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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第三章 クマの花屋
142/390

0141.メイド魂

「あれ、ニコ?」

「あっ、ヴァンちゃん! 配達の途中?」

「うむ。昼ご飯に戻る所。クマちゃんの用事は終わった?」

「モキュ。無事に終わったのキュ」

「俺は専用魔法道で行くからまた後で」

「うん、またね~」


 一般用は混んでいるからヴァンちゃんが先に着いちゃうな。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ただいまでキュ」

「ただいま戻りました」

「お帰りなさい。営業許可は貰えましたか?」

「これを見てキュ。営業許可証キュ。ピカピカキュ」

 

 ミナモ様と一緒にヴァンちゃんも興味深げに覗き込む。


「紙じゃない」

「そうなのですよ、ヴァンちゃん。簡単に偽造が出来ないように魔法を施したり、金属の配合などが色々と工夫されています。クマちゃん、ありがとうございます。お返ししますね」

 

 受け取って鞄に入れると大事そうに撫でている。開店に向けて一歩ずつ進んでいるのが嬉しいのだろう。


「お二人は昼食をもう食べましたか?」

「いえ、まだです。クマちゃん、売店にパンを買いに行きますか?」

「そうでキュね。売店は初めてなのキュ」

 

 執務室を出ようとすると、ちょうどノックがされる。


「昼食をお持ち致しました」

「どうぞ、入って下さい」

 

 あれ? メイド長さんの声じゃない。初めて聞く声だな。ぶつからないように急いで横に移動していると、ワゴンと共に真っ白い服に身を包んだ人が入って来た。


「失礼します」

「あれ、料理長じゃん。珍しいな」

「メイド長が今は手が離せないとの事で私が参りました」

 

 ヒョウキ様が驚いた顔をして見ているその人は、大きな狼さんだった。うわぁ、狼族だ! しっぽが長くてフサフサで、灰色のツヤツヤな毛並みも見事だ。背が大きいなぁ。


 僕達の熱視線に戸惑いながらもキビキビと配膳していく。


「本日はミートソーススパゲティとサラダ、デザートにフルーツの盛り合わせとなります。スパゲティはお替りがございますので沢山召し上がって下さい」


「でしたら、ニコちゃんとクマちゃんもスパゲティを一緒に食べましょう。フルーツも私のを分けっこしましょう。いかがですか?」


「是非! クマちゃん、良かったですね」

「モキュ。ミートソースいい匂いなのキュ」

「では、お皿やフォークをお持ち致します。少々お待ち下さい」

 

 自分で行きますと言う前に大股で歩いて行ってしまった。歩くの速いなぁ。


「ほれ、座れ。今日の成果を聞かせてくれ」

 

 ヒョウキ様に促されて椅子によじ登る。ヴァンちゃんも興味深げにクマちゃんの話を待っている。


「今日はでキュね、産業部に行って営業許可証を貰ったキュ。部長さんが鼻血で大変だったキュ。それと――」


「おい、クマ待て。鼻血って喧嘩沙汰でもあったのか?」

「ヒョウキ様、違います。クマちゃんの可愛さにやられたんです。肉球を見せた時は凄かった……」

 

 ミナモ様は疲れたようにおでこに手を当て、ヴァンちゃんは「ほぉー」と頷いてクマちゃんの肉球をプニプニと触っている。


「土の国の産業部部長って女性だったよな?」

「はい。いつも元気いっぱいでキリッとした方ですよ」

 

 イメージが崩れたのかヒョウキ様が微妙な顔をしている。


「――お待たせ致しました。どうぞ」

 

 微妙な空気の中、湯気が漂うスパゲティのお皿が目の前に置かれる。


「フルーツの代わりに、こちらのチーズケーキをお召し上がり下さい」

「わぁ、ありがとうございます。はぁ……いい匂い」

「話は後にして食べるか。いただきます」

 

 ヒョウキ様に続いて、いただきますをして、スパゲティをフォークにクルクルと巻く。ちょっと多く巻き過ぎたかな? いや、僕の口ならいける! はむっ。


「――っ、おいふぃ~~~!」

 

 クルクルしては食べ、クルクルしては食べをしていると早々に終わってしまった。一口が多すぎたかな?


「お替りはいかがですか?」

 

 料理長さんの言葉に僕とヴァンちゃんとクマちゃんが同時に顔を上げると、ヒョウキ様がゴフッと異音をさせている。喉に詰まった⁉


 ミナモ様が驚いて顔を上げて僕達を視界に収めた途端、顔を背け咳き込んでいる。大変だ、水、水!


