0117.シン様のお料理教室
「取り敢えず僕の家から全部の材料を持って来たから、それで作るね。一緒にうちの分も作らせてね」
「材料代を後で渡すので――」
「気にしなくていいよ。クマちゃんがお世話になったからね」
「じゃあ、ありがたく頂きます」
「うん。さて、始めようか。まずは手を洗ってね」
基本ですね。ジャバジャバと洗って、ふと気付く。乾かす為の魔法石が無い。シン様を見上げると直ぐに気付いてくれた。
「手を出してね。はい、乾かすよ」
毛から一気に水気が無くなる。熱風で完全に乾かして貰い終了だ。
「凄いな。魔法か?」
「うん。タオルで拭いていると時間が掛かっちゃうからね。はい、ヴァンちゃんも手を出して」
ヴァンちゃんと共にお礼を言い、お料理開始だ。
「まず、好きな野菜や茸を切ります。今日はしめじとアスパラと人参だよ」
僕とヴァンちゃんは、石づきを切り落とした茸をバラバラに解す。トオミさんはお野菜担当だ。うわぁ、危なっかしい。手を切っちゃいそうだ。千切りにする為に、人参をスライスしているけど怖いよ~。
「トオミ君、スライサーは無いの?」
「確か、この辺にあると思ったが……」
亡くなられたお母さんが料理好きだったのか、料理の道具が充実している。
「あった。これをどうするんだ?」
「包丁が苦手なら、それでスライスしてから千切りにするといいよ」
スピーディに進み始めた。良かったと思ったが千切りの段階になって、またドキドキする。
「人参を少しずつ、ずらしながら並べて、端から切っていってね」
非常にスローです。ザクッ――ザクッ――。
「トオミ君、指先は丸めて猫の手みたいにしてね。切りにくいなら二、三枚だけ重ねて切ればいいから」
非常に真剣な顔で切っていくトオミさんの横で、シン様がリズミカルに人参をどんどん切っている。家用のかな?
「どれ位、練習すればそんな風になれるんだ?」
「う~ん、人それぞれじゃないかな? 毎日ご飯を作っていれば自然と上達していくと思うよ。上手く出来ないなら、千切りする為の道具とかがあるから利用するといいよ」
その言葉に力を得たのか、何とかトオミさんが切り終える。太めですね。僕も最初はこんな感じだったなぁ。村のおばちゃんの手伝いをしていて笑われていたっけ。極太な所為で、料理に入っていると一発で僕が切ったってバレちゃうんだよね。
「次は魚ね。今日は鯛を用意したけど、鮭でもタラでも好きな魚でいいよ。まずは切り身に、塩コショウをしてね」
パラパラとしている間に、シン様がフライパンを熱している。
「はい、ここに皮目を下にして入れて。火傷しないようにね。軽く焼くよ」
その間に紙を包める大きさに切っておく。急げ急げ。
「次に茸と野菜も入れて炒めます。ざっとでいいよ。少し、しなっとなったら紙の上に移動してくれるかな。開けた時に綺麗だな、おいしそうだなと思うように置いてね」
トオミさんは、こういう事にはセンスがあるのか、目にもおいしい盛り付けになった。
「うん、バッチリだよ。バターの欠片を上に載せて包みます。キャンディの包みの様にしてね」
端っこをクルクルとひねる。よし、準備完了だ。
「これを二百度のオーブンで十分くらい焼けば包焼の完成。紙を開いたら、この醤油という調味料をかけてね。いっぱいかけると塩辛いから気を付けてね。じゃあ、お片付けしよう」
まな板や包丁などを洗って終了だ。
「どう? 難しかったかな?」
「工程は難しくないんだが、野菜を切るのが難しい」
「それに関しては練習あるのみだね。でも、トオミ君は盛り付けが凄く上手だから、夕飯を食べるのが楽しみだね。僕も見習わなきゃ」
確かに。盛り付け一つで高級なお料理みたいになる。尊敬の眼差しで見上げると、照れて視線を逸らされてしまった。ふっふっふ、耳が赤い。
「トオミ、終わったのかな?」
「父さん、今終わった所だ。どうかしたか?」
「トオミの作った、ぬいぐるみの事でお客様が来ていてね。特注品を頼みたいそうだから対応してくれるかい?」
「ああ、直ぐ行く。シンさん、お世話になりました。バタバタしていて申し訳ない」
「うん、大丈夫。気にしないで行っておいで。リトルさん、僕達はこれで失礼しますね」
「どうも、ありがとうございました。また、お越しくださいね。いつでも歓迎致しますから」
「ありがとう。皆、行くよ。フォレストの所に寄って行くからね」
シン様が移動の魔法で家の分の料理を移動させ、眠っているカハルちゃんとクマちゃんを抱っこする。僕とヴァンちゃんは定位置にひっつき、シン様の顔を見上げる。
「準備いいね? それじゃあ、また」
「さようなら」とヴァンちゃんと挨拶した所で魔法が発動する。びっくりした顔のリトルさんに手を振ってお別れした。
ニコちゃんとヴァンちゃんはお料理も出来ます。
外での護衛仕事の時も、ささっと作って食べたりしています。
トオミ君、盛り付けで活躍です。得手不得手がはっきりしていますね。
次話は、青い薔薇を見に行きます。
お読み頂きありがとうございました。
 




