0187.書類はもう見たくない
女将さんがお茶を飲みながら求人の紙を見つめる。
「クマちゃん、募集するのは一人でいいのかい?」
「モキュ。状況に合わせて徐々に増やしていこうと思っているのでキュ」
大丈夫かねぇと女将さんが呟いている。確かに僕も少し心配だ。お休みも少なめだし……。
「今から心配してもしょうがない。クマが言うように徐々に修正していくしかないのではないか? それに、俺達がクマを助ける。そうだろう?」
「勿論です。一人で悩ませたりなんてしません」
「うむ。助ける」
クマちゃんが泣きそうな顔をしているので、よしよしと頭を撫でる。
「側にいますからね」
「……キュ……フキュー……」
おかしい。何故、泣いてしまうのだ。言葉の選択を間違えた⁉
「嬉し泣きだよ。ねぇ、クマちゃん」
あわあわしていると女将さんがクマちゃんに優しく話し掛ける。コックリと頷いた姿に胸を撫で下ろす。クマちゃんは優しくされる事に弱いようだ。それなら、僕はもっと優しさを注いでいこう。満面の笑みが見たいのだ。
クマちゃんが落ち着いた所で魔国の城へと向かう。さーて、頑張るぞ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………」
配達を終えて戻って来たヴァンちゃんが、無言でソファーに仰向けに横たわる。僕も同じ状態なので何も言うまい。
「お二人共、大丈夫ですか?」
ヴァンちゃんと共に首を横に振る。もう、駄目です……。書類はもう見たくない……。
「ヒョウキ様、どうしましょう? フォレスト様に診て頂いた方がいいでしょうか?」
「あー……そうだな。栄養ドリンク飲ませるか」
「ただいま。……ぐったりしているね」
シン様がヴァンちゃんを抱き上げようとするが、思っていたよりもグンニャリしていたらしく慌てて抱き直している。
「ヴァンちゃん、ご飯は食べられるかな?」
「……食べる」
セイさんとホノオ様が僕を覗き込んで来る。
「おい、ニコ、大丈夫か?」
ホノオ様が僕の頭をおずおずと撫でてくれる。……くすぐったい。
「セイ、抱っこしてあげて。帰るよ」
「ああ。――そんなに心配ならホノオも来るか?」
「えっ、いいのか? 行きたい」
「すみません、ホノオ様。炎の国から通信が来ています」
タイミングが合わずにホノオ様がガックリとしている。ポケットをごそごそして飴を差し出す。
「どうぞ」
「あ、ありがとう。またな」
「はい」
ホノオ様はちょっと元気が出た様なので、僕はセイさんに遠慮なく凭れる。安定感抜群です……。
夕飯は鮭茶漬をさらさらと食べる。食欲が落ちていても食べられるので、ありがたい。でも、途中で寝落ちしてしまった。
目を開けるとフカフカお布団だった。横に目を向けるとヴァンちゃんが静かに眠っている。僕も、もう少しだけ……。
「……寝ちゃったキュ?」
「うん。疲れているから、もう少し寝かせてあげようね」
クマちゃんと思われる小さな手でおでこを撫でられる。んふふ、くすぐったい。
「笑ってるキュ」
「良い夢でも見ているのかな?」
「そうだといいでキュね」
朝食で起こされるまで、ぐっすりと眠る事が出来た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おはようございます。お二人共、お体は大丈夫ですか?」
執務室に行くと、真っ先にミナモ様が体調を気遣ってくれた。
「寝たら元気になりました。朝もご飯を二杯食べて来たので大丈夫です」
「ん。卵かけご飯うまい」
「ふふっ、良かったです。フォレスト様に栄養ドリンクを頂いたのですが、使わなくても良さそうですね」
それは、机で伸びているヒョウキ様に使った方がいいのではないだろうか?
「ヒョウキ、だらしないよ」
「……シン、年寄りの癖に元気だよな」
「へぇ、そういう事を言うの?」
こめかみを拳でグリグリとされている。なぜ、学習しないのか?
「いでででっ、おい、離せ、よ! いでっ、いだい!」
「ほっときましょうね。昨日よりは少し量が減りましたよ。今日もヤナギさんをお借りしたので、皆で頑張って乗り切りましょうね」
「「はーい」」
「ふふっ、良いお返事です。あっ、ヤナギさんが来ましたね」
「おはようございます。今日はどなたをサポートすればよろしいのですか?」
「今日はヴァンちゃんをお願いします」
「ヤナギちゃん、よろしくお願いします」
「ええ、喜んでお手伝い致しますわ。早速、参りましょうか」
手を振るヴァンちゃんを見送り、僕も出発の準備をする。腕章も付けてっと。
「では、行って参ります」
「はい。このお金でラムネを買っていいですよ」
「わーい! 何味にしようかな?」
「闇の国限定でブラックベリー味が出ているそうですよ」
「それは是非買わないと! ミナモ様もそれでいいですか?」
「ヴァンちゃんとニコちゃんの分だけで大丈夫ですよ」
「はい! 俺も欲しい!」
やっとグリグリ地獄から解放されたヒョウキ様が元気に挙手する。何であんなに立ち直りが早いのだろう? 普通ならしばらく頭を抱えて痛みに耐えていそうなものなのに。
「すみません、あの問題児の分もお願いできますか?」
とうとう問題児扱いされている。チラッと見ると、「頼むな~」と明るく手を振っていて、全然気にしていない様子だ。セイさんに肩を叩かれているミナモ様が不憫になってくる。僕もポスッと足を叩いてあげて走り出す。目指せ、時間内配達!
遅れて行った上に大量の書類だったので、必死に走り回りました。目を瞑っても書類がちらつきます。
翌日には回復。若いですね~。
ヒョウキは余計な一言が多いですね。そんなにシンに構って欲しいのかな?
次話は、ダークとばったり会います。
お読み頂きありがとうございました。




