0119.触手の魔物1
「おはようございまーす」
「おはよう。いい所に来てくれた」
うん? 何だか騒がしい雰囲気だ。何があったんだろう?
「ヒョウキ、まさか……」
「シン、ご名答。その、まさかだ。魔物が復活した。今、ダークにも急いで来るように伝えてある」
そんなぁ、カハルちゃんがやっと元に戻った所なのに……。心なしかカハルちゃんの肩が落ちている気がする。
「ヒョウキ、私も出るよ。大きい姿にはまだ戻れないけど、少しは戦えるよ」
「おっ、カハル、元に戻ったか! でも、魔法は殆ど使えないだろ? 今回は俺と一緒に待機な。シン、セイ、ダークに主に戦って貰う。ニコとヴァンはどうする? カハルと一緒に居るか?」
「僕達も戦います。攻撃支援なら出来ると思うので。ねっ、ヴァンちゃん」
「うむ、戦う。カハルちゃんは魔物の居る所に連れて行きますか?」
「ああ、そうだ。カハルが居ると魔物が違う所に行かないからな。まぁ、その分、狙われるから結界はきっちり張るけど」
鏡の魔物もペルソナに捧げるとか言っていたから、魔物からすると喉から手が出る程に欲しい存在なのだろう。全くけしからん!
「魔物の特徴を伝えるな。幹部程の強さは無いんだが、再生能力が凄まじい。ちょっと切った位じゃ、あっという間に元通りだ。連続攻撃して近付き、弱点の腹を攻撃すれば再生能力が落ちる。だが、場所が問題でな。魔物は少し浮いているんだけど、腹が真下にあるんだわ。まん丸い奴だから分かりにくいかもしれないが、腹はいつも下にあると思えばいい」
真下って事は転がすしかないよね。でも、浮いているなら無理か。魔法で吹っ飛ばすとかかな?
「待たせたな。作戦会議中か?」
「ダーク、待ってたぜ。あいつは仕掛けでまだ抑えている所だ。ダークの風魔法であいつの腹を攻撃できる様にして欲しいんだけど、どうだ?」
「ひっくり返すのか? 昔に試した事があるんだが、あいつは見た目よりもずっと重いから、あの部屋の規模で使える魔法では無理だな。腹に魔法を直接打ち込めたとしても、魔法耐性が強いうえに触手が髪の毛みたいに生えていて直ぐに再生するから、表面を削るだけで終わるだろうな。剣とかの方がダメージを与えられるんだが、腹に到達させるのが難しいな」
「そうか……。あー、どうすっかな。魔物から吸収した魔力も魔力供給で使っちゃったしな……」
何かいい方法がないものか……。考え込んでいるとヴァンちゃんが何かを閃いたのか、シッポがピンとなる。
「ヒョウキ様、良い物があるかも」
「おっ、何か思い付いたのか⁉」
「この城で新魔法とかを研究している部署の部長がよく爆発させている。部屋に行けば攻撃力が高い物があるかも」
「あー、あいつか。今、キレたメイド長が与えた罰で、実家に追い返されているよな。部下に聞けば分かるか。よし、行くぞ」
ヒョウキ様に抱っこされてヴァンちゃんと共に向かう。
「入るぞ。部長補佐いるか?」
「ヒョウキ様⁉ どうされましたか? まさか取り潰し⁉」
「いやいや、違うから落ち着け。お前達の所の困った部長がよく爆発させてるだろ。攻撃力が高い物を優先的にくれ」
皆さん戸惑って顔を見合わせているが、部長補佐さんがキッと顔を上げる。
「部長が隠している物をこの際に出してしまいましょう。それが私達の幸せへと繋がります。さぁ、皆さん、場所は分かりますね? 直ぐに持って来て下さい」
部長、バレバレだ。隠し事が下手そうだったもんな。
その後は、出るわ出るわ。爆発物の山が出来た。流石にヒョウキ様も顔が引き攣っている。
「おい、お前ら、絶対にメイド長にばれないようにしろよ。俺も庇えないからな」
「勿論です。これ以上、メイド長にご心労をお掛けするなんて出来ません。これは全て使って頂いて構いません。攻撃力は保証します。一番弱い物で家が一軒、跡形もなく吹き飛びます」
「……何てもの作ってんだよ……あいつは何処に向かってんだ。はぁ……。まぁ、いい。これは全てありがたく頂く。邪魔したな」
移動の魔法で一気に執務室に運ぶ。
「ただいま。良い物が手に入ったぞ。この中でコントロールが良い奴って誰だ?」
「ニコとヴァンは良いと思うぞ。パチンコも百発百中だしな」
「ダークのお墨付きか。二人で魔物の腹をガンガン攻撃しろ。触手は俺達が何とかするからさ」
頷いて手に取る。装備出来る数に限りがあるけど、どうしようかな?
「白ちゃん達、太腿の所にある大きなポケットを異空間にしてあげるよ。好きなだけ詰め込めるよ」
「カハルちゃん、お願いします!」
「うん。ニコちゃんからやるね。――はい、終了。ヴァンちゃん、来て。――はい、いいよ」
カハルちゃんが手を翳したポケットの中を覗くと、白い空間が広がっている。これが異空間?
ヴァンちゃんと共に次から次に放り込んでみる。おぉ、凄い。どんどん入って行く。ポケットより大きい物も楽々と入った。えっへっへ、まだ入る~♪ それに全然重くない。これなら動きも妨げられないな。
「全部入った」
ヴァンちゃんが満足そうにポケットをぽしぽしと叩く。頷いたヒョウキ様が号令を掛ける。
「よし、行くぞ。気合入れてけ!」
魔物が復活してしまいました。喜びは長続きしませんね。
残念部長が役に立つ時が! 大量に隠し持っていました。
メイド長にばれたら……ブルブル……。
次話は、きりがない魔物です。
お読み頂きありがとうございました。
 




