0099.卵(シン編)
お菓子作りをする為に卵を貰いに向かっていると、ニコちゃんが後ろから付いて来ているようだ。何で隠れているのかは分からないが、さすが白族。ここまで気配を消す事ができるのか。ここは自分で作った場所なので誰が何処にいるか全て分かる。取り敢えずこのまま進むか。
辿り着くと、ニワトリ達がいつものように、ビシッと横一列に並び、袋から卵を取り出し捧げ持つ。
「おはよう。卵ありがとうね」
そう言いながら、卵を回収していく。
「ありがとう。また、よろしくね」
手を振ると、ニワトリ達が一斉に手羽根で敬礼してくれる。さて、帰るか。
「ただいま」
「お帰りなさい」
ニコちゃんが迎えてくれた。聞いてみようかな?
「ねぇ、ニコちゃん。なぜ僕を尾けて来たのかな?」
「ばれてるぅー⁉ 僕、そんなに隠れるの下手でした?」
「ううん。気配も姿も綺麗に隠していたけど、ここは僕が作った場所だから、僕の許可がある人しか入れないし、誰が何処にいるかも全て把握できちゃうんだよ」
ニコちゃんがぽけーっと僕を見つめている。まぁ、確かにこんな理由だとは思わないよね。
「……実は僕、気付いちゃったんです。ニワトリさんの対応が人それぞれ違うって」
「ああ、それで」
「はい。さっきの凄かったです! ビシッと横一列に並んで、みんな卵を捧げ持っていて。そして、最後の敬礼! カッコよかった……僕もされたい……。今後の野望です!」
腰に手を当て、胸を張って可愛い事を言う姿に、噴き出すのを必死で堪える。笑っちゃいけない。本人は至極真面目だ。何とか声の震えを押さえて言葉を絞り出す。
「……早く叶うといいね」
「はい!」
満面の笑みで頷き、ヴァンちゃんの所に駆けていく。あー、苦しかった。腹筋を撫でながら、お菓子作りだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここ最近、不思議な事が起こっている。ヴァンちゃんが貰って来る卵の黄身が必ず二つある。最初は運がいいで済んでいたけど、何が原因だろう? そう思っていたタイミングで、ヴァンちゃんが夜中の外出許可を貰いに来た。
「卵の事を調べたいので、夜中にニワトリさん達の所に行ってもいいですか?」
「うん、いいよ。ちょうど僕も調べようと思っていた所だから」
ホッとしたようにヴァンちゃんが息をつく。気を付けて行くようにと言って頭を撫でてあげると、嬉しそうに頷いてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
岩が怪しいという事で、ヴァンちゃんと一緒に卵を貰いに来た。
「あの岩かな?」
「そう。あそこに立ってた」
「どれどれ。――特に問題ないね。魔力を多く含んでいる訳でもないし、別の理由かなぁ」
そう言うと、難しい顔でヴァンちゃんが首を傾げる。
「取り敢えず、先に卵を貰っちゃおうか」
手分けして卵を貰い、ヴァンちゃんの元に戻ると、足元で何かがキラリと光る。
「ヴァンちゃん、貰えた? うん? ピンバッジだ。――ヴァンちゃん、分かった。原因はこれだよ」
「それ、俺が前に失くしたやつ」
「なるほどね。これ小さい頃から持っていたでしょう」
「何で分かる?」
「ヴァンちゃんの魔力が、この宝石に大量に蓄積されているからだよ。この魔力の影響で卵の黄身が二つになっていたんだよ」
びっくりしてピンバッジを見つめるヴァンちゃんの横で、ニワトリが悲しそうにピンバッジを見つめている事に気付いた。「コケー……」と力なく鳴いている。
「シン様、悪影響がないようなら、それニワトリさんに返してあげて欲しい」
「いいの? 大事な物でしょう?」
「いい。ニワトリさんなら大事にしてくれる」
ニワトリの期待に満ちた視線が僕に注がれる。魔力の影響も悪い方には働かないだろうし、ヴァンちゃんが納得しているなら特に問題はない。少し考えた末に手羽根から卵を取り、代わりにピンバッジを載せる。
「卵をありがとね。ピンバッジを大事にするんだよ」
「コケコッコーーー!」
ニワトリが歓喜の鳴き声を上げた後、大事にピンバッジを袋にしまい、ヴァンちゃんに向かってビシッと敬礼する。
ヴァンちゃんがビシッと敬礼を返すと、後ろで小さく叫びが上がる。
「あーっ、ヴァンちゃんが敬礼された! 僕の野望が~」
振り返ると、ニコちゃんが少し離れた所にいて嘆いている。野望が先を越されたと思ったのが悪かった。ついに我慢しきれず噴き出してしまった。まずい、まずい。
ニコちゃんが走り寄って来たので、「いつかしてくれるよ」と慰めてあげていると、ヴァンちゃんがニコちゃんの肩をぽむっと叩く。
「ニコ、黄身が二つの卵をやるから元気出せ」
「えっ、本当⁉ ヴァンちゃん、ありがとう~。わーい、わーい」
立ち直りが早い、とヴァンちゃんと笑い合う。さて、今日も可愛いこの子達に、美味しい朝ごはんを作ってあげよう。
シンはこの子達が来てから、腹筋がガンガン鍛えられていますね。
ニコちゃんが先を越されました(笑)。
いつか……いつか、してくれるよ。多分……。
次話は、抜き打ち訓練? です。
お読み頂きありがとうございました。




