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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第三章 クマの花屋
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0158.し、知らないもん……

「すみません。魔国より外交部に書類をお届けに上がりました」


「外交部ね。この角を曲がって――そうだ、通達があったんだ。悪い、この子を案内してくるから頼むな」


「ちょっと待った。お前、無精髭で注意されていただろ。チェックだ」

 

 同僚の人が厳しい目でチェックしている。このお城は髭禁止なのだろうか? 僕は毛で覆われているけど大丈夫かな? 自分の頬の毛をモフモフと触っていると笑われてしまった。


「君は大丈夫だよ。むしろ剃ったら大変な事に……ぶはははっ」

 

 想像してしまったようだ。確かに直視出来ない顔になるかも。ツボに入ってしまったらしく笑い止まない。


「……ほっとこうか。さぁ、行くよ」


 桃の国はお城も色鮮やかで、緑や朱に金などがふんだんに使われている。階段が見当たらないから、上ではなく縦横に広いのかもしれない。


 天井は四十センチ位に四角く区切られて、草花や鳥などが多種多様に描かれている。あっ、シンプルなお皿を発見! 近くで見たら、お高い事で有名な青磁だった。よく見るとそこら中にある。なんて恐ろしい城だ……。


「大きい壺ですね。僕が入れそうです」

「確かに。でも、高価だから気を付けてね」

 

 それを聞いて花が描かれた白い壺から距離を取る。僕なら躓いて体当たりなんて事をやりかねないので、なるべく通路の端っこは通らないようにしよう。それにしても、どんどん調度が豪華になっていくし、警備の人も増えて来た。一体、どこに向かっているのだろう? ……まさかね?


「失礼致します。魔国からの御使者をお連れ致しました」

「どうぞ、入って」

「失礼致します」

 

 部屋に入るとお香のいい匂いがする。衝立があって中が見えないので、コソッと端っこから覗いてみる。あれ? 誰も居ない。


「ニコちゃん、いらっしゃい」

 

 上から声が降ってきたので見上げると、モモ様が微笑みながら衝立の上部に両腕を載せて僕を覗き込んでいる。コソッとしていたのがばれた! あわあわしていると捕獲されてしまった。


「もう、何でそんなに可愛いの? ――ああ、そうだ。案内してくれてありがとう。戻って大丈夫だよ。……今日はちゃんと髭を剃れているね。今後も気を付けてね」


「は、はい。失礼致します」

 

 青くなりながら慌てて帰って行く。忙しいのに申し訳ない事をしてしまった。帰る時に飴をあげよう。


「ヴァンちゃんは一緒じゃないの?」

「はい。別々に配達しています。ここが外交部なのですか?」

「違うよ。ここは王の執務室」

「えっ……」

 

 まさかと思っていた事が現実になってしまった。


「ニコちゃんとヴァンちゃんが配達に来てくれた書類は、全て私が受け取る事にしたからね」

 

 手回しをすると言っていたけど、こういう事か。よっぽどモフモフした生き物が好きなんだなぁ。


「こちらが書類になります。サインをお願いします」

「うん。――どうぞ」

 

 ざっと目を通してサインしてくれる。宰相様だから、どの部署の書類でも理解出来てしまうのだろうか?


「――おい、動物を入れた奴は誰だ? モモ、お前か?」

「白族の子だよ。可愛いでしょう」

「ん? 獣族か」

 

 目つきの悪い男の人が顔を近付けて来て、僕をじっと見る。うぅ、気まずい。


「もう見ないで。――怖かったでしょう? 目つきと口が悪い王様だけど、暴力は振るわないから安心してね。してきても私が必ず守ってあげる。腕一本ぐらいだったら問題ないと思うしね」


「大ありだ。お前の方が怖いわ。それで、何で白族がここに居るんだよ?」


「魔国からの書類を持って来てくれたからだよ。これからも来ると思うから邪険にしては駄目だよ」

 

 怪しげに僕を見ていたが、腕の腕章を目にして納得した様に頷く。


「用事が終わったなら帰れ」

 

 しっしっと手を振られて、嫌われちゃったのかとシュンとする。


「――ねぇ、謝って?」

 

 微笑んでいるけれど雰囲気が真逆だ。心なしか寒気がする。


「あ? 何を謝るんだ?」

 

 悪気が無かったようで心底不思議そうな顔をしている。何だ、あれが通常の反応だったのか。

 

 だが、その返答はモモ様の怒りに油を注ぐ形になったようだ。室内が霜で覆われていく。魔法なの⁉ と戸惑っていると、そっと床に下ろされる。その直後に王様が派手に後ろへ転び、ゴツッと頭を打つ。えっ、一体何が起きたの⁉ 刺客⁉


「そんな事も分からないの? 嘆かわしい……」

 

 いつ移動したのか、ナイフを王様の首筋にぴたりと当てたモモ様が囁く。ひぃー、誰か助けて~。朱の一族の人が怖いよ~。刺客はモモ様だったよぉ(泣)。


「しょ、しょーがねぇだろ! 本当に分からないんだよっ」


「はぁ、残念な人……。しっしっと手を振ったでしょう。それすらも覚えていないの?」


「はぁ⁉ あんなの普通だろ。なぁ?」

 

 何で僕に振って来るんですかっ。傷付きましたなんて答えられる訳がないでしょう! 斬られちゃいますよ! と言いたい。


「うん、分かったよ。今すぐ罰を与えるからね」

「「えぇーーーっ!」」

 

 王様と声が重なった。必死で王様と協力しながら説得する。誤解です、悪気は無かったのでお許し下さいと繰り返し、やっとナイフをしまって貰えた。


「お婆様に再教育をお願いしておくね。これじゃあ酷すぎるもの」

「なっ⁉ それだけは止めろ! いや、止めて下さい!」

 

 敬語になるとは、モモ様より恐ろしい人という事か……。遭遇する前に帰ろう。


「配達が残っているので、僕はこれで失礼致します」

 

 王様が縋り付くような目で僕を見る。同士として認識されてしまったようだ。だが、巻き込まれたくないので、そっと目を逸らすと視線がグサグサと突き刺さる。し、知らないもん……。


「また来てね。美味しいお菓子とお茶を用意しておくよ。最後に抱き締めさせて?」

 

 モモ様に腕を伸ばすと破顔して抱き締めてくれた。王様が驚愕の表情で見ているけど、どうしたのだろう? お仕置きとの落差が激しすぎる所為だろうか? 取り敢えず、この隙に帰ろう。


邪険にしてはいけないと言われた直後にやってますね。

悪気はなくてもニコちゃんが傷付いたので容赦なくおしおきするモモでした。

桃の国も宰相様の方が王様より強いですね。その所為か妙な連帯感が。ニコちゃん、ダッシュで逃げました。


次話は、ダークが魔物退治を断ります。


お読み頂きありがとうございました。

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