クエストの日
ヨーロフにきて1週間がたった。
俺達はまだここにいる。
なぜか、その理由を述べよう。
俺が目指すギルバーツ王国と、このオルデバラン公国との間には
7つの国がある。
そして、隣のガガン帝国が、他の6国のうち、
4国と戦争中と言うことが分かったのだ。
どの国も厳戒体制で、入国を制限している。
更に厄介なのが、ガガン帝国では
冒険者を傭兵として雇っているらしい。
入国したものを、ほぼ強制的に。
なので、ガガンには入国制限はないが、入国できないのだ。
そりゃ4つも同時に喧嘩売ったら、
戦力なんていくらあっても足らないよな。
アホか、ガガン。
戦争なんてしている暇はないので、
どうにかしてガガンを避ける道を探しているのが理由だ。
全く、いきなり旅に障害が現れたよ。
イスカさんがこの1週間、
知り合いの情報屋を当たって、
安全な行路を探してくれている。
やっぱり頼りになるな、超人メイド様。
そう言うわけで、街の食べ歩きぐらいしか
やることのなかった俺は、
クエストにいこうと思い立った。
ギルドに行けば、何か情報もあるかもしれない。
とにかくこのままでは身体が鈍ってしまう。
身体を動かしたいのだ。
イスカさんもゴブリンぐらいなら
一人で行ってもいいと言っていた。
これは行くしかないだろう。
俺はギルドの扉を開けた。
街の外、ガガン帝国とは反対側には森が広がっている。
俺達が通ってきた森だ。
その森から、よくモンスターが現れて、
街と街を繋ぐ街道まで悪さをしに来るらしい。
これらを処理するのが、この街の冒険者だ。
ギルドに入ると大きな掲示板が目に留まった。
大小様々な紙が、貼り付けられている。
これが、依頼書みたいだ。
依頼書には、難易度を示すドクロマークのスタンプが押されている。
ドクロマークの数で、危険度がわかるらしい。
俺の目当てのゴブリンの討伐を探す。
奴等は群れを作り、その繁殖力をもってドンドンと群れを大きくしていく。
だから、小まめに狩らなければならない。
冒険者になりたての初心者がよくこの役目を負う。
一匹ずつは雑魚なので、初心者でも何とかなるのだ。
「あった!これか。」
その依頼書には、
クエスト
「ゴブリンの討伐」難易度1
一匹につき2000バーツ
※討伐証明として、ゴブリンの耳が必要です。
と書かれている。
バーツというのがこの世界のお金の単位だ。
1バーツ=1円という考え方でいい。
国によって物価は違うが、単位が変わらないのはありがたい。
今回はお金が目的ではないので、別にいいのだが、
難易度最低ってイスカさん。
過保護じゃないかな。
……いや、イスカさんに限ってそんなこと、
そんなこと、ないはず。
依頼書を剥がし、剥がし、剥がし…………。
届かねぇー!くっそ!もうちょい!
もうちょいで、届くのに!
俺がぴょんぴょんやっていると、
「どうしたんだい、お嬢ちゃん。」
イケメンが話しかけてきた。
めっちゃキラキラしてるなコイツ。
「依頼書に届かなくて。」
「なるほど。どれ、よっと。」
「うわ!」
イケメンに抱え挙げられた。
「さぁ、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
俺が依頼書を取ると、イケメンがそっと俺を降ろした。
「ふむ、ゴブリンか。」
イケメンが何やら考え込む。
これは、ファンタジーイケメン特有のあれか?
「俺も一緒に行ってもいいかな?」
ほら、やっぱり。
「お心遣いはありがたいのですが、遠慮します。」
「おや、どうしてだい?」
「僕は貴方の事を何も知りませんし、
わざわざ報酬を減らす意味がありませんから。」
「うん。じゃあまずは、自己紹介をしようかな。
俺はユーリ。ジョブは魔法騎士を名乗っているよ。
君みたいな年の子が一人でクエストに行くのが心配なんだ。
あ、別に報酬は要らないよ。お金なら十分あるからね。」
イケメンもとい、ユーリと名乗るコイツは、
どうしても付いてきたいらしい。
イケメンじゃなかったら只の不審者だぞ。
顔がいいって得だよな。
「結構です。」
「つれないなー。」
俺はユーリを振り切って受付へと向かった。
「すみません。これを受けたいのですが。」
「あら!エミルちゃん!
