0197.責任を取ります
おんぶしていたカハルちゃんを下ろして座ったシン様に、モモ様が真剣な顔で話し掛ける。
「シン、私はきちんと責任を取るからね」
「何の責任?」
「大事に育ててお嫁さんにするからね」
「モモ、正気に戻ろうね。うちの娘は渡さないから」
「そんな……私はもう心を決めてしまったのに」
モモ様の暴走が始まった。「シン……いや、お父さん?」と言って、強烈なデコピンをされている。仰け反らせるほどの威力を出せるとは、シン様はデコピンマスターですか?
おでこを押さえて俯き、痛みに耐えるモモ様を見ながらトウモロコシを齧る。粒がプチンプチンと弾けるたびに甘い汁が出て来て、醤油の香ばしさと混じり合う。止まらない美味しさだ。
涙目で顔を上げたモモ様が無言で食事を再開する。辛い物ばかりなのは、やけ食いなのだろうか?
「モモ、僕の分も残しておいてよ。はい、豆腐の味噌汁」
「えっ、本当に作ってくれたの?」
「だって、約束したでしょう。なんでそんなに驚くのさ」
「社交辞令なのかなと思って」
「社交辞令って相手に嫌な思いをさせないように使うみたいだけど、僕は逆だと思うな。『食事しましょうね』って言われて相手が本当に喜んでいて楽しみにしているのに、言った方はそんな気がさらさら無い。で、しょうがないなぁって食事に行くか忘れ去る。よっぽど失礼で嫌な思いをさせているよね。それなら最初から言わない方が優しさだと思うけどね。まぁ、考え方は人それぞれだとは思うけど」
そういう考えもあるんだと頷く。仕事をしていると「また、よろしくね」とか「飲みに行きましょう」とか言われたり、見掛ける。あの中の何人が本気で言っていたのだろうか? それなら僕は「ありがとう」って心から言って貰える方がいいなぁ。そう言って貰う為には、相手の望みに応える努力も楽しんで、相手も自分も満足する必要があるけど。
そんな事を考えながらモモ様の観察を続ける。匂いを嗅いだりしているけど、結局は何で味付けされているか分からない様で口に含んでいる。目を瞠ったモモ様を見て思わずニヤリとしてしまう。僕達と同じ反応だ。
「とても美味しいよ。でも、味の正体が分からないな。その黒っぽい液体も何だか分からないし。――豆腐は麻婆豆腐と一緒だね」
「お魚で作った鰹節から出汁というものをまず作るよ。モモの国だと湯にあたるかな。それに味噌という調味料を入れたのが味噌汁だね。豆腐も味噌もその黒い醤油も全て大豆という豆から出来ているよ」
「原料が一緒なの? 全然見た目が違うね。でも、大豆があればいいのなら桃の国でも作れるという事?」
「そうだね。でも、作らなくても緑の国に行けば売っているお店があるよ。そんなに沢山は作っていないから、モモが分けて貰えるかは微妙だけどね」
トウモロコシを完食して、焼きおにぎりを頬張りながら鮭のホイル焼きをつまむ。クマちゃんはとっくに満腹になってしまったようで、きゅうりをポリポリと齧っているアケビちゃんの頭の上で寝そべっている。
ヴァンちゃんとセイさんは、チーズとマヨネーズをズッキーニとかぼちゃに載せて焼いている。アレンジが始まった⁉ 僕も何か試したい。さっき聞いていた話の印象が強かったのか、鰹節しか頭に浮かばない。取り敢えず持って来れば良い案が浮かぶかもしれない。
「――ニコは鰹節か。ナスにでも使うか」
セイさんがナスに鰹節とポン酢を掛けて差し出してくれる。鰹節って踊るみたいに動いて面白い。ゆらゆら、うにゃんうにゃん。……食べるタイミングはいつにするべきだろう?
「ナスは普通にうまいな。――こっちも焼けたな。熱いから気を付けろよ」
チーズとマヨネーズのかぼちゃを先に頬張る。甘みと酸味とチーズのコクがあって満足感のある味だ。ズッキーニが好きなヴァンちゃんは先程から笑顔のままだ。よっぽどお気に召したらしい。
「あれ、いつの間にか楽しそうな事をしているね。僕にもかぼちゃを頂戴」
「ああ。モモはいるか?」
「私はもうお腹がいっぱいだから遠慮させて貰うよ」
やっぱり少食だな。いや、僕達が食べ過ぎなのかな? 最後にピーマンの丸焼きを食べて終わりにしよう。――はむっ。この種の部分が好きなんだよねぇ。はぁ、大満足だ……。
「遊具はもう少しで出来るの?」
「そうだな。色塗りとシーソーを設置すれば終わりだ」
「そう。終わったら更に作って欲しい物があるんだけど、いい? 材料は僕が採ってくるから」
「分かった」
後片付けを僕とヴァンちゃんとシン様で行い、他の人達は遊具の作成に戻って行く。
「シン様、何を採りに行くんですか?」
「竹だよ。夏も終わっちゃうから、あれをやらないとね」
「あれ?」
「そう、楽しみにしていてね。さぁ、おいで」
定位置にくっつきながら考える。夏にやるもので竹を使う……。う~ん、さっぱり分からない。それに竹なんて探検した時には見掛けなかった気がする。まだ、知らない場所があるのだろうか?
「着いたよ。何本いるかな? 足りなかったら採りに来ればいいか。二人共、少し離れていてね」
セイさんが木を切った時の様に、シン様が次々と切る。結構数が必要らしい。
「ヴァンちゃん、良い匂いがするね」
「うむ。シン様の家に似合いそうな香り」
「そうそう、和風って言うんだっけ? 飾っても似合いそう」
二人でウンウンと頷き合っていると作業が終わったようだ。
モモが暴走してます。ほら、ヒロインにメロメロですよ。ちゅーは凄い場面なんです(笑)。
物静かな二人がアレンジして楽しんでいます。気が合うんでしょうね。
ニコちゃんは結局、鰹節が動かなくなってから食べました。
次話は、余った木材を有効利用です。
お読み頂きありがとうございました。
 




