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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第二章 新生活の始まり
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0103.すき焼き

 ほかほかになって戻ると、甘辛くていい匂いが漂っている。ヴァンちゃんが隣で鼻をスンスンと動かす。


「いいにおいでキュー」

「お帰り。ご飯出来ているから座って」

 

 居間に上ると、囲炉裏に自在鉤で浅めの鍋が掛けられている。この匂いはあの鍋のようだ。


「今日はすき焼きだよ。お肉を食べて元気になってね。はい、これ」

 

 手渡された器には生卵が入っている。ご飯に掛けるのかな?


「それにお鍋の具をつけて食べるんだよ。卵はかき混ぜてね」

 

 ほぉ、珍しい食べ方だ。お箸をグーで握り、ごしょごしょと混ぜていると、隣のセイさんの方から軽快なカシャカシャカシャという音が聞こえてくる。


 えっ、凄い。あっという間に黄身と白身が混ざった。僕の熱視線に気付いたのかセイさんがビクッとする。


「……どうした?」

「凄いです! 何でそんなに直ぐに混ざったんですか⁉」


「ニコはグーで纏めて握っているから中々混ざらないんじゃないのか? まず正しい持ち方で持って、箸先を少し広げて白身を切るように直線で箸を動かせ」

 

 ほぉほぉと向かいのヴァンちゃんも頷いて混ぜ始める。――うわっ、こぼれそう。


「力を入れ過ぎだ。それともう少し早く動かせるか?」

 

 向かいのヴァンちゃんと共にアドバイスを聞いて混ぜる。カシャ……カシャ、カシャ……カシャカシャカシャ。


「「出来た!」」

 

 ヴァンちゃんと声が重なる。ふふふっ、やったよー。箸の技を一つマスターした。


「うまいぞ、二人共。もう、それくらいでいいんじゃないか?」

 

 調子に乗って混ぜ過ぎたので泡が立っている。だけど、これなら卵かけご飯の時も使える。より美味しく食べられそうだ。


「混ぜられたかな? 取ってあげるから器を頂戴ね」

 

 シン様に器を差し出すと、鍋から次々に具を入れてくれる。白菜、お肉、麺みたいな物、四角で柔らかそうな白い物。あっ、あれは、もしやネギ⁉


「あーっ!」

「どうしたの? ニコちゃん」

 

 シン様が目を丸くしている。


「す、すみません。僕、ネギが苦手で。それ、ネギですよね?」

「あぁ、そういう事ね。ヴァンちゃんも嫌いかな?」

「嫌い」

「獣族はネギが苦手な人が多いよね。鼻が良い所為か匂いがキツイって聞いた事があるよ」

 

 僕達が深く頷くとネギを外してくれる。


「あの、我が侭を言ってすみません……」

「気にしなくても大丈夫だよ。苦手で苦痛な物を食べろとは言わないよ。カハルも嫌いだしね」

 

 仲間が居た。ほっとしていると器を渡される。


「はい、お食べ。熱いから気を付けるんだよ。――次はヴァンちゃんね。器を貸してくれる?」

 

 この白いのと麺みたいなのは何かな? しげしげと見つめているとセイさんから声が掛かる。


「その白いのが大豆から作られた『豆腐』で、麺みたいなのが蒟蒻芋から作られた『しらたき』だ」

 

 ほぉーと頷いて豆腐を掴もうとすると、力が強すぎたのか崩れてしまった。


「あっ、豆腐が……」

 

 ずーんと落ち込んでいるとセイさんに頭を撫でられた。


「むしろ良かったんじゃないか? 丸ごと口に入れていたら大火傷していたぞ。豆腐は熱いからな」

 

 危険な食べ物だった。卵に入れて冷やそう。しらたきなら食べられるかな。


「うーん、弾力があります。もぐもぐもぐ」

 

 初めての食感だ。芋から作られているって言っていたけど、僕の知っている芋とは全然違うのかもしれない。


 向かいではヴァンちゃんがお肉に齧り付いてニンマリしている。どうやら気に入ったらしい。僕もお肉を食べようっと。濃い目の味付けの具を卵に絡めて食べるとマイルドになって非常に美味しい。卵につけるのが前提で作られているのかな?


「うまいでキュー。椎茸最高っキュ!」

 

 小さなクマちゃんが大きな椎茸に齧り付いている。椎茸一枚でお腹いっぱいになってしまいそうに見える。


「うまいな。久し振りに醤油の入った料理を食べた」

 

 セイさんがしみじみと言う。フォレスト様の所で入院していたと言っていたもんね。


「お体はもう平気なんですか?」

「ああ、問題ない。明日からは俺も魔物討伐に向かう」

「退院したばかりですよ? もう少し休まれた方がいいのでは?」


「フォレストは俺の性格を良く知っているから、全快するまで病院から出してくれなかったんだ。だから、体を動かしたくて仕方ない」

 

 成程と頷いていると、カハルちゃんの目が覚める。


「うーん……。いいにおいだにぇ~」


「カハルはヨーグルトを食べようね。ニコちゃんが買ってくれたボーロを入れてあげるからね」


「うんっ。ボーロたべりゅ」

 

 粉々になったボーロを食べようとしてくれるなんて優しすぎる。


「カハルちゃん、無理をしなくてもいいんですよ? 僕がちゃんと食べますから」

「だめぇよ。これはわたちのなの。ニコちゃにはあげにゃいの」

 

 わざと怒ったような顔をしてカハルちゃんが言う。くーっ、なんていい子なのか! 後で思いっきりナデナデしよう。


 シン様が微笑ましそうにしながらヨーグルトを運んでくる。


「俺がやろう。シンはまだ一口も食べていないだろう?」

「そう? じゃあ、お願いしようかな」

 

 セイさんがカハルちゃんの所に移動して食べさせてあげている。それにしても驚いた。お父さんの事を『シン』って呼ぶんだ。仲が悪い訳でもなさそうだから、あの二人にとっては、これが普通の距離感なのかもしれない。


「おいしかったでキュ。御馳走さまでキュ」

 

 少なっ。椎茸とお肉一枚と豆腐だったよね。体が小さいから、あれで十分なのか……。

 

 見ているとフンフンと鼻歌を歌いながら寝室に向かって行き、クローゼットの隣にある壁の前に立つ。小さな手でポチッと壁の一部を押し込むと、壁が開いていく。


「ふおっ!」

 

 僕の叫びにクマちゃんがビクッと振り返り、みんなも僕を見る。


「ニコ、どうした?」

「ヴァンちゃん、壁! 壁が開いたよ!」

 

 首を傾げたヴァンちゃん達が僕の指さす寝室に向かって行くので、急いで付いて行く。


「どうしたキュか? 入っちゃ駄目キュか?」

「ううん、入っていいよ。ニコちゃん達に、ここの説明をするのを忘れていただけだから」


すき焼きの具材も初めて見るものばかりです。

セイのお蔭で卵を混ぜるのが上手くなりました。シンはあまり口出しせず見守っている事が多いです。

ニコちゃん達は辛い物も苦手です。


次話は、豪華なデザートです。


お読み頂きありがとうございました。

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