父親と出会った日
俺が生まれてから2年が経った。
俺は毎日ソフィアと仲良く魔法の訓練をしている。
危険だと反対されることもなかった。子供の興味を優先する教育方針らしい。
ソフィアは、昔王宮で魔法の先生をしていたんだそうだ。
大したものである。
まぁ2歳の俺には、高度な説明なんてしないがな。
「エミル~。私の後に続いて唱えるのよ~。」
「はい、母様。」
「広大なる大地よ、その慈悲を持って、絶対なる盾を掲げよ。
『アースウォール』‼‼」
「こうだいなるだいちよ。そのじひをもって。ぜったいなるたてをかかげよ。
『あーすうぉーる』‼」
俺とソフィアの前に、大小の土の壁が競り上がってきた。
「ふふ。やっぱりエミルは天才ね。さすが私の子だわ。」
「痛いです、母様。」
ソフィアは俺を抱きしめる。ちょっと親バカなのだ。
そして、今のが詠唱魔法だ。
俺の推測通り、詠唱は魔力を誘導する役目を持っていた。
誘導された魔力は、術者の意思で発動する。
今から発動しますよーっていう宣言としての魔法名だ。
魔法は詠唱のみで発動するらしい。それが常識だそうだ。
……そう。おかしいだろう。俺が初めて魔法を使った時、俺は詠唱をしていない。
喋れなかったからな、当たり前だ。
でも確かに、確かに俺は魔法を発動させた。
あの時、詠唱による魔力の流れを真似して『スプラッシュ』を出した。
だからできないはずがない。詠唱のみで発動するなんてことはないはずなんだ。
俺ができるんだから、他人にできないはずがない。
調子に乗らない様にしよう。
子供が詠唱無しで魔法を発動させたら、ソフィアを心配させるかもしれないな。
でも、練習しないわけにはいかない。
だって、格好いいじゃん『無詠唱』。
そんなわけで俺は毎日ソフィアとの訓練の後に、
こっそり無詠唱の練習をしている。
ソフィアが晩御飯を作っているときに、
普通の練習を装って習った魔法を無詠唱で発動させている。
一度詠唱したことがある魔法は、流れを身体が覚えているので無詠唱で再現できる。
威力だって変わらない。詠唱より強くすることだって可能だ。
今日も頑張ろう。
そう思い俺は、人の頭の程の岩を創った。これは『ロックボール』という魔法で、
この岩を前に飛ばす事ができる。
シンプルでとてもいい魔法だ。地味とか言う馬鹿もいるようだが、俺は好きだ。
さぁ、今日も思い切り飛ばしてやろう。
ふふ、飛んでけー。
ゴツンと言う音が響いた。嫌な予感がした。
急いで音がした方に駆け寄ると、でっかい人が倒れていた。
やばい、生きているだろうか。恐る恐る声をかける。
「あの、大丈夫ですか?」
「……………。」
返事がない。この年で前科持ちか。やっちまったな。
ソフィア悲しむだろうな。どうしよう。
俺が途方に暮れていると、
「ククッ……ハハハハハハ」
笑い声が聞こえた。
どうやらこのデカイおっさん。生きてるな。良かった。
「久々に帰ってきたら、いきなり狙撃されるとは。
更に相手は自分の息子ときた。笑えるな。」
ん?このおっさん、今何て言った?
「ただいま。我が息子エミルよ。大きくなったな。」
こうして俺は父親を名乗るおっさんと出会った