「わ、私が……ぐっ、は……」

 

 料理長さんが苦しげに水を渡している。んん? 料理長さんは食べていなかったよね? 僕達三人は首を傾げつつモグモグとサラダを食べる。このレタスはシャキシャキだな。次はキュウリにしてみよう。シャクシャクシャク……。


「……ごほっ、だー、苦しかった……。お前達、お互いの顔を見て何とも思わないのか?」

 

 顔? 見事に口の周りの毛がミートソースまみれですな。ニヒルに笑ってヴァンちゃんのように喋ってみる。


「ふっ、これが僕達の日常」

 

 なんかイマイチだったなぁ。俺にしとけば良かったかな? まっ、いいか。サラダもお替りあるのかなぁ?


「フッ、日常」

「フッでキュ。あー、キュって言っちゃたキュ」

 

 ヴァンちゃんとクマちゃんも僕の真似をしてニヒルに笑う。三人でニマニマ笑いながらお替りを完食した所で、メイド長さんが部屋に入って来た。お仕事が一段落したのかな?


「失礼致し……」

 

 僕達を見てメイド長さんの言葉が途中で止まる。僕達に視線を向けないようにしているヒョウキ様に、メイド長さんがにっこりと笑い掛ける。


「ヒョウキ様、軽減の札はございますか?」

「あるけど、重い物を持つなら俺が運んでやるぞ」

「いえ、貸して頂くだけで十分です」

「一枚でいいのか?」

「二枚でお願い致します。――ありがとうございます」

 

 もう一人のメイドさんを呼ぶと札を一枚渡し、僕達へと向き直る。その笑顔にビクッとしたのは僕だけでは無かった。恐々と伺う僕達を有無を言わさず抱き上げるとスタスタと歩き出す。


「モキュ? モキュッ⁉」

 

 クマちゃんが焦ったように声を上げ、僕とヴァンちゃんを交互に見る。一緒に抱っこされているヴァンちゃんが諦めたように首を横に振る。


「もう逃げられない。諦める、クマちゃん」

 

 僕達のミートソース汚れはメイド魂に火を点けてしまったようだ。お風呂場の洗面所に連れて行かれ、お湯で丁寧に洗われる。


 真っ白でフワフワになった毛を優しく整え終わると、満足そうに頷いている。


「メイド長、完璧ですね」

「ええ。綺麗になって良かったわ」

 

 満足そうなメイド長さんを見て悪戯心が湧く。どうしようかな? やろうかな? よーし、やっちゃえ!


「ご苦労だったね。リリー」

 

 目を少し見開いて驚いたメイド長さんが、すぐにのってくれる。


「ニコ様にご満足頂けたのなら何よりでございます」

「そうか、そうか。儂も嬉しいよ」

 

 低めの声で喋るのは難しいな。でも、もうひと頑張りしちゃうもんね。


「褒美におやつを一緒にどうだ? 時間はあるかね、リリー?」

「ニコ様の為でしたら何を置いても参ります」

「そうか、待っているぞ。うひょひょひょひょひょ」

 

 もう一人のメイドさんがずっと笑いを堪えてプルプルしていたけど、僕の高笑いに崩れ落ちてお腹を押さえている。


「ニコ、そこは『フッ』にする」

 

 ヴァンちゃんの冷静な突っ込みにポンと手を打つ。そっちの方が良かったかも。


「何でうひょひょキュ?」

「貴族の人がこうやって笑っているのを町で見かけた事があるんですよ。男の人なのに物凄く高い声でしたよ。こんな感じで、うひょ――」

 

 もう一回高めの声で笑おうとしたらメイド長さんに止められる。


「それ以上は止めてあげて下さい。息が吸えなくなってしまいます」

 

 見ると崩れ落ちたメイドさんが苦しそうに笑い泣きながら、床をバシバシと叩いている。うん、これ以上は止めておきます。


 ヴァンちゃんに背中を撫でて貰って復活したメイドさんから、軽減の札を預かったメイド長さんが、僕達をまとめて抱っこしてくれる。


「執務室に戻りましょうか」


新たなモフモフ、狼族の料理長です。モフモフが増えてきたぞ~(∩´∀`)∩

ミートソース汚れはメイドの敵。有無を言わせず連行です。

メイド長、ノリがいいですね。


次話は、クマちゃんのお土産を配ります。


お読み頂きありがとうございました。


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