0179.回転テーブル
「お皿ばっかりの時もある?」
ヴァンちゃんが興味津々で聞いている。
「壺の前がお皿だったよ。その前は茶器だったかな。後は香炉が流行っていた時もあったよ。この国の人は一つの事にのめりこむ所があるからね。そして、飽きも早い。流行り廃りが激しいから、商売をしている者達は全く気が抜けないだろうね」
「ほぉー」と身を乗り出して聞いていたヴァンちゃんがテーブルの一段高くなっている所を不思議そうに見てからポスポス叩く。僕も触ろうと椅子の上に立ち、身を乗り出すと足がツルンと滑った。
「ほわーっ!」
丁度、一段高い所に手を付くとグルンと回る。
「ひょえぇぇ~」
完全に体勢を崩して悲鳴を上げた僕をセイさんが抱き上げてくれた。
「大丈夫か? どこも痛めていないか?」
「は、はい。びっくりしただけです。これ、動きましたよ!」
「ニコちゃん、大丈夫? これは回転テーブルだよ。お料理を幾つも載せて、欲しい物があったらクルクル回して取る為の物だよ」
ヴァンちゃんが早速回す。――おぉ、速い。あんなに速く回したらお料理が飛んでいきそうだ。
「モモしゃん、乗りたいキュ。楽しそうキュ」
クマちゃんのおねだりにモモ様が頷こうとすると、シン様が遮る。
「駄目だよ、クマちゃん。ここは食べ物を載せる所だからね。モモは何でも頷かないの。ちゃんと悪い事は悪いって教えてあげないと、クマちゃんの為にならないよ。この子達が本当に大事で大好きなモモなら、どうすればいいか分かるね?」
クマちゃんはシュンとして小さくなっている。モモ様が優しい手つきで撫でてあげてから、諦めたように溜息を吐く。
「はぁ……分かったよ。私は大事にする事を間違えたね。ただ、可愛がるだけでは駄目なのだね。難しいな……」
僕も悪い事をしたら叱られて育ってきた。時々、素直になれなくて反発してしまう時もあったけど、時間が経ち同じような場面に出くわした時に感謝している自分が居たりする。
例えば面倒を見ていた小さな子が、上ってはいけませんよという所に上ってしまった時。本人は楽しい気持ちでいっぱいだ。でも、そこにある危険には全く気付いていないか軽く見ている。僕も叱られていなければ気付けず、痛い目に遭ってからやっと気付く事になっていただろう。もしくは、目の前の小さい子が大怪我をして初めて、大きな後悔と共に頭と心に刻み込む事になったかもしれない。
こういう時に心底、ありがたいなと思う。すぐには理解できず受け入れられない事もあるけれど、相手を本当に大事に想うからこそ、未来も見据えて叱るのだなと思うようになった。叱るというのは守る事に繋がるのかもしれない。
「ごめんなさいキュ。考えが足りていなかったでキュ……」
「分かってくれたならいいよ。そうだ、セイ。家に遊具を作ろう。こんな感じで回るのやシーソーなんて楽しそうじゃない?」
「そうだな、それがいい。クマ、俺が乗ってもいい物を作るから楽しみにしていてくれ」
「モキュ! クマも手伝うのキュ」
「私にも手伝わさせて。クマちゃんを悲しませてしまったから、笑顔にしてあげたいのだけれど……駄目かな?」
シン様が渋面になっている。家は秘密にしておきたいけど、モモ様のクマちゃんを想う気持ちを無下には出来ないのだろう。
「……いいよ。でも、僕の家の事を人に話さないと約束して」
「いいけれど……。飼っちゃいけないものを飼ったりでもしているの?」
「それはしてないよ。まぁ、来れば分かるよ」
「そう? じゃあ、楽しみにしているね。クマちゃん、楽しい遊具を作るからね」
バンザイしているクマちゃんにモモ様がホッとしている。だいぶ落ち込んでいたから心配だったのだろう。
「失礼致します。お料理をお持ち致しました」
回転テーブルの上に次々と大皿が置かれていく。大きなお魚を蒸した物と、ホタテとイカをお野菜と一緒に炒めた物、鶏肉とカシューナッツとお野菜を炒めた物、後は挽肉とお豆腐が赤いタレで炒めてある物などだ。
僕の目の前にも蒸篭に入った熱々のふっくらで真っ白な肉まんが置かれる。ふおー、テンションが上がって来た。更にこんがり揚げられた春巻と、ひだひだがあって、ぷっくりとした餃子が次々と並べられていく。どれから食べよう~。実に悩ましい。
そんな僕の様子を微笑みながら見ていたシン様が手を合わせる。
「それじゃあ、食べようか。いただきます」
唱和して早速、肉まんに手を伸ばす。
「うわっ、熱い!」
即座に引っ込めて、手をふーふーする。
「ニコちゃん、気を付けて。蒸したてだから火傷しちゃうよ。先にこれをお食べ」
シン様が小皿に料理を取ってくれた。トマトとキュウリと鶏肉のサラダのようだ。これなら火傷しない。早速、口いっぱいに頬張る。ゴマのドレッシングなのかな? トマトが甘酸っぱくてジューシーで美味しい。隣ではヴァンちゃんがシャクシャクシャク……とキュウリを高速で噛んでいる。よっぽど、キュウリに飢えていたのだろうか?
ごっくりと飲み込んで春巻を掴む。おっと、上手く掴めない。具だくさんなのか予想よりも重い。小皿にスライドさせて載せてから口元に持っていき、少しだけ齧る。――熱くないようだ。ガブッといこうとした所でセイさんから待ったをかけられる。
「具にとろみが付けてあるから熱いぞ。少し貸してくれるか?」
渡すと器用に箸で割ってくれる。皮がパリパリなのかザクッという音がして、思わず耳がピンと立つ。
「肉まんも割って冷ましておくか?」
「お願いします」
こちらも箸で上の方だけ割ってくれる。なんで下まで割らないのかなと首を傾げていると、セイさんがお皿ごと蒸篭を持ち、割った部分を見せてくれる。
「肉汁がたっぷりだぞ。こぼさないようにしないとな」
黄金のスープが厚めの皮の中でちゃぷんと揺れる。じゅるり……。
「ニコ、涎」
ヴァンちゃんの指摘でハッと口を閉じる。危ない、滝のようになる所だった。僕の緩みきった顔が面白かったのか、シン様の肩が揺れている。笑いをご提供できたようで何よりです……。
クマちゃんが叱られてしまいました。ですが、シンも本当は言いたくないなぁ、辛いなぁ……。でも、言わないとクマちゃんの為にならないしという気持ちを持っています。なので、別の形でクマちゃんのやりたいを叶える提案をしてます。
目の前にずらりと並べられた料理たちにニコちゃん大興奮です。いつもより涎多めです(笑)。
次話は、恐ろしい料理です。
お読み頂きありがとうございました。
 




