0126.ナス爆発
「白ちゃん達とミナモとダークは洞窟と畑に行って、アスパラやピーマンとかを採って来てね。メイド長は僕のお手伝いをよろしく」
皆で頷き、バーベキューの用意だ。新鮮なお野菜を採って来よう。
「二手に分かれるか。ミナモとヴァンは畑に魔法で飛ばす。ニコは俺と洞窟に行くぞ」
ミナモ様に抱っこされたヴァンちゃんと手を振り合い別れる。
「ニコ、行くぞ」
やって来た洞窟内は淡い光で照らされているので作業には困らない。ナイフで次々にアスパラを採って行く。この位かな?
「ダーク様、採れましたよ」
「ああ。俺も終了だ」
籠の中を見るとじゃがいもとかぼちゃと玉ねぎが入っている。
「あぁ~、玉ねぎが居る……」
「そういえば嫌いだったな。シンは無理に食べろとは言わないだろう?」
「はい。あっ、でも、嫌いな僕でも肉じゃがに入っていたのは美味しかったです」
「そうか。じゃあ、試しに食べてみるといい。シンが育てた物なら平気なのかもしれないしな。そろそろ畑に迎えに行くか」
ダーク様の籠にアスパラも入れ、足に抱き付く。目を開くとわさわさと葉っぱがある。ピーマンだ。真っ暗かと思ったら光球が浮いていて非常に明るい。
「収穫は終わったか?」
「はい。沢山採れましたよ」
「ズッキーニ」
ヴァンちゃんが誇らしげにズッキーニを掲げる。そういえば好きだったよね。他にはナスにトマトにトウモロコシなどが籠に満載だ。
「それじゃあ、帰るか。掴まれ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「戻りました」
「お帰り。いっぱい採れたね。ダークは焼く場所を用意してくれる? ミナモ達は野菜を切るのを手伝ってね」
早速、井戸に向かいゴシャゴシャと野菜を洗う。ミナモ様は意外と手際が良い。宰相という地位に就いているけど、家事も出来ちゃうのか。
「ミナモ様は貴族じゃない?」
「はい、そうですよ、ヴァンちゃん。今は爵位を頂いていますが、私は庶民です。一通りの家事は出来ますよ」
どこから見ても庶民には見えない。仕草も綺麗だし、物腰も穏やかだし上品だ。庶民らしい所を探そうと、じーっと見ていたら笑われてしまった。
「鼻に皺が寄っていますよ。昔はよく田舎者と馬鹿にされていたのですよ。悔しいので、その人達よりも貴族らしくなろうとした結果です。ですが、私は庶民で良かったと思っていますよ。民の気持ちにより近く、寄り添える事が出来ますからね」
失礼な事だが、悔しいという言葉を聞くとは思わなかった。優しくて負の感情なんて抱かないような人だと思っていた。僕が思っているよりもずっと熱い人なのかもしれない。
「ミナモは負けん気が強いぞ。中身は非常に好戦的で男らしいんだが、顔立ちや雰囲気が優しげだから勘違いされる」
「ほぉー」
ダーク様の言葉にヴァンちゃんが大きく頷くと、ミナモ様が恥ずかしそうにする。やっぱり、そうは見えないなぁ。
「ダーク様、もう完成したのですか?」
「ああ。魔法でやったから早く終わった」
見るとコの字型に壁が作られ、その上に金網が置かれている。下では炭が赤々燃えているとは、なんたる早業。
「ただいま」
「セイ、お帰り。お酒を買ってきてくれた?」
「ああ。白ワインを買ってきた」
「ありがとう。今日はお客さんも居るからね。下ごしらえを手伝ってくれる?」
「ああ。手を洗って来る」
セイさんを見送り、じゃがいもの皮むきだ。ナイフでショリショリと剥いていく。
「上手だな。村でやっていたのか?」
「はい。僕達の主食だったので毎日やっていました」
ダーク様は優しい顔で頷き、ナスを手に取る。シン様からボールを貰うと、その上にナスを持っていき手を離す。落ちたナスは一センチ位の厚さで縦にスライスされていた。
驚いてナスとダーク様を交互に見る。何が起きたの⁉
「くくくっ、気になるか? ナイフが足りないから風魔法で切ったんだ。結構、上手くいったな」
満足そうにしているけど、魔法をそんなに使って大丈夫なのだろうか? 魔力量が多いから平気なのか。
「俺もやりたい」
「ヴァンもやりたいのか? じゃあ、俺が手伝ってやろう」
ダーク様がナスを持ったヴァンちゃんを抱え込み、腕をそっと掴む。
「いいか? ヴァンの魔力を俺が操作するからな」
興味深げにナスをじっと見ているヴァンちゃんの耳がピクッと動く。魔力が流れているのかな?
「よし、離していいぞ」
パッと手を離すとナスがバラバラとボールに落ちる。
「成功。今度は自分で出来るようになりたい」
ヴァンちゃんがナスを持ち、難しい顔で見つめる。ハラハラと見守っているとナスの真ん中辺りがポンと弾けた。
「あっ……」
ヴァンちゃんが固まった。下半分がボソボソになった所からゆっくりと床に落ちる。
「失敗だな。今回は対象物が小さいから難しかったな」
「おや、失敗しちゃったね。これはスープに使おう。ヴァンちゃん、手に持っているのも頂戴ね」
ヴァンちゃんがそっとシン様の手の平にナスを載せる。滅茶苦茶、凹んでいる。しっぽと耳がヘニャンとしてしまった。
「魔法は練習あるのみだよ。失敗しながら習得するんだから落ち込まないの。次に生かしてくれればいいんだから。ね? 顔を上げて」
シン様がよしよしと頭を撫でる。横で見ていたダーク様が口を開く。
「ヴァン、カハルも魔法で失敗した事があるぞ」
「……カハルちゃんが失敗?」
有り得ないというようにヴァンちゃんが目を瞠る。
「ああ。カハルが幼い頃に、魔物との戦いで大規模な魔法をガンガン使った時があってな。体力を回復させる為に肉を焼くことになったんだ。その時に火力調節を失敗してな。火柱が上がって肉は真っ黒になり、カハルは前髪を焦がした。戦いの時の感覚が抜けていなかったんだろうな」
「そうそう、そんな事があったよね。あの時、凄く落ち込んで膝に顔を埋めて暫く動かなくなっちゃってね。その次の日から、魔力調節の猛特訓をしていたよね」
「ああ。カハル程の使い手でも、ひたすらに練習を重ねていた時期がある。ヴァンもこれからだ。いいな?」
ヴァンちゃんが大きく頷き、じゃがいもの皮をショリショリと剥いていく。良かった、やる気が満ち溢れている。カハルちゃんの失敗談を聞いて、より親近感を覚えた僕も皮むき再開だ。
ミナモは外見と中身のギャップが凄いですね。
優しいだけではヒョウキと共に国を支える事は出来ないのかもしれませんね。
ヴァンちゃんが失敗してしますが、カハルもちょこちょこやらかしています。
次話は、熱々の食材を食べるぞー! です、
お読み頂きありがとうございました。
 




