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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第三章 クマの花屋
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0175.食べる前で良かった(モモ視点)

このお話でモモ視点は終了です。

「ねぇ、あそこを走っているのってニコちゃんじゃないかな?」

「本当キュ。速いキュ~」

 

 感心して見ていると、廊下を歩く一団に叫んでいる。声を掛けようかと思ったけれど、止めておいた方がいいかな。


「ダイアナさ~ん、書類をお届けに来ました~」

 

 目当ての人物の名前を呼びながら駆け寄って行く。その時、ダイアナと呼ばれている女性の隣に居る、作業着を着た男性が素早くタオルを鼻にあてがうと、あっという間に赤く染まっていく。


「た、大変キュ。また、鼻血がドバーッなのキュ。お、お医者さん!」

「クマちゃん、落ち着いて。周りの人達が慌てていないから平気だと思うよ」

 

 むしろ、呆れているように見える。クマちゃんが『また』と言っていたから、鼻血が出やすい体質なのかもしれない。


「こ、今度は泣いているキュよ! 辛いのキュ?」

「ニコちゃんが普通にサインを貰っているから大丈夫じゃないかな」

 

 それでも心配そうに見ているクマちゃんは、とても優しい子だ。


「お前なぁ、嫌われるぞ」


「きゃー! 何て事を言うのですか! 『部長さん』ではなく名前を呼んでくれたんですよ! もう何も後悔は無い……」


「いや、残念過ぎる自身を後悔してくれ。何でそんなにモフモフ命なんだ……」

 

 理由が分かって思わず溜息が出る。そして、作業着を着て嘆いている人物の顔を見て我が目を疑う。あの方は土の国の王では? もう一度よく見ても結果は変わらない。より深い溜息が出る。


「モモしゃん、大丈夫でキュか? 心配でキュよね……。病気でキュかね?」

「いや、違――うん、きっと病気だよ。でも、命に係らないものだと思うよ」

「モモしゃん、病気の知識もあるのキュ? 凄いキュ~」

 

 安心してニコニコしているクマちゃんを撫でながら胸の内で付け足す。あれは、『萌え』という一生治らない厄介な病気だと――。


 何も見なかった事にしようと魔法道へ歩き始めると、王が私に軽く手を挙げる。どうやら気付いていたようだ。軽く会釈を返し、さっさとその場を後にした。



「ただいまキュ」

「クマちゃん、お帰りなさーい」

 

 一般の魔法道が大分混んでいた所為か、ニコちゃんが既に戻っていた。


「ニコちゃんでキュ! 土の国で見掛けたのキュ」

「えっ⁉ 声を掛けてくれたら良かったのに~」

「凄い速さで走っていたから止めておいたんだよ」

 

 クマちゃんを渡すと嬉しそうに抱き締めて頬擦りしている。ああ、癒される……。先程の光景を頭の中から放り出し、目の前の光景を焼き付ける。――上書きが完了した。


「ただいま」

「ヴァンちゃん、お帰り」

「お帰りなのキュ」

「ん? クマちゃんが居る!」

 

 三人でくっつく姿を見ているだけで胸の中が幸せで満たされる気がする。今度から記録用の水晶を必ず持ち歩こう。


「モモさん、今日はありがとうございました。お茶をご一緒にいかがですか?」

「ミナモ様、ありがとうございます。クマちゃん、お土産のお菓子を出す?」


「モキュ。それがいいのキュ。みんな、クマはやったのキュ! 銀行の支配人さんのお薦めのクッキーを手に入れたキュよ!」


「「わーーーー!」」

 

 ニコちゃんとヴァンちゃんが歓声を上げながら手を叩いている。よっぽど食べたかったらしい。


「一枚が大きい」

「そうでキュね。クマの顔も隠れちゃうのキュよ。ヴァンちゃん、ガブッといくキュ」

「はむっ。――もぐもぐもぐ……‼ もぐもぐ……」

 

 食べながら段々とニンマリしていく。言葉が無いけれど、美味しいというのが一目で分かる。


「僕も食べよう。――もぐもぐもぐ。……んーっ、おいしい!」

「ヴァンちゃん、もっと食べていいでキュよ」

 

 食べ終えて手をペロッと舐めながら、悲しそうにしていたヴァンちゃんのシッポが凄い速さで振られている。ああ、可愛い……。望むだけ食べさせてあげたい。


「皆様、紅茶をどうぞ」

 

