プロローグ
初投稿です。気に入っていただけたらいいなと思います。
紅く染まる視界の端に映る光景を、未だに受け入れることができない。
美しかった街並みはもうどこにもない。
業火に包まれた街を悠然と闊歩する、異形の怪物達
建物は崩壊してあちこちに瓦礫の山が積み上がり、必死の形相で泣き叫びながら逃げ惑う村人達
そんな村人達を嘲笑うかのように、怪物達は蹂躙を続ける。
薄れゆく意識の中で、僕は振り返っていた。
前世の屈辱と、この世界で己の無力さを感じることになった、あれこれの出来事を。
*********
午前6時
スマホから鳴る目覚まし音が耳に響く。
カーテンに閉ざされ暗闇に包まれた部屋の中、鉛のように重く感じられる体をなんとか布団から引きずり出す。
昨日徹夜でゲームをしていたせいか、まだ意識がはっきりしない。
朝食を食べるため、一階に降りてリビングへ向かう。
窓から入る日差しに、思わず目を細める。
日の光を見るのは一体いつぶりだろう。
ダイニングでトーストを食べる両親と弟が驚きの表情でこちらを見ている。
家族の顔を見るのも久しぶりだな。
「おはよう」
「……」
返事がない、ただの屍のようだ。
そりゃあないよな
心の中で、僕は自虐の笑みを浮かべた。
そして、こう思う。
引きこもりの息子なんて、見ていられないよな。
***
朝食を済ませ、学校へ行く支度をする。
正直言って、とても憂鬱だ。
あんなところにまた行かなきゃいけないなんて。
しかし、両親が僕に向けてきた憐れみと軽蔑が入り混じった視線。
あれをもう向けられたくなかった。
そして何よりも、両親をあんな気持ちにもうさせたくなかった。
滅入る気持ちを鼓舞しながら、チョークの粉で白ばんだ制服を身に纏い、乾かしてカピカピになった教科書をカバンに詰め込んで、僕は外へ出た。
***
ガラガラガラッ!
扉を開けて教室に入ると、それまでそれぞれが友人達と談笑していて騒がしかったというのに、一瞬のうちに静寂が訪れた。
あぁ、両親と同じ目だ
クラスメイトが僕に向ける視線には、やはり憐れみと軽蔑が込められていた。
しかし次にはもう、何もなかったかのように談笑を再開していて、また教室が騒がしくなった。
そんな空気の中、汚い言葉が書き殴られた自分の机へと身を縮こませて座る。
「あれー?なんでゴミクズが学校にきてるんですかぁー?」
「くんなっていったよなぁテメエ、言われたこともできねぇのか?」
「お前どうしようもねぇな、死ねよ」
こういって嘲笑いながら三人の生徒が机の周りを囲んできた。
三人の名前は、氷室、井上、田口
独りぼっちだったから、標的にしやすかったのだろう。同じクラスになった時からずっと僕を苛めてくるグループだ。
最初はからかうぐらいだったのだが、次第にエスカレートしていき酷い時には、空手の稽古をつけると言って体育倉庫に連れていき、殴る蹴るの暴行を受けた。
問題にならないのかと思うが、グループの一人である氷室は、地元の有力者の息子でルックスもよく女子受けがいいので、教師陣は彼のことを信じきっている。
そのため、ぼっちの僕が何を言ったところで何も動かないのだ。
さらに厄介なことに、氷室達の問題を面倒にすることが一つあった。
「氷室君達またヒドイことを言ってるの?ダメだよ!」
「天音の言う通りだ。そのへんにしておけ。」
こんな僕のことを庇ってくれる生徒がいる。
一人は、西園寺天音
小柄なら体に、腰まですらっと伸びた栗色の髪をもち、パッチリした大きな目に、ツンとした小さな鼻、薄い桜色の唇が、小さな顔に絶妙なバランスで配置されていて、常に柔らかな微笑を浮かべている。
もう一人は、立花葵
高身長でスレンダーな体型をしており、後ろで束ねた艶やかな黒髪に、キリッとした顔付きはどこか大人の雰囲気を感じさせる。北欧の方の血が流れているらしく、瞳の色は薄い碧眼だ。
二人とも学校内でも1、2を争う美少女だということで有名で、生徒で知らぬ者はまずいない。
苛めグループも彼女達に嫌わらたくないのか、僕のことをひと睨みした後、自分の席に戻っていった。
「よかったぁ…大丈夫だった?」
西園寺がホッとした表情で尋ねてくる。
「ああ……大丈夫だよ。」
僕は苦笑いを浮かべて、そう答える。
「ならよかった。あと……また学校、来てくれたんだね…私、嬉しいよ」
西園寺はそういうと頰を赤らめ、そそくさと自分の席に戻っていってしまった。
西園寺さんどうしたんだろう、風邪ひいたのかな?
