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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第三章 クマの花屋
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0177.初めての船

「モモ様、いらっしゃいませ」

「こんばんは。いつもの店までお願い出来るかな」

「はい、畏まりました。皆さん、揺れますからご注意下さいね」


 船頭さんが心配をして声を掛けてくれたけど全然揺れない。


「これは、たまげました。こんなに静かに乗り込めるのなんて、モモ様だけだと思っていましたよ」


「ふふっ、凄いでしょう。この方達は私よりも遥かに強いからね。揺らさずに乗るのなんて訳無いよ。……そういえば聞くのを忘れていたね。船酔いは大丈夫?」


「僕達は船に乗るのが初めてなので、酔うかどうかが分かりません」


「そう、初めてなの。私が初めてを提供できるなんて嬉しいな。もし、辛くなったらすぐに言ってね。歩いて行けない距離ではないからね」


「はーい。ヴァンちゃん、クマちゃん楽しみだね」

「うむ。漕ぐ」

「クマもやりたいのキュ」


 船頭さんが笑いながら長い棒を差し出してくれる。


「やってみるかい? これで岸を押してくれるかな」


 ヴァンちゃんが早速持ってみるが長くて扱い辛いようだ。持てない事もないが、周りの船や人にぶつけてしまいそうでハラハラする。


「長すぎる……。ありがとうございました」

「君達には長すぎたかな。おじさんに任せて」


 棒を持ったおじさんが器用に船を川の中ほどへと移動させていく。クマちゃんは持つ事は諦めたようだが、よじよじと船頭さんの体を登り、漕いでいる腕に抱き付く。


「おや、可愛らしい船頭さんだ。でも、皆さんがハラハラして立ち上がりそうだから、せめてポケットに入ってくれるかい?」


 シン様はクマちゃんがポチャンと水に落ちないか気が気ではないらしく、中腰になってしまっているし、ヴァンちゃんはさり気なく船頭さんの足元に待機している。


「クマちゃん、私の所へおいで。心配で何も目に入らなくなってしまうよ」


 残念そうにクマちゃんが船頭さんに手を振り、近くに居るモモ様の所へとトコトコ歩いて行く。


「大丈夫でキュよ。クマは浮くのが得意でキュ」


「クマちゃんが落ちたら私達は全員凍り付いてしまうよ。心の平穏の為に側に居て。駄目かな?」


「分かったのキュ。心の平穏は大事なのキュ」


 モモ様に抱っこされたのを見て、やっとシン様が息を吐き出す。


「船がひっくり返らないように魔法をかけてあるから大丈夫だ。それに、水に落ちても溺れないように水の精霊に頼んである」


 セイさんの言葉に驚く。いつ魔法を施したのだろうか?


「分かってはいても視覚的にね。血の気が引くよ……」


 シン様が自分の頬を手の平で撫でている。冷たくなってしまったのだろうか? ヴァンちゃんも同じ事を思ったのか近付いて来る。ボフンと僕達の頬でシン様の頬を挟む。


「これで温かくなりますよ」

「すりすりすり……」


 ヴァンちゃんの頬擦りが凄い事に……。赤くなる前に止めよう。


「あははっ、くすぐったいよ、ヴァンちゃん。二人共、ありがとうね。とっても温かいよ」


 クマちゃんが、ほうほうと頷きモモ様の腕を登っていく。


「どうしたの、クマちゃん?」

「――よいしょでキュ。すりすりすりキュ~」


 モモ様が目を見開き、クマちゃんを凝視する。


「ごめんキュ、痛かったでキュか?」

「……ううん、全然痛くないよ。幸せで溶けてしまいそう」


 頬に張り付いているクマちゃんを大事そうに両手で包み込んでいる。モモ様は本当にクマちゃんが好きなんだなぁ。


 初めての船は多少揺れるけれど、酔うほどではない。他のみんなも平気なようだ。周りを見る余裕も出て来たので船の縁から流れる川を覗き込むと、そっと腰を持たれる。不思議に思って振り返ると、セイさんだった。


「嫌かもしれないが、少しだけ我慢してくれ」

「全然嫌じゃないですよ。僕はおっちょこちょいなので逆にお願いします」

「そうか」


 ふわりと笑うセイさんに微笑み返して再度覗き込む。お魚さん居るかな?


「何が見えるでキュか?」

「水だけです。お魚さんは居ませんでした」

「寝てるでキュかね?」

「いやぁ、この辺りで見掛けた事はないねぇ」


 船頭さんの言葉にモモ様も頷く。


「鳥が泳いでいるのは見るけどね。ほら、この前、鴨を見たでしょう」


 そうだった。残念に思いながら視線を上げると、柳の長い葉は風に揺られ、楽しそうな声を上げながら道や橋の上を人が行き交っている。川岸に建っている店の柔らかな明かりで、夜闇に染まった水も照らし出されて幻想的な光景だ。


 ぼんぼりのオレンジ色の光に照らされているシン様は、まるで現実に居ないように遠くて神々しく見える。何だか消えてしまいそうな気がして、思わず手をギュッと握る。


「どうしたの、ニコちゃん? 怖くなっちゃった?」

「……シン様、黙ってどこかに行かないで下さいね」

「えっ……大丈夫、どこにも行かないよ。こんな可愛い子を置いて行ける訳がないでしょう」


 そう言うと強い力でぎゅーっと抱き締めてくれる。安堵して力を抜くと後ろからセイさんも頭を撫でてくれた。


「安心しろ。ニコが望むのなら、ずっと側に居る」


 思わず泣きそうになる。なんて優しい人達だろう。急に変な事を言いだした僕を難なく受け止めてくれる。ずっと、ずっと側に居られたらいいのに……。


クマちゃんが落ちたら全員が飛び込みそうですね。

モフモフの頬で挟まれるだなんて、シンが羨ましい……。

シンとセイがニコちゃんの不安を軽く吹き飛ばしてしまいましたね。良い親子です。


次話は、メニュー表とにらめっこです。


お読み頂きありがとうございました。

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