0184.助っ人は精霊さん
「ヒョウキ様、ニコです」
「――おう、どうした?」
「こんな状態なのですが、誰かお手伝いをしてくれる方はいませんか?」
書類の山を通信の鏡で見せる。
「あー……少し待て」
ヒョウキ様が更に通信の鏡で誰かを呼び出す。
「――フォレスト、精霊を一人貸してくんない?」
「ヒョウキ? いいよ。誰にしようかな……。――ヤナギ、手は空いている? ――そう、お願いね」
「ニコ、手伝い借りたから、今からそっちに行かせる」
「はーい、ありがとうございます」
書類を次々に配って、回収もして待っていると異様な気配を背後に感じて慌てて振り向く。
忙しい筈なのに皆の手が完全に止まっている。僕も口をあんぐり開けたまま固まった。産業部の壁に大穴が開いて森が見え、そこから悠々と豪奢な金髪の巻き毛で、スタイル抜群の女性が入って来る。女性がバサリと髪を後ろに払った所で壁の大穴が閉じた。
「ニコちゃんはどなたかしら? フォレスト様からお手伝いするように頼まれましたの」
慌てて手を挙げると、ニッコリと微笑んで近付いて来る。
「よろしくお願い致しますわ。どれを運べばいいのかしら?」
「あ、えっと、こちらです」
まだ固まったままの産業部の人達を気にする素振りもなく、ハイヒールで闊歩していく。
「そういえば、名前を言っていませんでしたわ。ヤナギと申します」
「は、はい、ニコです。よろしくお願いします」
最初に立ち直った部長さんが手をパンパンと叩く。
「みんな、仕事して! 時間が無いわよ!」
慌てて動き出した人達を見てホッとしながら部長さんの所に行く。
「産業部部長のダイアナと申します」
「私はヤナギですわ。これを運べばよろしいの?」
「ええ。持てるかしら? 今、台車を――」
「あら、問題ありませんわ。こうすれば、ほら――」
書類の上にポトリと小さな植物の種が置かれると、みるみるうちに蔦が飛び出て来て書類を覆い尽くす。最後に可愛らしい白の花がポンと咲くと書類が忽然と消え、種だけが残る。
「えっ、書類は⁉」
「大丈夫ですわ、ダイアナさん。この種を生み出した植物の元へと運ばれましたの。それを魔国の執務室に置いて来てありますわ」
「ええっ⁉ ……あの、本当に精霊さんなのかしら?」
部長さんがこっそりと尋ねると、ヤナギさんが胸を張って答える。
「ええ、そうですわ。ここだと羽根は出せませんわね。書類が飛んで行ってしまいますもの」
背中を見ても羽根らしい膨らみが見えない。どういう仕組みなのかな? まぁ、いいや。兎に角、大量に書類が運べることが分かった。時間内に仕事を終らせる望みが見えて来た僕は、ヤナギさんと共に各国を駆け回った。
「ただいま」
「ヴァンちゃん、お帰り」
頷いたヴァンちゃんが、ヤナギさんの渋面に気付く。
「ヤナギちゃん、何かあった?」
「まぁっ、『ちゃん』だなんて! 嬉しいですわ!」
ぎゅーっと抱き締められたヴァンちゃんが胸で窒息しそうになっている。
「うぐっ……」
「あ、あら、ごめんなさいね。強く抱き締め過ぎましたわ」
開放されたヴァンちゃんが深呼吸をしている。その姿をニコニコしながら見ているヤナギさんを見て、男性陣が溜息を吐く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
配っている時からおかしいなとは思っていたのだ。女性や子供に対しては非常に優しいのに、男性だとツンとしている。それが、魔国の城に帰って来て決定的になった。
「近付かないで下さいませ! しっ、しっ!」
ヒョウキ様が物凄く邪険にされている。いや、いつもの事かと思い直してスルーだ。
「ちょっと、その態度は酷いだろう。俺、何もしてないじゃんか」
「こ・な・い・で!」
あそこまで拒否されるなんて不憫だと思って振り向くと、微動だにしていないミナモ様が居た。えっ⁉ 今のミナモ様に言ったの? あの、完璧超人のミナモ様に⁉
「みんな、手は足りた? あれ? 何、この雰囲気?」
様子を見に来てくれたフォレスト様が首を傾げる。
「フォレスト様! 私のオアシス!」
ヤナギさんがフォレスト様の腕に抱き付く。好き嫌いが激しいという事なのかな?
「……ヤナギ、約束を守れなかったね?」
「努力は致しましたわ。でも、無理な物は無理ですの」
「はぁ……。みんな、ごめんね。この子は男嫌いでね。物凄く優秀な子なんだけど……」
そこにシン様達が帰って来る。
「ただいま」
「まぁ! シン様!」
「あれ、ヤナギじゃない。久し振り」
「お久し振りですわ。今日もお美しいですわ!」
「ふふっ、ありがとう。セイも居るよ」
後ろからホノオ様と一緒に入って来たセイさんが、びっくりした様に目を瞠る。
精霊さん、ど派手な登場です。まるで女王様(笑)。
ミナモが固まるという異常事態が。次話で復活するかな?
次話は、ヤナギちゃんの好き嫌いの基準です。
お読み頂きありがとうございました。




