0113.僕にシリアスは似合いません!
「そう、それです! 何故クマちゃんを選んだのか? 棚に居たクマちゃんを見て分かったんです。それは、生きている者が出している瞳のきらめきです。そしてツヤツヤの濡れた様な鼻です。早速、素材を研究しなくては! デッサンさせて下さいませんか?」
「父さん、少し落ち着いてくれ。皆がびっくりしている」
「あ、ああ、これは失礼致しました。ぬいぐるみの事になると熱くなってしまいまして。いやはや、お恥ずかしい」
お説教ではなく絶賛だった。落ち着いた優しいおじさんに見えるけど熱い心を秘めているらしい。好きなものがあるという事は素晴らしいし、それを仕事にしているなら尚更だ。
好きだからって仕事に出来る訳ないと言う人もいるけど、こうやって実現している人もいる。
僕の場合は働く内に白族の仕事が好きになって、誇りを持つようにまでなったけど、今後どのように進んでいくのだろうか? 願わくば、カハルちゃん達のように優しくて、ありのままの自分を受け入れてくれる人達と過ごしていきたい。そんな事を考えていたら体が宙に浮いた。
「ニコちゃん、どうしたの? お話聞いていた?」
「えっ、すみません、聞いて無かったです。シン様、教えて頂けますか?」
「クマちゃんはしばらくモデルさんをする事になったから、町に行ってお昼を食べられる店を探すか、ここで待つかって聞いたんだけど。疲れちゃったのかな?」
「いえ、大丈夫です。リトルさんは熱い方だったんだなぁと考えていただけです」
一緒に抱っこされているカハルちゃんが僕の頬を小さな手で挟み、心配そうに覗き込んで来る。
「ニコちゃ、ちょうだんちてね?」
不意打ちに目を見開く。もしかして全部ばれているのだろうか? 下を見るとヴァンちゃんも心配そうに僕を見ている。
「ニコちゃんは顔に出るからね。隠し事は出来ないと思った方がいいよ。無理に話せとは言わないけど、僕達が心配していて、いつでも相談に乗る準備が出来ている事は理解していてね」
皆の顔を順繰りに見る。僕を思う気持ちが目に浮かんでいる。何て幸せなのだろう……。子供の頃はこんな未来を全然想像していなかった。
「……幸せって慣れてもいいものなのでしょうか?」
「もちろん。良い慣れだし、それだけの価値がある子だもの。この先も溺れる程、僕達で幸せにしてあげるよ。ねっ、カハル、ヴァンちゃん」
力強く頷く皆に胸がいっぱいになる。異質だと中々受け入れて貰えなかった僕とヴァンちゃんを、この人達は宝物の様に扱ってくれる。
僕がさっき考えた特定の人に仕え続けたいという願いは、白族としては失格なので言えない。今、言える事はこれ位だ。
「僕も皆を幸せにしたいです。――取り敢えず、お腹がキューキュー鳴いているのでお店を探しに行きませんか?」
床に降ろして貰ったその時、一際大きくお腹が鳴る。ムギューグルルグル……。は、恥ずかしい。ちょっと、お腹さん! いい場面だったのに何で反乱を起こすの⁉
「ぶはっ、はははっはは」
シン様が噴き出し、カハルちゃんとヴァンちゃんはニヤリとしている。今日よく分かった。僕にシリアスは似合いません!
「みんな、行きますよっ! ほらほら」
シン様のズボンを引っ張り、ヴァンちゃんの背を押して促す。毛があって良かった。そうでなければ真っ赤な顔を見られてしまう所だった。あーっ、恥ずかしい!
