菊の花の様な火花が周りに沢山咲いていく。思わず息を詰めながら見守っていると徐々に火勢が落ちていく。菊の花の数が徐々に減って、花弁が一枚一枚散るように火花が飛び、火球がふっつりと闇に紛れた。


 暫く誰も言葉を発さず余韻に浸る。詰めていた息を吐き出すと、皆が思い思いの感想を口にしていく。


「おとうちゃ、きれいねぇ」

「本当に綺麗だね、カハル。僕と一緒に持ってやろうね」

「うんっ」


 シン様とカハルちゃんとセイさんの親子で集まってやるみたいだ。


「こんなに綺麗なものがあるなんて……。世界はまだまだ知らない事だらけだね」

「モキュ。モモしゃん、今こそ撮影する時でキュ!」


 クマちゃんと森の動物さん達と共にモモ様が離れて行く。撮影意欲に燃えております。


「俺達もやるか」


 ダーク様とヴァンちゃんと僕で集まる。


「四十五度にして火を点けてキープ」


 ヴァンちゃんがやるのを見守る。見惚れているヴァンちゃんの横で僕は鼻のムズムズを必死に耐えている。ふ、ふわ――。


「ぶぇいっくしょーん‼」


 ビクッと肩を揺らしたヴァンちゃんの線香花火の火球が、ボトッと地面に落ちた。気まずい沈黙が広がる。


「あ、あの、ごめんね。ずずっ。えっとね、一生懸命我慢したんだよ。ずずっ。本当だよ! ふ、ふぇっ、ふぇっくしょーい‼」


 暫くジト目で僕を見た後、諦めたように溜息を吐いたヴァンちゃんが鼻紙をくれる。


「鼻かむ」

「……ずずっ。ありがとう」


「凄いくしゃみだったけど大丈夫? ずっと外に居たから体が冷えちゃったかな?」


「大丈夫です。あの、シン様、線香花火ってまだありますか? 僕のくしゃみの所為でヴァンちゃんの花火が悲しい事になりまして……」


「うん、あるよ。すぐに持って来てあげるからね」


 良かった……。無かったら僕のを渡そうと思っていたのだ。いくらヴァンちゃんが優しいからって、さっきの事はかなり頭に来ているだろう。


「――はい、どうぞ。楽しんでね」


 シッポを振りながらヴァンちゃんが受け取る。テンションが上がったようだ。今度はくしゃみが出る事もなく、ヴァンちゃんも火球を落とさずに終える事が出来た。恐る恐るヴァンちゃんを窺っていると頬をぶにゅっと挟まれる。


「もう怒ってない。わざとじゃないのはちゃんと分かっている。ニコも花火を楽しむ」


 心が広いよ、ヴァンちゃん! 「ありがとう!」と手を持ちブンブンするだけでは足りずに抱き付く。


「仲直りしたようだな。ニコ、どっちが長く落とさずにいられるか勝負するか?」

「はい、やります!」


 ダーク様と並んで火球を見つめる。ヴァンちゃんも真剣な表情で勝敗を見守ってくれている。



ニコちゃん、我慢できませんでした。しかも、頑張って止めていたので、特大のくしゃみです。

ヴァンちゃんにジト目で見られると、ダメージが大きそうですね。

ヴァンちゃんはニコちゃんが思うほど怒っていません。びっくりするのが嫌いなだけです。


次話は、ニコちゃんが祈ります。


お読み頂きありがとうございました。

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