0189.ヒョウキ様と仲直り
ヘトヘトになって帰って来ると執務室がシーンとしている。
「ただいま戻りました」
「あ、お帰りなさい。少し廊下へお願いできますか?」
「? はい」
ミナモ様に連れられて廊下へ出ると執務室から少々離れる。
「ニコちゃんに嫌いと言われたのが相当ショックだったようなのです。静かに黙々と仕事をしてくれるのはいいのですが、皆が戸惑っていまして。なんとか許してあげてくれませんか?」
「はぁ、そうなんですか。元々、僕の方が先にヒョウキ様じゃ癒しにならん! って思った所為なので仲直りして来ます」
ミナモ様が噴き出している。どこに笑いがあったのだろう?
「……そうなのですか。確かに癒しではなく、憎たらしさを感じる率が高いのは確かですね」
ミナモ様って結構言うよね。ほんわかした見た目に騙されちゃいけないんだな。
「ただいま?」
ヴァンちゃんが僕達を不思議そうに見ている。
「お帰りなさい。ヤナギさんは帰られたのですか?」
「はい、直接帰りました。また、ホノオ様に会うのは嫌だと言っていました」
「そうですか。シン様に厳しく注意されていましたからね。部屋に入りましょうか」
腕章を返却してヒョウキ様の所へ歩いて行く。
「ヒョウキ様、先程は申し訳ございませんでした。――聞いていますか?」
「はぁ、嫌われた。これからどうしよ……このままじゃ、カハルにも嫌われそうだ。はぁぁぁ……」
ブツブツ呟いて深い溜息を吐いている。メンタルが強いと思っていたけど違うのだろうか? シン様は平気で僕達には弱いとかよく分からないなぁ。
「ヒョウキ様? 聞こえてませんか? もしもーし?」
「はぁ……」
駄目だ、自分の世界に入ってしまっている。よじ登って耳元で叫ぶ。
「ヒョウキ様、先程はすみませーん。仲直りしてくださーい」
「うぉっ⁉ ニコ? 今、仲直りって言ったか⁉」
「はい、言いましたよ。喧嘩両成敗という事でお願いします」
「マジで⁉ やったー! 本当にお前って良い奴だな。よしよし」
普通は王様に喧嘩なんか売ったら首が飛びそうなものだ。なのに、喜んでいるとは全く規格外の王様だ。まぁ、僕も分かっているからこそ出来るのだけれど。
「良かったですね、お許しが貰えて」
頷こうとしたヒョウキ様に冷たい声が降り注ぐ。
「誰に許して貰ったの? ヒョウキ?」
「えっ、はははっ、何の事だか……」
「へぇ、誤魔化すの? 言い当ててあげようか。ニコちゃんを構い過ぎて嫌われかけたのでしょう。どう?」
「な、なんで知ってるんだよ⁉」
「図星か……。ヒョウキの脳には学習機能が無いのかな? ん?」
こ、こわいよ~(涙)。慌ててヒョウキ様の腕から抜け出してヴァンちゃんの元に急ぐ。抱き付かせて~。
「よしよし」
ヴァンちゃんに背中をポンポンして貰う。背後の異音は気にしちゃいけない。ゴスッとかバキッとか、「ぐぇー」や「げふん」なんて聞こえていないもん。……誰か僕の耳を塞いでくれないだろうか。
手をパンパンと払う音がして、漸く静かになる。
「また、つまらぬものを殴ってしまった……」
ヴァンちゃんがシン様の代わりにポツリと言う。
「ぶはっ、ヴァンちゃん、最高! その通りだよねぇ」
シン様が楽しそうに笑うと空間に光が満ちる気がする。つられて僕とミナモ様も笑ってしまう。
「ただいま。あれ、みんな楽しそうじゃん。何か良い事でもあったのか?」
ホノオ様とセイさんが帰って来て不思議そうに僕達を見る。
「ねぇよ。全員、とっとと帰れ。ミナモ、書類持ってこい、書類」
「はいはい、お望みのままに。皆さん、お疲れ様です。やさぐれているヒョウキ様はお気になさらずお帰り下さい。ニコちゃん達は予定通りに明日はお休みです。ゆっくりして下さいね」
「大丈夫なのですか?」
「はい。だんだんと数が減って来たので何とかなると思います。ヤナギさんもお手伝いしてくれるそうですしね」
じゃあ、ゆっくりしようかな。だいぶ疲れが溜まってしまった。
「シン達も休んでいいぞ。ダークが復帰してくれたからな」
「そう。じゃあ、明日はみんなで朝寝坊しようか」
ヴァンちゃんが嬉しそうに頷いてシン様の足にひっつく。僕も定位置にひっつこう。
「な、なぁ、俺もシンの家に――」
「ホノオは俺の手伝いだ。親父さんに泣きつかれたぞ。馬鹿息子をよろしく頼むって」
そう言えば、王様のお仕事を勉強中なんだっけ。進捗が思わしくないのだろう。デスクワークが苦手そうだもんなぁ。
「ホノオ、頑張って。それじゃあね」
愕然とした顔のホノオ様に、あっさりと別れの挨拶を言ってシン様が移動の魔法を発動させた。
ミナモも良い性格ですね。これぐらいじゃないと魔国の宰相は務まりません。
シンは良いタイミングで帰って来ますね。逆にホノオは間が悪くて、いつまでたってもニコちゃん達と遊べません。王様修行、頑張れ。
次話は、モモを迎えに行きます。
お読み頂きありがとうございました。




