0015.おっちょこちょい大魔王
慌ててヌンチャクを構えようとした僕の眼前を白い体が通る。飛び蹴りで見事に僕を救ってくれた相手は物凄く怒っていた。
「こら! ニコ、危ないだろっ。せっかく助かったのに、命を棒に振るつもりか!」
拳骨を頭に落とされる。でも、全然痛くない。喜びの方が上回っている。
「ヴァンちゃーん、良かったよぉー」
「ニコ、俺は怒っているんだぞ。ニコはおっちょこちょいだから気を付けろといつも言っているだろ。――おい、話を聞け」
耳を引っ張られたけど構わず更に強く抱き付き、頬擦りし続ける。
「まったく……はぁ、無事で良かった」
溜息を付きつつ、最後は優しくポムポムと背中を叩いてくれる。
「だから、危ないと言っただろう」
そう言いつつ、ダーク様が僕の頭を軽く小突く。そして、今度はヴァンちゃんの頭を撫でる。
「よくやったな。無事で良かった」
「ありがとうございます。でも、国宝の魔法剣を取り戻せませんでした。申し訳ございません」
ヴァンちゃんは僕を引き剥がすと、深々と頭を下げる。
「気にするな。国宝だろうが何だろうが道具は使う為にあるんだ。あれは、きっちり役割を果たした。それに、お前の命が助かるなら、国宝なんぞ幾らでもくれてやる」
くーっ、かっちょいい! 僕も言ってみたいなぁ。ヴァンちゃんも感じ入ったらしく、また深々と頭を下げる。そんなヴァンちゃんを優しい眼差しで見てから、ダーク様は皆に声を掛ける。
「魔法使い達は建物を補強、兵士は瓦礫の撤去を行ってくれ。先程も言ったが魔物の残党に気を付けろ。白族達は新たに祭壇を設けるから俺に付いて来い。いいな?」
皆が諾の声を上げる。ヴァンちゃんに再度ひっつき、ダーク様に続いて歩きながら後ろを振り返ると、赤いドレスの女性が居た。お城の人だったのかな?
「ニコ、転ぶから前を見て歩け」
そう言って、ヴァンちゃんがグキッと僕の首を前に向ける。
「痛いよー、ヴァンちゃん」
「文句は受け付けん。この、おっちょこちょい大魔王」
その言葉に先を歩くダーク様の肩が揺れている。
「さっきの事なら謝るから、そんな渋面しないで。ねっ?」
「ふんっ、俺はいつもこんな顔だ」
「そんなー、ねぇ、こっち向いてよ」
完全にそっぽを向かれてシュンとしていると、仲間達が僕とヴァンちゃんに次々と抱き付いてくる。
「まぁまぁ、皆が無事で良かったじゃん。なっ、ヴァン」
「そうそう、ニコのおっちょこちょいは今に始まった事じゃないんだし」
「酷いよ、みんなして! ちょっとは褒めてくれたっていいと思う」
「あー、良くやった。エライ、エライ」
「凄い棒読み!」
僕が頬を膨らませていると、ヴァンちゃんがブシュッと指をさしてくる。ブヒューと空気が抜けたのが面白かったのか――。
「ぶはっ――こ、今後に期待する」
無理やり笑いを押し込めてヴァンちゃんがそう言う。珍しくツボに入ったらしく、ひたすら肩が揺れている。許して貰えたけど釈然としない……。そんな事を思っている内に、回廊で繋がれた隣の塔の部屋に着いた。
「さあ、着いたぞ。人数を確認しろ。全員いるか?」
僕はキョロキョロと見回す。うん、皆いるな。無事で良かった。
皆様、予想は当たりましたか? 助けたのはヴァンちゃんでした!
ニコちゃんがまだ女性の正体に気付かないので、引き続きお口チャックでお願いします(笑)。
次話は、ニコちゃんが疑います。
お読み頂きありがとうございました。




