0.はじまりの、はじまり。
気が向いたのでコンバートしてみました。
もう一つのほうは気が向いたら少しずつ更新しますー
――――いつかの、どこかの、誰も知らない場所。
其処に、一つの図書館が有りました。
誰も知らないからこそ、全知で。
誰も行くことが叶わないからこそ、全てが揃う。
そんな矛盾した、本に埋もれた場所がありました。
そんな場所を、図書館が生まれたときから管理していた一人の存在がいました。
ある人は「神」と形容し。
ある人は「悪魔」と罵るような存在です。
ただ、その管理人は本が好きだったから。
そう義務付けられていたわけでもないけれど、その本に囲まれた生活が好きだったから。
だからこそ、たった一人だけど。
ずっと、ずっと。
数えるのも億劫になるほどに長い間、その場所を管理し続けていたのです。
そこに並べられていた本は、幾つにも枝分かれした世界の断片。
例えば、剣と魔法の世界。
例えば、灰と硝煙に埋もれた世界。
例えば、遥か宇宙の彼方へと旅立つ世界。
その全てが、管理者にとっては宝物。
不幸で終わる本もありました。
幸福に終わる本もありました。
それでも、最期まで彼等彼女等は諦めること無く力を振り絞って。
何らかの結末を、掴み取っていくその姿。
その姿をこそ、管理者は渇望し。
同時に、憧れていたのです。
自分は、ただの管理人にしか過ぎないと分かっていたから。
その存在を噂する人々からは、逆に羨ましがられているということも気付かずに。
或いは、ずっと一人だったからこそ気付けずに。
そんな、いつも通りの生活。
つまりは、新しく書庫に並べられた一冊の本。
それに、管理人は不思議と興味を惹かれました。
背表紙は、何の変哲もない赤色。
とても厚いとは思えない、暗く沈んだような本でありながら。
何処か惹き込まれるような明るさという、矛盾したそんな本に。
中に目を通せば。
何のことはありません、極めて単純で。
そして、だからこそ生き足掻いた一人の少年の無念の末路が描かれていただけでした。
『もっと力があったら。』
『もっと努力できていれば。』
『約束を破ることなど、無かったはずなのに。』
最期に、そう記された頁。
……本当に、何ということのない。
前例すらも幾らでもあるような話のはずなのに。
深く惹き込まれ。
深く共感し。
管理者は、生まれて初めて。
最後の頁に、こう書き記したのです。
『――――それでも』と。
それは、ある一面では神の祝福と呼ばれ。
それは、ある一面では悪魔の呪いと呼ばれ。
共通するのは、「己の意志だけで足りないものを、後押しされる」というただそれだけのことです。
幸運。
出会い。
死闘。
それらを超越した先にある、どうしようもない偶然の果てに起こり得る奇跡的な確率の先。
其処に至るまでの、小さな物語。
管理者が、書き記した。
書き記してしまった、本の背表紙。
決して、輝かしくなど無い。
何処にでもいる青年が。
青臭い約束を抱えて。
ただ、幼馴染に再会するまでの物語。
その、題名は。
『路傍の果ての英雄譚』と。
――――始まりの頁が、一枚。
風に吹かれて、開かれました。