 魔国のメイド長が出してくれた紅茶はリンゴの甘酸っぱい匂いがする。


「ありがとう。頂くね」

 

 丁寧に頭を下げて離れていく。是非とも引き抜きたい人物の一人だ。


「モモさん、料理長が作ったお菓子も食べてみて下さい」

「ありがとうございます。ミナモ様のお薦めを教えて頂けますか?」


「シュークリームが非常においしかったですよ。カスタードと生クリームが入っていました」


「それは嬉しいですね。いただきます」

 

 半分に切られ、中には白と黄色のクリームがこぼれんばかりに入っている。上には粉砂糖もかけられて、食べなければ後悔しそうなほどに魅力的だ。

 

 ニコちゃんが満面の笑みで豪快にシュークリームに齧り付き、クリームが両端からむにゅっと出ると慌てて食べている。その後も齧る度に飛び出るクリームに「わっ!」や「ふうぉーっ!」と言って食べているのを見て噴き出しそうになる。食べる前で良かった……。


「ただいま~。あっ、うまそうなクッキーがあるじゃん! うわっ、ニコ、クリームまみれじゃんって、ヴァンも⁉」

 

 ミナモ様が深々と溜息を吐く。まるで、いつもの私を見ているようだ。


「ヒョウキ様、他国の方が居る前で恥ずかしい事をなさらないで下さい」


「んん? あれ、モモじゃん。いらっしゃ~い。桃の国の王だって似たようなもんだろ。なぁ?」


「はい。非常に酷似しております」

「だってよ。ミナモは気にし過ぎなんだよ」

 

 全く反省の色が無い所もよく似ている。それに対して深く溜息を吐くミナモ様の姿が私に重なって切ない。


「なぁなぁ、これ食べていいのか?」

「どうぞでキュ。クッキーおいしいのキュ」

「クマが買ってきてくれたのか。ありがとうな~。よしよしよし」

 

 全身をわしゃわしゃと撫でられて、くすぐったそうに笑っている。随分と仲が良いようだと見ていると、袖を引っ張られる。


「――どうしたの、ヴァンちゃん?」

「嫌な事あった?」

 

 随分と敏感な子だ。僅かにイラッとしたのを見抜かれた。


「大丈夫だよ。クリームをこぼさずに食べるには、どうしたらいいか考えていただけだから」

 

 じーっと見てきた後に小さく頷く。誤魔化したのまで見通されている気がする。


「クリームを吸ってから食べるとこぼれない。俺はもう手遅れ」

「吸うの? 噎せちゃいそうだよ。――ふふっ……ふふっ、ごめんね。お顔が凄い事に……ふふふっ」

 

 鼻にもクリームがくっついている。指摘すると納得した様に頷く。


「道理でいい匂いが持続すると思った」

「失礼致します」

 

 メイド長ともう一人のメイドが有無を言わさず抱き上げて部屋を出て行く。ジタバタしているニコちゃんの叫びが聞こえてくる。


「ひぃえー。メイド魂に火が点いたぁぁぁ~、お助けを~~~!」

 

 お茶を飲んでいたミナモ様が酷く噎せ、ヒョウキ様がお腹を抱えて笑っている。またしても、食べる前で良かった。

 

 真っ白でふわふわな状態になって戻って来たニコちゃん達は仕事に戻るという事なので、そろそろ私も城に帰ろう。離れたくないけれど夕御飯もまた一緒なのだから。

 

 魔法道まで一緒に行き、見送って貰う。


「また、後でね」

「はい。お気を付けて」

 

 ニコちゃんが礼をしてくれる横で、ヴァンちゃんがまた私の顔をじーっと見てから手を振ってくれる。まるで心を見透かされているようだ。なのに、なぜ私は不快さを感じず嬉しく思っているのだろう? 自分の心がよく分からないまま魔法陣へと向かった。


モモの溜息が止まりませんね~。残念な記憶は可愛い光景で上書きです。

ミナモも溜息の連続です。王様もみんな個性的ですから……。

半分に切られたシュークリームはとても魅力的ですが食べにくいですね~。人が居なかったらヴァンちゃんお薦めの方法で食べたいと思います(笑)。

ニコちゃん達はクリームまみれですが、クマちゃんは他のお菓子で十分満足したので、メイドさんに連行されずに済みました。


次話は、モモと待ち合わせします。


お読み頂きありがとうございました。

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