0151.シン様のお願い?
最近、僕とヴァンちゃんはびっくり箱のようなシン様達に慣れてきた所為か、立ち直りが早くなった。
僕には肩を、ヴァンちゃんには足をぽしぽしと叩かれてモモ様が柔らかい笑みを浮かべる。
「君達は本当に可愛いね。裏表もなくて癒されるよ。ずっと私の側に居て?」
「駄目。カハルちゃんの側に居る」
「僕もです」
「契約期間が終わっても駄目? 美味しい物をいっぱい食べさせてあげるよ」
「こら、モモ。この子達を困らせないの」
「はぁ……。悲しい」
僕達への勧誘に気付いたシン様が間に割って入る。モモ様の悲し気な表情に道行く女性が苦しそうに呻いて胸を抑える。ハートを射抜かれたようだ。恐るべし、魔性の男。
シン様に無理やり腕を引っ張られながらモモ様が付いて行く。お姉さま方が目をキラキラさせながら、その様子を眺めている。いたたまれない。
「困らせたお詫びにお菓子を買って」
「喜んで」
シン様のお願い? にモモ様が微笑んで答える。
「みんな、好きなお菓子を持っておいで。私のお薦めはクルミが沢山入った月餅だよ」
「この丸いのですか?」
「そう。この国独特のお菓子だよ」
じゃあ、これにしよう。クルミがいっぱい入っているとは楽しみだ。ヴァンちゃんはねじねじしたお菓子を手に戻って来た。
「ドーナツ?」
「ドーナツではなくて、麻花という固い揚菓子だよ」
カリカリしたものや噛み応えがある物が好きなヴァンちゃんが喜びでシッポを振っている。
「これにする」
シッポに気を取られた店員さんが足を引っかけたのか、どしーんと仰向けに転んだ。なんと、この国にもシッポ愛好家が居たのか! 転んでもシッポから目を離さないとは見上げた愛好家魂である。
そんなドタバタもありつつ、クマちゃんは干し杏を買って貰い、嬉しそうに胸に抱いている。
「もう帰ってしまうの? またこの国に来てくれる?」
「勿論です」
「ご飯美味い」
「そんな顔をしなくても連れて来てあげるよ。この子達が気に入ったみたいだし。ね、クマちゃん?」
「モキュ。今度は土の国にも来てほしいでキュ。お花屋さんをするのキュ。開店したら、お知らせするキュ」
「是非、行くよ。そこに君達も居るの?」
どうだろうか? ヴァンちゃんと顔を見合わせる。
「俺達、城の書類配達をしている。この国に配達があれば来るかも」
「本当⁉ じゃあ、手回ししておくよ」
どんな手回しをするつもりなのか、非常に良い笑顔だ。
「ミナモに迷惑を掛けるつもりなら、この子達は一切近寄らせないからね」
「そんな事はしないよ。約束する」
疑わしそうにしながら、シン様が僕達を手招く。定位置にひっつくのは完了しました。いつでも、どうぞ!
「それじゃあね」
羨ましいと呟くモモ様に手を振られて桃の国を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
家に帰ると、既にセイさんが帰って来ていて串を手に作業している。その側ではダーク様が土で四角の囲いを作っている。何をするのだろう?
「ただいま。セイ、もう捌いちゃった?」
「ああ。これから串を刺す所だ」
「変わろうか? お土産食べていいよ」
「いや、やらせてくれ。タレを作って貰えると助かる」
「うん。ダークもありがとうね」
気にするなと片手を上げると、黙々と作業を再開している。皆でしゃがみ込んで見ていると炭をザラザラと入れている。何か焼くのかな?
「皆はお風呂に入っておいで。ダークも入っていく?」
「ああ。泊まっていってもいいか?」
「いいよ。服は持って来た? 無いなら貸してあげるよ」
「大丈夫だ。いいと言ってくれると信じて持って来た」
「ふふっ。じゃあ、ゆっくり浸かっておいで」
ダーク様にまとめて抱えあげられて連れて行かれる。……あれ、機嫌が悪い? いつもより少し行動が荒い。
「ダーク様、何かあった?」
ヴァンちゃんも気付いたようで顔をじーっと見上げている。少しだけ目を見開いたダーク様が苦笑する。
「お前達、いつの間に俺の事をそこまで詳しくなったんだ?」
「自然と?」
あっさりとしたヴァンちゃんの返答に気が抜けたのか、腕が緩む。
「風呂で話す」
魔性の男、凄いですね。噂の所為で、シンと恋仲⁉ とお姉さま方が思っています。
いたたまれないニコちゃん、頑張れ(笑)。
桃の国にも居ました、シッポ愛好家! 今後もどこかに現れるかも?
次話は、ダークの不機嫌の理由です。
お読み頂きありがとうございました。
 




