0185.基準はどこですか?
「ヤナギ、久し振りだな」
「お久し振りですわ。お元気そうで安心致しましたわ」
頷いたセイさんが口を開きかけた所で、ホノオ様がヤナギさんの横を通る。
「はぁ、腹減った……」
「きゃー! こ・な・い・で!」
「うわっ⁉ な、なんだよ!」
ミナモ様が自分だけではないとホッとしたようで、ぎくしゃくと動き始める。あんなに拒否された事なんて、ミナモ様の人生で初めてじゃないのだろうか?
「早く出て行って下さいな!」
「なっ⁉ お前が出て行けよ!」
「なんですって⁉ お前だなんて失礼な事を言う方が出て行くべきですわ!」
「はぁ⁉ きゃんきゃん喚くお前の方が迷惑だっ」
その後も二人で言い争っている。何だか仲良しに見えるから不思議だ。
「どっちも同レベルだろ。はぁ、うるさい……」
ヒョウキ様が溜息を吐き、ミナモ様が苦笑している。
「そろそろ止めないとシンの雷が落ちるぞ」
セイさんの言葉につられてシン様の顔を見た途端、ギョッとする。笑顔なのに物凄く怖い。恐怖のあまり毛がブワッとなってしまった……。
異様な気配を感じたのか二人が口をピタッと閉じて、お互いにそっぽを向く。
「ホノオ、お疲れ。腹減ったなら、そこのクッキー食べろ。シン、ヴァンはもうちょっとで終わるって、さっき連絡があったから待っていてくれるか?」
「うん。僕もクッキーを貰おうかな」
ぶすっとした表情のまま、ホノオ様が椅子に座りクッキーを齧っている。帰らないのが不服なのか、ヤナギさんも渋面だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
先程の事を思い出しながら目の前の光景を見る。僕達は子供枠だから平気なのか、獣族だからいいのか? 平気な男性もいるようだけど……。確認してみよう。
「ヤナギさん、僕達は十六歳の男の子ですよ。大丈夫なんですか?」
「まぁ、そうなの! 可愛らしいので問題ありませんわ。ニコちゃんも『ヤナギちゃん』と呼んで下さらない?」
「分かりました。大丈夫な男性の基準はどこですか?」
「あら、私に興味を持ってくれるなんて嬉しいですわ。フォレスト様、シン様、セイ様は付き合いが長いのですわ。それに皆様、とても美しいですもの」
「ミナモ様、優しい。駄目?」
ヴァンちゃんがヤナギちゃんを仰ぎ見ながら質問している。ヤナギさんが破顔した後に、冷たい表情でミナモ様をじっと見る。――ああ、ミナモ様が気まずそうにしている。
「あの方は確かに優しいですわ。でも、それだけではありませんもの。中身はとても男性らしい方ですから苦手ですわ」
そう言えば、ダーク様もミナモ様は男らしいって言っていたっけ。ヤナギちゃんは人を見抜く目があるのかもしれない。
「そろそろ帰ろうか。クマちゃんがお腹を空かせて待っているよ」
「あっ、俺も一緒に行きたい!」
「まぁ、なんて図々しいのかしら! あなたは、さっさと自分のお城にお帰りなさいな」
「なんで、お前に指示されなきゃならないんだよ。お前こそ、さっさと帰れ!」
「――ストップ。それ以上、喧嘩したら二人共叩きだすよ」
シン様がついにキレた模様です。ヴァンちゃんと僕はいそいそとセイさんの足に抱き付く。
「……シンは説教モードに入ったから、俺達だけで帰るか」
セイさんは慣れているのか、さっさとその場を後にした。
「お帰りキュー。あれ? シンしゃんが居ないキュ」
「ああ、野暮用でな。風呂に行こうか」
お風呂に入りながら、クマちゃんが今日は何をしていたか聞いてみる。
「今日はでキュね、求人の紙と宣伝用の紙を作っていたのキュ」
「おお、凄い。後で見せて欲しい」
「モキュ。誰か明日、一緒に土の国に行って欲しいのキュ。求人の紙を貼りに行きたいのキュ」
「では、俺が一緒に行こう」
「いいのキュ⁉ やったキュー!」
「魔物退治は大丈夫なんですか?」
「ああ。だいぶ数を減らせたからな。少しくらいなら平気だ」
僕も一緒に行きたいけど、明日も凄い量だろうなぁ。一応、聞くだけ聞いてみようっと。
お風呂から出るとシン様がご飯を作りながら笑顔で迎えてくれた。
「ごめんね、一緒に帰れなくて。二人にはよく言い含めておいたから安心してね」
詳しい内容は僕の心の平穏の為に聞かないでおこう。ホノオ様が結局、ここに来ていないという事が、いかに凄まじかったかを語っているじゃないか! 好奇心に蓋をして仕舞い込む。
「クマちゃん、これに絵を描いてもいい?」
ヴァンちゃんはマイペースに求人の紙を見ている。
「ヴァンちゃん、絵が得意キュ? お願いしたいキュ。クマは字を書いただけでクタクタなのキュ」
確かにクマちゃんには大変な作業だっただろう。制作中の宣伝用の紙には押し花が貼られていて、とても可愛い。
僕はその間にミナモ様に聞いてみようっと。
「ミナモ様、出られますか?」
「――はい。ニコちゃん、どうされましたか?」
「あの、明日の朝、クマちゃんのお店の求人の紙を貼りに、セイさんと一緒に少しだけ抜けてもいいですか?」
「はい、構いませんよ。ヴァンちゃんも行くのでしょうか?」
「ヴァンちゃん、明日、クマちゃんに付いて行く?」
「行きたい」
「ふふっ、分かりました。気を付けて行って来て下さいね」
後ろで「俺も行きたーい」という声がしている。
「駄目に決まっています。ほら、手が止まっていますよ。キリキリ働いて下さい。――ニコちゃん、また明日」
笑顔で手を振ってくれたミナモ様の背後で、書類に囲まれたヒョウキ様が天を仰いでいる。が、頑張れ~。
ミナモが再起動しました。仲間が出来ましたからね!
ホノオとヤナギは相性が悪いですね。でも、仲良しに感じるのは何故だろう? 同レベルだからかな?
仲良くシンに説教されました。説教の後も懲りずに睨み合っていたので、シンから特大の雷が落ちました。
次話は、求人の紙を貼りに行きます。
お読み頂きありがとうございました。
 




