0201.そろそろ訴えますからね!
「モモしゃんはバナナが似合わないでキュね」
クマちゃんが正直に言ってしまった。他の人達が思わずという様に頷いている。
「そう? バナナに似合う、似合わないってあるの?」
「勿論でキュ。カットされたバナナをフォークで食べる姿なら良いでキュ。皮を剥いて直接食べるのは駄目でキュ」
モモ様が不思議そうにしている。自分自身ではそういうのが分からないものだよね。
「ニコにカッコイイが似合わないのと一緒」
「ひ、酷いよ、ヴァンちゃん! ちょっと待ってね。今キリッとするから。――どう?」
腰に手を当てて胸を張り、目を細めてフッと笑う。これでカッコイイって言って貰えるよね。
「変」
たった一言返された。思わず崩れ落ちて地面に手を付く。一体、何が駄目だったの⁉ だが、誰にも答えを期待出来そうにない。必死で笑いを堪えているらしく、全員、涙目だ。どこに……一体どこに笑いがあったのだろうか?
唯一、冷静なヴァンちゃんに背中をポンポンと叩かれる。慰めなんて要らない。僕が欲しいのはただ一つ。
「カッコイイをお願いします!」
「無理」
更にバッサリと斬られた。もう、抵抗する気力がありません……。うぅ(泣)。
「だみゃってたちゅ、うちろしゅがたなら、いいかもぉ?」
何ですと⁉ 直ぐにやってみなければ。皆に背中を向けて黙って佇む。
「……可愛いな」
「可愛いね」
「諦めた方がいいでキュかね」
「そうだね。可愛いの勝利だと私は思うよ」
「あー……」
最後のカハルちゃんのコメントに詰まった声で全てを悟る。後ろ姿ですら駄目だなんて……。ヴァンちゃんと何が違うって言うのさっ。
「シッポがピコピコ落ち着きが無い」
無意識に動いていたシッポの所為とは……。力を入れていれば良いのかな?
「ふんっ!」
「ぶはっ……」
シン様が噴き出した。今度は何が問題⁉
「シッポが凄い勢いでビンッてなったよ。お尻が余計にプリンとなって可愛いね」
そっと触って来るモモ様の手を拒む気力も湧かない。……クマちゃん、お尻をツンツンしてくるのは止めて下さい。
「――力が抜けたでキュ。わしゃわしゃわしゃでキュ~」
お尻を小さな手で撫でられてくすぐったい。ん? 手が増えた。
「クマちゃん、セクハラですよ! それに誰ですか? この手は!」
ガシッと掴むと、いつ来たのかダーク様だった。
「また、ダーク様ですか⁉ そろそろ訴えますからね!」
「どこに訴えると言うんだ? ん?」
ニヤリと憎たらしく笑ってお腹をコショコショくすぐってくる。くっ、このっ! 負けてなるもの、かー⁉
「――にょはははっ、い、いい加減に」
「そうか、良い加減か。では、もっとくすぐってやろう」
「うははっ、ひっ、ひぃえー、ち、ちが、にゃはははっ」
誰か助けて~と心の中で叫ぶ。
「だーく、めっ、なのぉ」
カハルちゃん、何て良い子! ダーク様が急に興味を失くしたように立ち上がる。助かった……。
「戻って来たか。調子はどうだ?」
「だいじょーぶなの。ただいみゃー、だーきゅ」
シン様からカハルちゃんを受け取ったダーク様がおでこを合わせてグリグリと動かす。楽しそうに笑うカハルちゃんを見て安心したのか、大事そうに胸に抱く。そして、モモ様に目を留める。
「桃の国の宰相殿じゃないか。よく、シンに許可して貰えたな」
「お久し振りでございます。遊具作りの手伝いの為に入れて貰えました」
「そうか。ここでの敬語は止めてくれ。プライベートに堅苦しいのは勘弁だ」
「承知致し――失礼。分かったよ、ダーク様」
「呼び捨てで構わん。無理にとは言わないがな」
苦笑したモモ様が頭を下げる。内心、困ったなぁと思っているのかもしれない。
「この木馬は凝っているな。誰が作ったんだ?」
「俺が形を作って、モモが色塗りをした」
「へぇ、絵心があるんだな。小さい頃から得意なのか?」
「そうだね。絵を描くのも好きだけど、細かい作業とか何かを作るのが昔から好きだよ」
木工好きというよりは作るの全般が好きなのか。
「お料理はするんですか?」
「たまにね。王に試食して貰うのだけれど、冒険し過ぎだってよく怒られるよ」
わざと? わざとですか⁉ 王様にイラッとして、良い笑顔で唐辛子をどっさり入れる姿が頭に浮かぶ。
ヴァンちゃんがそっとモモ様から距離を取っている。僕も被害に遭いたくないので、今後この話題を振るのは止めよう。
「ほどほどにな。シン、手伝う事はあるのか?」
「もう無いよ。夕飯まで皆で遊ぶといいよ」
シン様は夕飯の支度をするらしい。回転木馬はまだ塗料が乾かないので遊べない。折角、これだけ人数が居るのなら何か特別な事をしたい。
ヴァンちゃんがバッサバッサ斬ります。カッコイイを求めるほど変になっていくニコちゃんでした。
ダークは本当に良いタイミングで来ますね。そして、またセクハラです(笑)。
ニコちゃんを構いたくてしょうがないダークには、カハルがよく効きます。ヴァンちゃんはそれに気付いていますが、ダークが楽しそうなのでダンマリです。自力で気付け、ニコちゃん!
次話は、うさぎさんが最強です。
お読み頂きありがとうございました。