そこらのラノベ鈍感主人公だったらそう思うのだろうが、僕は違う。あの反応は……ぼっちの僕があまりにも惨めだからいつも助けているけど、やっぱりぼっちに関わるのは恥ずかしいッ!といったところだろう。
そうだな、そうに違いないと思っていると、
「おいお前、あまり天音の手を煩わせるなよ。」
立花はそう冷淡に言い放つと、西園寺の元へ向かっていった。
美少女二人に庇われるシチュエーション
一見すると誰もが羨むものだと思われるが、そんないいもんじゃない。
庇われているのがイケメンだったら問題ないのだが、僕のように平凡な奴だと「なぜあいつだけ!」と、
他の生徒から妬まれ、殺意を向けられてしまう。
実際、氷室達の苛めがエスカレートしていったのはこのことが原因なのだ。
苛めるたび、彼女達が庇い、それを妬んでまた苛める
こうした悪循環が延々と続き、遂には暴行まで及んで、僕は学校に来なくなった。
苛めを止めたいのなら、彼女達に庇うのをやめてくれと頼むのが一番なのだが、言ったら言ったで「美少女の善意を踏みにじった」と今度はクラス、いや学校中の生徒の反感を招きかねない。
僕はもうどうすることもできないのだ。
僕の問題なのに、自分で解決できない。
そんな自分が、僕は嫌いで嫌いでしょうがなかった。
***
昼休みのチャイムが鳴ると、例の苛めグループの連中が席の周りを囲み、
「お前いつも一人だろ?たまには俺達と屋上で食べようぜ。」
と、優しい声で話してくるのだが、目は全く笑っていない。
両腕をガッチリ掴み、逃げれないようにすると有無を言わさず連行された。
ドカッ!バキッ!
腹に鈍い衝撃が伝わり、息が苦しくなる。
「オエッ、グウゥ…」
痛みで地面に這いつくばった僕の頭に氷室が足を乗せた。
「あのさぁ……お前マジなんなの?くるなっつったのに学校くるし、西園寺と立花と話してニヤニヤしやがって……キモいんだよ!」
氷室は頭から足を下ろし、次に僕を何度も蹴り出した。それに続く形で残りの二人も蹴り始める。
何度も何度も何度も何度も
蹴りが止んだと思うと、今度は胸ぐらを掴まれ、立たされた。
「もういいよ……お前、マジで死んでくれ」
氷室が据わった目で見つめてくる。
本気だ
その目を見て、僕は悟った。
後ろの二人をその気配を感じ取ったらしく、「おい、何もそこまでする必要ないだろ」と狼狽えながら氷室を諌めるが、
「うるせぇ!俺の親父のこと知ってんだろ!黙ってりゃ大事にはなんねえよ!」
そんなはずはないと、普通に考えればわかることも氷室は分からなくなっている。
僕は氷室の手を外そうと、必死になって抗った。
しかし、氷室の力は冗談みたいに強く、まるで外れる気配がない。
そのまま氷室は屋上の端まで進んだ。
下を見るとそこに床はなく、15メートルほど下にグラウンドの土が見えた。
僕を支えるのは、氷室の腕のみ。つまり彼が今、僕の命を握っているのだ。
「どうして……氷室君、おかしいよ。なんで僕は死ななきゃいけないんだよ……お願いだ、命だけは!」
なんでこんなことで死ななきゃいけないのか。
僕には彼が人の皮を被った化け物にしか見えなかった
「お前が死ねば、西園寺は俺のもんだ。なぁ……わかるだろ?俺の役に立ってくれよ」
ははっ…本当にこんな、くだらない理由で死ぬのか?
こんなクソみたいな奴の、クソみたいな理由で?
「じゃあな」
その言葉が耳に届いた次の瞬間、氷室の姿が遠のいていき、地面が急速に近づいていく。
これは、死んだな。
迫り来る地面を目にし、全てを諦めた。
死を目の前にし、僕はあることを願う。
もし次があったら、もし転生できるのなら、今度は悔いなく生きたいなぁ。
それが、僕の最期に思ったことだった。
グシャッッ‼︎‼︎
ここまで読んでくださりありがとうございます!次回投稿は1月3日の19時頃を予定しております。