中央通りをヴァンちゃんと手を繋ぎ歩いて行く。カハルちゃんはシン様に抱っこされてウキウキと体を揺らしている。
何だか皆がチラチラと見て行くなぁ。あっ、そうか! シン様の超絶美形に目を奪われているんだ。思わず嬉しくなってシン様に、にこーっと笑い掛けると、そこら中から「うぐっ」だの「ぐはっ」だのと聞こえてくる。何だ、どうしたと見回すと次々に視線を逸らされる。
「ヴァンちゃん、目を逸らされちゃったよ。僕が何かしたのかな?」
「うん? 恥ずかしかったとか? それとも、白族が珍しくて見ていたのを気付かれてしまったからとか?」
「ああ、そっか! 土の国にはお仕事であまり来ないもんね」
頷き合っていると、シン様が僕達の頭を後ろから撫でて来る。
「二人共、天然だねぇ。さっきの反応は、ニコちゃんの可愛い笑顔に皆が心を射抜かれたからだよ」
「ヴァンちゃん、僕が凄いって」
「うむ。安定の可愛さ」
「ヴァンちゃんも可愛いよ。でも、カッコイイの割合が多いけどね」
「シン様、僕にもカッコイイをお願いします」
「うーん、困ったなぁ。嘘は付けないよ。ねぇ、カハル?」
「うんっ。きゃわいいのぉ。なでなで、しゅりしゅりしたーい」
カハルちゃんが熱烈だ。もうカッコイイだなんてどうでもいい。僕もなでなで、すりすりしたい! シン様からカハルちゃんを受け取り、お互いに心ゆくまで頬擦りし合う。柔らかほっぺが痛くならない様に配慮も忘れちゃいけない。
満足した僕は、今か今かと待っているヴァンちゃんにカハルちゃんを渡す。さぁ、心ゆくまでご堪能あれ!
振り向こうとすると、シン様に前向きのまま持ち上げられる。顔を上向けてシン様を見ると、苦笑いをしている。
「今、後ろを見ちゃいけないよ。危険な事になっているから」
不思議に思いながら戯れ合っているヴァンちゃん達を見下ろす。この体勢も面白いからいいや。プランプランと足を揺らして楽しむ事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うぉーっ、何て可愛い生き物だ! 触らせてくれっ」
「落ち着け。見ただろ? あの綺麗な金髪のお兄さんの殺人光線並みの視線を! 何とか耐えろっ」
「きゃ~、美形ともふもふ! 声を掛けなきゃ!」
次々と寄って来ようとする奴等を視線だけで凍らせる。まったく、うちの子達がいくら可愛いからといって近付こうとするな。こんなに楽しそうに慈しみ合っているのに無粋な奴等だ。
町を巡回している兵士を探す。――居た。
「ニコちゃん達、あそこに兵士さんが居るからお薦めのお店を聞いてみない?」
「はい。この町の兵士さんなら、きっとおいしい店を知っていますよね。――すみませーん、兵士さーん」
ニコちゃんが手を振り兵士を呼ぶと、俺達に近付いて来ていた輩が散りじりになり逃げて行く。よし、作戦成功だ。もういいかとニコちゃんをそっと地面に降ろす。
「どうされましたか?」
「お仕事中にすみません。この辺りにご飯が美味しい、兵士さんお薦めのお店はありませんか?」
「でしたら、パン屋さんの斜め向かいで、肉屋さんの横にある宿屋の食堂のご飯がお薦めですよ。味も良くて量もあって安いんです。城を背に、この通りを真っ直ぐに進んで頂ければ、すぐに着きますよ」
「わぁ、楽しみです。ありがとうございます。ヴァンちゃん、行こう!」
「うむ。兵士さん、ありがとうございます」
「ありがとにゃのぉ」
うちの子達の言葉に相好を崩す兵士の肩をポンと叩き耳打ちする。
「あの子達に良からぬ事をしようとする輩が沢山いるんだよ。他の兵士にも伝えて、よーく見守ってね?」
俺の言葉の圧力に真っ青な顔をして頷く兵士の肩を再度叩き、ニコちゃん達を追って行く。これで少しは安全度が上がるだろう。
ニコちゃんはシリアスが長続きしませんね~。
町の皆さんが白族に大興奮です。その所為で、シンは威嚇などで大忙しですね。
ニコちゃん達は敵意がないので、のほほんと楽しんでいます。シン、頑張れ~。
次話は、お肉屋さんに寄ります。
明日は「NICO&VAN(ヴァン視点)」を更新する予定です。
ニコ&ヴァンちゃんの子供時代のお話です。今日のお話にあった、なぜ二人が異質なのかなどが収められています。
自分の作品を読んで頂けるというのは本当に嬉しいものですね。読者の皆様にはいつも感謝でいっぱいです。これからも「NICO&VAN」をよろしくお願い致します。
お読み頂きありがとうございました。
 




