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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第三章 クマの花屋
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0140.大きくなりたい

「助けが無い時はいつも一生懸命に歩いているのですか?」

 

 兵士さんが心配そうに聞いている。それは僕も気になる。『ニコちゃん達に手助けして貰う事が当たり前になり過ぎると、クマの為にならないキュ』と言われていたから、一人で行くと言った時に付いて行くのを我慢したけど、クマちゃんだけだと本当に大変だろう。


「そうでキュ。でも、町中だと猫さんや犬さん、鳥さんの背中に乗せて貰う事が多いでキュ。土の国は動物さんが多いって聞いていたから、一人でも大丈夫って思ったでキュ」

 

 見回してみると確かにいっぱい居る。犬さんと猫さんに野良は居ないので、それだけ飼っている世帯が多いという事だ。んっ? もしかして、この熱い視線はモフモフ大好きな人が多い所為かも?

 

 悩んでいるとお肉を焼く良い匂いがする。何処からだろう? クンクンとしてハッとする。いけない、いけない。誘惑に打ち克たなければ。そんな僕の前を大きなお肉が幾つも刺さった串を持ち、齧り付く人が横切る。絶対、いい匂いをさせている店で買ったやつだ! あ~、涎が出そうです……。

 

 無理やり視線を引き剥がし、クマちゃんを抱え直して右手を下げると、ポケットに当たってカサッという音がする。そうだ! ヴァンちゃんに貰った飴があった。これで凌ごう。


「クマちゃん、飴どうぞ」

「ありがとキュ。――イチゴ味でおいしいキュ」

 

 僕とクマちゃんは満面の笑みで歩いて行く。流石、ヴァンちゃんだ。こうなる事が分かっていたとしか思えない。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「そこが売店だよ。この後は魔法道に行くのかな?」

「はい、そうです。守って頂き、ありがとうございました」

「ありがとキュ」

「どういたしまして。それじゃあ、気を付けて帰って下さいね」

 

 手を振って走って行く兵士さんを見送る。良い人だった。


「いらっしゃい。ゆっくり見て行って」

 

 会釈してクッキーを探す。う~ん、どれだろう? クマちゃんと一緒に隅々まで探しても見付からない。もう売り切れてしまったのだろうか?


「すみません。銀行の裏手にあるお店のクッキーは売り切れですか?」

「ああ、ごめんね。人気があるから、さっき売り切れちゃったんだよ」

 

 クマちゃんとガクッと項垂れる。クッキー……。


「あぁ、そんなに落ち込まないで。同じ店で作られているレーズンサンドが一箱だけあるんだよ。それに、他の店のだけど、このアーモンドの載ったクッキーもお薦めだよ。試食してみて」

 

 丸まる一粒アーモンドが載っている小さめのクッキーに齧り付く。サックサックでアーモンドも飴でコーティングされていて、カリカリしていて美味しい。お薦めなだけある。


 クマちゃんを見ると必死でアーモンドに齧り付いている。歯が折れないか心配だ。ナイフでアーモンドを削ってあげるべきか?


「貸してごらん。包丁で小さく切ってあげよう」

「おじちゃん、ありがとキュ。あきらめようかと思ってたでキュ」


「口がちっちゃいもんな。――よいしょっと。この大きさなら入るかい? いや、まだ大きいな。――はい、お食べ」


「ありがとキュ。――おいしいキュ~。カリカリでキュ」

「だろう? おじちゃんもそれが好きでね」

 

 クマちゃんが満足気に食べ終えたところで聞いてみる。


「お土産はどれにしますか?」


「おじちゃんのお薦めのクッキーとレーズンサンドとしょっぱいナッツにするキュ」


「合わせて千七百圓だよ」

 

 頷いてお金を差し出そうとするクマちゃんを止める。


「僕も出しますよ」


「これはお礼だから駄目キュ。ニコちゃんは食べる人なのキュ。おじちゃん、お願いしまキュ」


「はい、ちょうどね。こっちの子に持って貰おうね」

 

 戸惑うクマちゃんに笑って頷いておく。


「持つのだけでもやらせて下さい。僕はリュックですから」

「ごめんキュ。クマも今度はリュックを背負うキュ」

「いやいや、止めときなって。後ろに転がったら大変だよ。こういう時は甘えとけばいいんだよ。その代わり、クマちゃんが得意な事で助けてあげればいい。な?」

 

 おじさんの言葉に僕が深々と頷くと、諦めたようにクマちゃんが呟く。


「もっと大きくなりたいキュ……」

 

 僕も小さいから気持ちは良く分かる。でも、そんな自分を肯定してあげて、この小ささをどう生かすか、強みにするかが大事なのだと思う。


「クマちゃん、嘆くのではなく感謝しちゃえばいいんです。小さくて良かったなと思った事は一つもないですか?」


「モキュ? 良かった事……。届かなくて困っていると皆が助けてくれるキュ。それで仲良くなったりもするキュ。後は、狭い所に入ったものを拾えるキュ」


「うんうん。それに服の布も少なくて済みますし、食費もそんなに掛かりませんし、混んでいても人の足の間をすり抜けていけます」


「でキュね。さっき、おじちゃんも優しくしてくれたキュ」

 

 その言葉に微笑んだおじさんが僕達の話を興味深げに聞いている。


「人間やもっと大きい獣族でも、クマちゃんが出来る事を出来ない人もいます。例えばあんなに綺麗なお花を育てる才能だってそうです。上手く言えませんけど、身長とか種族とかは関係無いと思うんです。ないものねだりって言うか……。皆が自分の得意な事をして助け合っていけばいいと思うんです」

 

 クマちゃんが黙って言葉を咀嚼している。ちょっとでも伝わっただろうか? 駄目じゃないんだよという事が。


 しばらくしてから、クマちゃんがコクンと頷く。


「クマはクマに出来る事を精一杯やって、皆と助け合うでキュ。もっと人に頼る事もやってみるでキュ」

 

 クマちゃんは今まで人に頼る事をよしとしていなかったのだろう。きっと、いつも心苦しく思いながら親切を受け取り、自分に溜息を吐く事を繰り返して来たのだろう。


 でも、僕はいつも一生懸命で優しいクマちゃんだから自然と助けてあげたくなるのだ。嫌々やっている訳でもない。それで笑顔になったり、嬉しくなって貰えたら、僕も最高に嬉しい。


「それじゃあ、帰りましょうか」

「モキュ。おじちゃん、ありがとうキュ」

「どういたしまして。……小さい事を恥じるなよ。気を付けてな」

 

 おじさんがクマちゃんの頭を照れくさそうに撫でると、びっくりして固まった後に、弾けるような笑顔を見せてくれた。


ヴァンちゃんの飴が役に立ちました。ずっと、一緒に過ごして来たので、行動を読んでいますね。

欲しかったクッキーは売り切れでしたが、美味しい物がゲット出来ました。


つい、他の人と比べたり、羨ましい気持ちになったりする事もありますが、自分だって素晴らしい存在だと思うんですよ。人間て一括りされていますが、この世に一人しか居ないから絶滅危惧種みたいなもんですよ。超貴重ですよ!(笑)。比べるなら少し前の自分と。ちょっと良くなったらべた褒めして感謝してもいいじゃないですか。こんな事を語る作者も相当な変わり者ですが、それでよし! 自分、ありがとう!(笑)


次話は、メイド魂に火が点きます。


お読み頂きありがとうございました。

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