0165.うひょひょさん捕まる
「マンリョウ、無意識なのか? 菓子がもうすぐ無くなるぞ」
「おっと、また、やってしまった。すまんの、儂の分は下げておくれ」
「はい、旦那様」
下げられていくお菓子を目で追っている。その気持ち良く分かります。
「それじゃあ、なかなか痩せないだろ。少しは痩せたと言っていたが、どうやって痩せたんだ?」
「頑張って運動しているに決まっているではありませんか」
ダーク様の疑わしそうな視線にポンポコさんが頬を膨らませる。
「では、アキラに聞いてみて下され。一緒に走ってくれているのですぞ」
「ふーん。アキラ、マンリョウと一緒に走っているのか?」
「えっ?」
集中していたのか、クマちゃんと共にぽかんとしている。
「あー、悪い。マンリョウと一緒に走っているのか聞きたかっただけだ」
「はい。走るというより早歩き、でしょうか。庭を一緒に回っています」
「どうですかな? 儂は嘘を申してはおりませんぞ」
「アキラ、済まなかったな。――その割に見事な腹だな」
確かに見事なお腹だ。叩いたら良い音が鳴りそう。
「ふんっ。ほっといて下され。ニコ達もクマちゃんの花屋さんを手伝うのかのぉ?」
「なるべくお手伝いしてあげたいのですが、メインのお仕事の方もあるので」
「ふむ。クマちゃんは人を雇うのかのぉ?」
「一人は雇うみたいですよ」
ポンポコさんが頷いたタイミングでクマちゃん達が戻って来た。
「終わったようだのぉ。クマちゃんも自分の目で幾つかの店を見てみるといい。それと、儂の方で見積もり依頼を纏めて出しておこう。一週間後の同じ時間にまたおいで」
「ありがとキュ。お世話になりますキュ」
「気にせんでおくれ。儂はこういう事をするのが大好きでのぉ。ワクワクしておるわ。ほっほっほ」
朗らかに笑うポンポコさんの姿を見てクマちゃんが肩の力を抜く。
「帰りも家の馬車に乗って行くといい。ダーク様はどうされますかな?」
「俺も一緒に乗って行く」
「では、門までお送り致しましょう」
ポンポコさんとアキラさんに見送られて、お屋敷を後にする。お城に戻ったらお昼を食べて配達だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フォレスト様に書類をお届けして、城の門へと走って行く。あれ? うひょひょさんだ! 近寄ろうとしてハッとする。あれは罪人用の馬車だ。これは大変だと急いで走り執務室に飛び込む。
「大変だよ、ヴァンちゃん! うひょひょさんが捕まっちゃったよ!」
「何っ⁉ 高笑いが二度と聞けないという事か⁉」
「そうなんだよ! どうしよう~、もう一度聞きたかった~」
「お前達、嘆くポイントはそこなのか?」
「それ以外に何が?」
ヴァンちゃんも頷いている。
「時々、お前達って冷たいよな……」
そうかな? とヴァンちゃんと顔を見合わせる。
「あの方と仲良しの方が困った事態になってしまいますよ。おやつをどうぞ」
「わーい、ありがとうございます。プリンだ~。んふふふ♪」
「……うまい。はむっ」
「わー、ひでぇ。もう記憶の彼方になった」
聞けないのならプリンの方が勝つのだ。卵が濃くてカラメルがほろ苦くておいしい。だーっ、至福だ。
「他の奴らは?」
「この後に纏めて運ばれて来ますよ」
「了解。ロウが受け持つのか?」
「はい。後で報告書を提出しますね」
「ああ。俺もプリンを食べようっと」
幸せそうな顔でプリンを頬張るヒョウキ様を見てから、ミナモ様に質問してみる。
「どんな悪い事をしちゃったんですか?」
「土地を違法な値段で売買したからですよ」
成人したら土地を貰えるくらいの知識しかない。ヴァンちゃんは興味が無いのか、器の内側にくっついたプリンをスプーンで綺麗に掬い集めて食べている。おぉ、器がピッカピカになった。一緒に目を奪われていたミナモ様が話しを再開する。
「国の土地は全て同じ値段なのですよ。違うのは上にある建物の値段だけです」
「えっ! そうなんですか?」
「これは……困りましたね。ヒョウキ様、やはり周知徹底が必要のようです」
「そうだな。国民全員に知って貰わないと同じ被害が出る可能性があるな」
お二人共、深刻そうだ。僕が無知で呆れてしまったのだろうか。
「あの、すみません……」
「ニコちゃん、謝る事はありません。お二人共、私と少しお勉強をしましょうか」
「はい、ミナモ先生」
「先生、お願いします」
「ふふっ。なんだか照れてしまいますね」
「はーい、ミナモ先生、俺もお願いします」
「こんな可愛くない生徒はいりません。さようなら」
「いいじゃんか、混ぜろよ。先生役でもいいからさ」
「しょうがないですね。お静かにお願いしますよ」
力関係が逆転している。やっぱりミナモ様の方が強いのだ。
ニコ&ヴァンちゃん、あっさりです。高笑い以外に興味など無いっ! ですね。
ヨーグルトとかアイスも器ピッカピッカを目指すヴァンちゃんです。
舐めた方が早いなぁ。でも、お行儀悪いしなと思いながら掬ってます。
次話は、ミナモ先生とお勉強です。
お読み頂きありがとうございました。




