0013.赤いドレスの女性
意を決し飛び出そうとした僕の目の前に、艶やかな長い黒髪が広がる。シンプルなAラインの赤いドレスを着た背の高い女性だった。その人は赤い剣を召還すると、歓喜の声を上げ噛み付こうとしている魔物を一刀両断した。そして、気絶した子をそっと抱き上げると近くの子に渡す。
その間も風の刃は間断なく弱った結界を襲い、大きな亀裂を生んでいた。次の攻撃で完全に無防備になってしまうだろう。だが、鏡の魔物が放った風の刃を女性は剣の一振りで軽々と弾くと、綻び始めていた結界に手を翳し一瞬で直してしまった。唖然と見上げる僕達にその人は鮮やかに笑い掛ける。
――んっ? 何か見た事あるような? そんな僕の耳に拍手の音が聞こえる。見ると、鏡の魔物が愉快そうに手を叩いている。
「そうだ、その姿でなければ。ほれ、もっと近う寄れ。その顔を近くで見せよ」
「お望みのままに」
そう答えた女性は、トンと床を蹴り、次の瞬間には魔物の眼前へ姿を現すと、炎を纏った剣を魔物の第三の目に神速で振り下ろす。完全に油断していた魔物は咄嗟に仰け反り、自らの左腕を眼前に差し出す。ザンッと音を立て、斬られた腕が地面に落ちた。
「グオァァァァーーッ」
魔物は血の噴き出る腕を抑え絶叫する。だが、攻撃はそれで終わらなかった。女性の後ろから飛び出したヴァンちゃんが魔物の目を狙う。そして、魔法剣は反応の遅れた魔物の左目にグサリと突き立てられた。
「おのれ、おのれ、おのれぇぇーーーっ」
さっきまでの余裕さをかなぐり捨てた魔物が吠える。そして、体の周りの闇を集め、一気に解き放つ。剣を引き抜こうとしていたヴァンちゃんは反応が遅れ吹き飛ばされる。それだけでは止まらず触手の様な闇が部屋中を駆け巡り、触れる物を全て破壊していく。
「ヴァンちゃん!」
叫んだ僕は次の瞬間、ダーク様の腕の中だった。
「ニコ、魔物が鏡の中に戻り始めた。今のうちに布を掛けろ」
僕は唇をグッと噛んだ。ヴァンちゃんが心配で堪らない。だけど、今はやらなければならない事に全てを注ぐ。きっとヴァンちゃんなら、そうするだろう。
「――行きます!」
「よし、投げるぞ」
僕に気付いた鏡の魔物が憎々しげに言い放つ。
「覚えておれ。我は必ず戻る。その暁には、そこな女と配下の首をペルソナ様の前に並べてやろう。そして、貴様ら白き一族は、ズタズタに引き裂いて根絶やしにしてやろう!」
「ハッ、負け犬の遠吠えだな」
ダーク様は嘲ると、風の魔法を剣に纏わせ強力な一撃を放つ。瓦礫や魔物を次々と弾き飛ばすと、鏡まで一直線に開いた道に僕をブンッと投げる。
素晴らしい勢いで飛んだ僕は、布を広げ魔物が消え去った鏡に飛び付き、グルグルと紐で固定する。
振り向こうとしたその時、とうとう支えきれなくなった上階が崩落した。魔物を倒しながら側まで来ていたダーク様が、咄嗟に鏡と僕に覆い被さる。そして、視界は闇に包まれた。
皆様は女性の正体に気付いてしまったと思いますが、
ニコちゃんが気付いていないので、お口チャックでお願いします(笑)。
次話は、ニコちゃんがピンチです。
お読み頂きありがとうございました。




