0155.朝の体操
急いで着替えて外に出ると、僕達に気付いたダーク様が準備運動を中断して近付いて来た。
「ニコ、涎で毛がガビガビだぞ」
「ほにょ⁉」
慌てて頬を触ると毛が固まっている。うぅ、恥ずかしい……。
「ヴァンも寝癖が凄いな。二人共、俺がまとめて面倒を見てやろう」
頭部を魔法で作りだされた温かい水球に包まれて丸洗いされた。驚き過ぎて少し残っていた眠気が綺麗に吹っ飛んだ。ヴァンちゃんは不思議そうに自分の頬を撫でている。何故、水の中なのに普通に息が出来たのだろう?
僕達が驚いている間に櫛を借りて来たダーク様が、水気を一気に飛ばしてから、せっせと梳かしてくれる。
「よし、こんなものか?」
僕達を撫でて満足そうに頷く。どうもお世話になりました。
早速、走りに行こうとするダーク様を引き止める。
「お待ち下さい。これから森の皆と一緒に体操をするんです」
「あの熊も来るのか?」
「もう来た」
ヴァンちゃんが指さす方向を見ると体中に森の皆を引っ付けた熊さんが現れる。狐さんを小脇に抱えている姿がなんともシュールだ。
「あの熊は肉食じゃないのか?」
「草食ですよ。アケビが好きなんです」
「この前は山芋を掘って川で洗ってから、長いまま端からシャクシャク嬉しそうに食べてた」
「熊のイメージが崩れるな……」
全員が一定間隔を取った所で始める。ダーク様は初めてなので見学だ。
「チャンチャラチャチャチャ――――チャチャチャン♪ はいっ」
「――一、二、三、四」
「ガウ、ガウ、ガウ、ガウ」
みんな体の形が違うので出来る範囲で体操だ。唯一、ちゃんと出来るのは熊さんぐらいか。一通り終えて深呼吸だ。今日も良い体操だった。
森の仲間達は満足気に熊さんに引っ付き帰って行く。今度はウサギさんが小脇に抱えられている。お尻が可愛い。
「なぁ、ニコが最初に歌っていたのは何だ?」
森に消えていく熊さんの後ろ姿を見送っていたダーク様が、僕達に向き直り不思議そうに聞いてくる。
「ラジオ体操の始まりには必須の曲です」
「ラジオ体操?」
「カハルちゃんに教えて貰った。向こうの世界で有名な体操らしい」
「へぇ。カハルがやっている所を見てみたかったな。これが終わったら走るのか?」
「はい。そろそろ熊さんが戻って来る頃かと」
片方の眉毛をひょいっとダーク様が上げる。どうやら興味が湧いて来たようだ。
「ガウ」
「それじゃあ行きましょうか。よーい、どんっ!」
僕達は一斉にズダダダッと走り出す。あっ、ダーク様に説明するのを忘れた! 慌てて振り向くと余裕で付いて来ている。
「ダーク様、すみませ~ん」
「気にするな。どこへ向かうんだ?」
「畑まで行って引き返します」
「了解」
二足で走っていた熊さんが楽しくなってきたのか、四足に変えて一気にスピードを上げる。負けるものか~! と思ったのは僕だけではないらしく全員のペースが上がっていく。
「うりゃーーー‼」
頑張って熊さんを抜く。僕がトップ! だが、次の瞬間にはヴァンちゃんに抜かれる。そんな僕たちを余裕でダーク様が抜いて行く。もーっ、足長さんめ!
「ガオーーーーッ」
闘志に火が付いた熊さんがとうとう本気を出した。物凄い勢いで僕達を引き離していく。馬さんと同じ位のスピードが出ているんじゃないの⁉ だが、火が付いた人はもう一人居た。ダーク様がニヤリと好戦的に笑って追い掛けて行く。いやいや、人間が追い付ける速さじゃな、いーーーッ⁉
「追い付いたよ、ヴァンちゃん!」
「おぉ、凄い」
そのままの勢いで走って行き視界から消えてしまった。
「人間なの?」
「たぶん?」
僕達はいつものペースに戻し畑まで辿り着く。一体、どちらが勝ったのだろうか?
「どっちが勝った?」
ヴァンちゃんが興味津々で熊さんとダーク様を交互に見る。
「俺だ。まぁ、俺は魔法を使ったからな。普通に走っただけなら完敗だ」
「ガウー、ガウウ、ガウガウ」
「魔法も実力の内ですよ、だそうです」
「ははっ、そうか。帰りは普通の速さで帰るか。そうだ、シンに卵を貰ってきてくれと頼まれたんだが、ニワトリはどこに居るんだ?」
「でしたら、僕がご案内しますね」
「ああ。頼む」
途中で熊さんは住処に帰り、僕達はニワトリさんの所に向かう。果たしてニワトリさんはダーク様にどのような反応を示すのだろうか? 実に楽しみだ。
朝の日課の体操とランニングです。影からこっそり見たい……。
ダークは熊さんがお気に入りですね。一緒に走った事で親密になれたようです。
次話は、ダークがモテモテです。
お読み頂きありがとうございました。
 




