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3.古小屋の老人


中へと足を踏み入れれば。

嘗ては麦などが仕舞われていたのでしょう、それなりの広さの室内。

微かに残る匂いを、湿った空気と黴の匂いが消し去ってしまっている。

そんな、暗い一室が目の前に広がっていました。


「また来たのかい。 毎日飽きないね、君たちは。」

「……まだ話聞き終わってませんから。」

「良い、ですよね?」


小屋の中には、しゃがれた声の老人が一人。

名前を聞いても曖昧に誤魔化すだけ、どこから流れてきたのかわからないような流浪人。

身体付きはがっしりとしているように見え、少なくとも何らかの肉体労働を経験していることは明白でした。

村に関わろうとしない――――と言うよりは、自分から人に近付こうとしない。

そんな頑なな姿を見せる老人に対し、村人は当然の如く近寄ろうとはしていませんでした。

だからこそ。

「彼」と「幼馴染」は老人のことを、「小屋のお爺さん」と呼び。

誰も近寄らないからこそ、老人から色々な話を聞くことを楽しみにしていました。

その代償が、自分達の食事を削ることだったとしても。

……そうでもしなければ。

まるで自ら朽ちることを望むように、食事を取ろうともしなかったからです。


「私みたいな世捨て人に関わるのはどうかと思うのだけどね。」

「世捨て、人?」


逆に、老人が二人を見る目線もまた変わっていきました。

当初は、何処か驚愕を隠すようにしながら邪魔者として扱い。

次第に、邪剣にされながらも慕ってくる二人に。

外の世界の話をするくらいには、絆されていきました。


外。

つまり、何時かは出ていかなければならない場所。

その知識を持つ、「彼」が関われる数少ない人物。

そして、自分を「要らないもの」として扱わないでくれる数少ない人物。

互いに距離が近付いていくのも、不思議ではありませんでした。


「そうだよ。 私は、世間から離れた人間だからね。」


老人が「幼馴染」を見る目は何処か暖かく。

同時に、悲観を抱えているような不思議な色合いを持っていました。

かつて。

「彼」が老人に、それを尋ねてみたのは大分昔の事。

その際は、それに気付かれたことに顔色を変えたのが面白かった。

それが一番大きな感想でした。


「……離れ離れになった孫娘にそっくりでね。」


そう、呟く声は何処か悲しそうで。

だからこそ、二度と聞くことはありませんでした。

老人からも、それに触れることも無く。

「幼馴染」だけが知らない、二人だけの秘密。

それを抱えたことに、ほんの少しだけ楽しくなったことを覚えていました。


「さて、それじゃあ今日も取引をしようか。」

「……お願いします!」

「お願い、します。」


うん、と小さく頷く老人。

「彼」から、革袋を受け取って。

近くの、脚がもう壊れかけているテーブルの上へとそっと置き。

いつもの。

日課となった、「取引」を始めたのです。


――――三人の話は、夕方まで続くのが常でした。


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