0018.ヴァンちゃんは男前
隣の塔に着いてからは、話よりも祭壇を作る事が最優先なので、皆で机を運んだり、供物を調達したりと大忙しだ。なんとか形が整うと、『祈りの歌』を皆で歌う。
その間、宰相様は被害状況の確認や、お城の方達に指示を出すなど忙しくしていた。でも、こちらの部屋でダーク様に報告や確認をする際に、カハルちゃんを探る眼で見ている。
カハルちゃんはというと、次々に部屋に魔法陣を描いていく。床だけではなく、天井にも巨大な魔法陣が出現している。窓の外も光っていたから、もしかすると塔自体にも何かしているのかも。
「カハル、それ以上は力を使うな。後は他の王を呼んでやってもらうから」
ダーク様、今、他の王様って言った。大事だ……。
「大丈夫、これで終了」
そう言いながら、赤い剣を召還し高々と掲げると、床にドンと突き刺す。剣を中心に白く柔らかな光が広がって行き、僕達の体も包み込みながら、高く高く昇ってゆく。
カハルちゃんは天井よりも更に上を見ているようだ。僅かな間の後、息をゆっくりと吸いながら剣を引き抜く。不思議な事に床に穴が開いていない。
空気が一変していた。清涼な空気が空間を満たしている。部屋の明るさも増し、僕達の歌だけでは払拭できなかった重さが無くなっている。それに、驚くほど体が軽い。
「これで、しばらくは持つかな。塔の崩壊もないように対策し――」
言葉の途中で剣がカランと床に転がり、カハルちゃんが崩れ落ちる。咄嗟にダーク様が抱き留め、屈み込んだ腕の中に居たのは小さなカハルちゃんだった。
驚きに言葉を失くす宰相様を横目に見つつ、カハルちゃんに近寄ると顔が真っ青だった。
「カハルちゃん……大丈夫でしょうか? お医者様に見て貰った方がいいですか?」
「いや、医者に治せる物じゃない。俺の力を分ければ元の状態になる」
ダーク様がカハルちゃんの額を手の平で覆う。そうして、暫く見守っていると、瞼が薄っすらと開く。
はぁ、良かった、気が付いた。隣に来ていたヴァンちゃんと頷き合う。
「こら、カハル。だから、無理するなと言っただろう」
「すみません。あの姿の内にやっておきたかったんです……。ダーク、力を分けてくれて、ありがとう」
「あぁ、気にするな。俺が一番、力が有り余っていたからな。それよりも、その無理をする癖を直してくれ。心配で身がもたん」
「うぅ、すみません」
小さくなるカハルちゃんに状態を聞いてみる。
「カハルちゃん、寒いですか? お顔が青いです」
「えっ、青い?」
「カハルの悪癖その2だ。困った事に自覚症状がない」
「それは……困る……」
ヴァンちゃんが深々と頷く。その後、カハルちゃんの頬に手を置く。
「あったかい?」
「うんっ。凄くあったかい」
ヴァンちゃんが今度は僕の頬に手を置く。
「どうだ?」
「うーん……そこまであったかくないよ?」
カハルちゃんが、あれ? という感じでこちらを見ている。
「今のニコの言葉で分かったと思うけど、俺の手が凄くあったかいのではなく、カハルちゃんの体が凄く冷えている。毛布貰ってくる」
カハルちゃんが止める暇もなく、自分の上着を掛けると走り去る。ヴァンちゃん、男前だ。そうだ! 僕の上着も掛けてあげよう。
「僕のも、どうぞ」
「でも、ニコちゃんが寒くなっちゃうよ」
「大丈夫ですよ。なんせ、毛皮が有りますから」
「ありがたく受け取っておけ。こんな冷たい体をして」
ペチッと、ダーク様がカハルちゃんのおでこを叩く。んん? 怒っていらっしゃる?
そんな僕達の遣り取りに、戸惑いを含んだ目を向けていた宰相様が近付いて来る。
「説明して頂きたいのですが、その子は何者なのですか?」
「あぁ、説明する。だが、ヴァンが戻るまで待て。カハル構わないな?」
「うん、隠しても疑いの芽が育つだけだから」
そこにタイミング良く、ヴァンちゃんが毛布を抱えて戻って来る。
「カハルちゃん、お待たせ。どうぞ」
「ありがとう、ヴァンちゃん」
ヴァンちゃん、男前です。
ちなみに上着の下は、タンクトップかシャツを着ています。
また小さいヒロインに戻ってしまった……。ダーク、頑張って面倒を見てね!
次話は、宰相様が応援されます。
お読み頂きありがとうございました。




