0205.目指せ、皮!
「次はヴァンちゃんだよ。ズバンと決めてね」
「頑張る。他の人達はやらない?」
「うん。白ちゃん達の為に準備したからね。決めちゃっていいよ」
僕達の為にという言葉に、ヴァンちゃんがはにかむ。僕も嬉しくてニコニコが止まらない。
「目隠しするよ。どう? きついかな?」
「大丈夫」
「じゃあ、回すよ」
今度は僕がヴァンちゃんを導いてあげなければと気合を入れる。だが、ヴァンちゃんは何の迷いも無くスタスタとスイカに向かって歩いて行く。本当に見えていないのだろうかと疑う程だ。
「教えてあげなくても割れそうだね」
シン様の言葉に頷き見守る。棒を振り下ろす段階で少しだけ修正するように声を掛けると、あっさりと真ん中に振りおろし、パッカーンと割ってしまった。
「達人でキュか?」
「本当に凄いね。綺麗に割れているよ」
モモ様にウンウンと同意している間に、シン様に目隠しを取って貰ったヴァンちゃんが満足気に頷く。
「イメージ通りにいった」
「ヴァンちゃん、凄いね。偉い偉い」
シン様が嬉しそうに頭や頬を撫でている。
「わたちもなでなでしたーい」
カハルちゃんも小さい手で頬をもっふりと撫でている。
「ほあぁー。もふもふー」
反応が可愛過ぎる。モモ様が我慢出来なくなったのか撮影し始める。満面の笑みを浮かべるヴァンちゃんは珍しいので、後でコピーさせて貰おう。
「スイカを食べようね。お塩はいるかな?」
「果物に塩を掛けるんですか?」
「やった事無い?」
「はい。スイカを食べる機会もあまり無かったもので」
「試しに掛けてごらん。甘みが引き立つよ」
パラパラと掛けて齧ると、果汁たっぷりのスイカと塩がよく合う。
「甘い! 僕、お塩を掛けた方が好きです」
「ふふっ。新しい発見が出来て良かったね」
「はい!」
しゃくしゃくと夢中で食べる。さっぱりと甘くておいしい。ヴァンちゃんは何やらカハルちゃんから教わっている。気になるので近寄ってみよう。
「いただきます。シャクシャクシャク――」
凄い勢いで大きなスイカを右端から左端に向かって水平に食べていく。左端に到達すると、また水平に右端に戻って行く。頬がパンパンになって来た。
「シャク。――もぐもぐ、もぐもぐ。ごっくし。半分までしかいけなかった」
「はんぶもしゅごいよぉ。なでなで」
ニンマリしているヴァンちゃんに聞いてみる。
「本当はどうなる筈なの?」
「皮まで一気に辿り着くらしい。ニコも挑戦する?」
「頑張るよ。目指せ、皮!」
「にこちゃ、ふぁいとぉ」
カハルちゃんに頷き、スイカを手に持ち一心不乱に食べていく。
「はむはむはむっ――」
だが、食べれど食べれど辿り着かない。頬もパンパンになってしまった。
「――ごっくし。はぁ、無理でした……」
気付けば全員に見られていた。ハッとしてモモ様を見る。
「撮りましたか?」
「うん。ばっちりだよ」
にっこりと微笑んだモモ様に、にっこりと笑い返して言い放つ。
「消して下さい」
「えっ⁉ 感動の一枚なのに……。考え直して?」
手でバツを作って拒否する。達成出来なかったし恥ずかしいから駄目なのだ。それに口周りの毛がヴァンちゃんのようにピンク色になっているに違いない。
「モモ、約束は守ってね。僕も残すのを我慢しているんだから」
シン様まで撮影していたとは。あっ、ダーク様が何かを隠した。もしかして……。
「ダーク様も消して下さい」
「何の事だ?」
しらばっくれるつもりだ。
「クマちゃん、お願いします」
「了解でキュ」
ビシッと敬礼したクマちゃんがダーク様によじ登って行く。ふっふっふ、流石にクマちゃんを振り払う事は出来まい。ダーク様は、くすぐったそうにしながら諦めて立っている。
「――モキュ? こっちでキュかね? ん~、これは! あったでキュ、ニコ隊長!」
モゾモゾと上着の中を動き回っていたクマちゃんがぴょこんと顔を出し水晶を掲げる。
「没収!」
「了解でキュ!」
クマちゃんが持ったまま下りるのは無理なので受け取りに行く。中を確認すると、しっかり撮られていてヴァンちゃんの写真まである。本当に抜け目が無い人だ。消す操作をしようとすると悲し気な声が聞こえる。
「あ~、だめにゃのぉ。けしちゃ、めっ、なのぉ」
ここでカハルちゃんに止められるとは。モモ様の目が輝き出した。
「そうだよね、悲しいよね。大事に保管しないと」
必死だ。ヴァンちゃんを見ると、まるで気にしていないのか、スイカの種をチョイチョイと爪で取り除いている。
ヴァンちゃん、達人でした。目が回っていないのかな?
スイカの早食いに挑戦です。カハルがヴァンちゃんに話したのは、もちろん早食いで有名なあの方です。
残念ながら二人共、皮までいけませんでしたが、その姿を他の人達は満喫です。誰も撮影チャンスを逃しません。
次話は、ニコちゃんが一生懸命我慢します。
お読み頂きありがとうございました。