ちゃんとお姉さんの所に持ってくるなんて偉いわね~!」
受付カウンターは全部で3つあるのだが、
俺は登録でお世話になったお姉さんを選んだ。
特に意味はない。
別に揺れる胸に惹かれたとかそんなんじゃない。
違うから。
「ゴブリンね~。」
「何かあるんですか?」
「う~ん。最近、隣の国が戦争してるの知ってる?」
「はい。ガガン帝国ですよね。」
「そこが傭兵を募ってるんだけど、結構な数がこの街からも行っちゃったの。
だから、最近ゴブリンとか簡単なクエストを受ける人も少なくて。
もしかしたら、結構な群れになっちゃってるかも知れないのよね~。」
なるほど。こんなところにも戦争の弊害があるのか。
ガガン帝国、迷惑だな~。
「大丈夫ですよ、俺も一緒に行きますから。」
「うわっ!」
ユーリだった。
「あら、魔法騎士様じゃない。なら安心ね。」
「はい。安心してください。」
「じゃあ、受理しとくわ。帰ったら討伐証明持ってきてね~。」
「え!ちょっ!」
「じゃあ、行こうかエミルちゃん。」
結局、このイケメンと行くことになってしまった。
「そんな顔しないで。
大丈夫、報酬は本当に要らないから。」
「………。」
もういいや。
報酬はくれるって言うし。
嘘ついたらぶっ飛ばして逃げよう。
ユーリと共にギルドを出た。
街は相変わらず賑わっている。
「エミルちゃんは何処からきたんだい?
この街の子じゃないよね?
俺は、この街の女の子の顔、皆覚えてるからね。
こんなかわいい子忘れる訳がない。」
「………はぁ。」
何なんだこいつは。
イケメンなら不審者でも許されるのか。
さっさと終わらせて帰ろう。
「俺はリアリスから3年程前に、この街に来たんだ。」
「…へぇ。」
リアリスはガガン帝国より西、
ギルバーツ王国とオルデバラン公国の間に位置する国だ。
ガガン帝国とは戦争下にない平和な国で、
豊かな国土と時計塔が有名だ。
「俺は次男坊でね、家督を継ぐこともできないから
冒険者になったのさ。
でも、いつか冒険者として有名になって
騎士として国の為に働くのが夢なんだ。」
「そうですか。」
「この街にきたのはね、修行の一貫なんだ。
ここの領主様は、昔騎士として名を馳せた方でね。
冒険者にも手解きをしてくれていて、
騎士としてのなんたるかを、身分関係なく教えてくれるのさ。
その噂を聞いたときに、ここしかない!って思ったものさ。」
「ふーん。」
領主か。
街の真ん中にあるでかい屋敷に住む領主。
結構いい人みたいだな。
ユーリの身の上話を聞かされながら、歩くこと30分。
やっと、街の城門についた。
イスカさんと歩いたときは、もっと近かったと思うんだけどな。
「さあ、着いたね!心の準備はできてるかい?」
「はい。」
ここに来るのに森を越えてきたんだから、
今さらだろう。
「じゃあクエスト開始だ!
行くよ、エミルちゃん!」
「……はぁ。」
森に着くと、ユーリは辺りを見回し始めた。
しゃがみこんでは、地面を調べている。
何をしているんだろう。
「何をしているんですか?」
「うん?ああ、これはゴブリンの足跡を探しているんだ。
まずは獲物を見つけるところからだからね。」
「へぇー。」
なるほど。普通はこうやって探すのか。
超人メイドさんは、鼻も効くから苦労なく狩ることが出来ていたけど、
こういう技能は知っておくべきだな。
いつまでもイスカさん頼りでは格好つかないしな。
「あった、これだよ。」
ユーリが見つけた足跡は、ちいさな子供の足跡の様だった。
ポツポツとこれが群れの場所まで続いているそうだ。
「じゃあ、行くよ。
迎撃の準備をしといてね。」
「はい。」
俺は腰の刀に手を置きながら、ユーリの後ろに続く。
暫くすると、まるで台風にでも晒されたのかという
みすぼらしい木と麻の建物が出てきた。
緑色の小人が数匹、中にいる。
あれがゴブリン。
「少ないですね。」
「うん。怪しいな。」
そう言うとユーリは目を閉じる。
ユーリの耳辺りに魔力が集中しているのが分かる。
魔法か?
ユーリが小声で詠唱を始める。
聞き取れないが、何かするらしい。
『……レス』
魔法が発動した。
「まずい!囲まれてる!」
ユーリが叫ぶと、同時に俺は抜刀した。
敵の影は見えない。
「どうしたんですか!」
「ごめん、エミルちゃん。ここまで気づかなかった。
これは、ゴブリンじゃない。ブラッドウルフだ!」
ブラッドウルフ。
ゴブリン同様、群れで行動する魔物だ。
特徴は血のように赤い目と毒性を持つキバで、
囮を使った狩りを得意とする。
今回の囮は、このゴブリン達。
恐らく、増えたであろう大多数のゴブリンはコイツらに喰われた様だ。
木の間に赤く光る目が10、20、……50、まだいるな。
ヤバイ。
ブラッドウルフの危険度、群れで3程になる。
ゴブリンの3倍だ。
躊躇したら殺られる。先手必勝だ。
「ユーリ、場所教えろ。分かるんだろ。」
「う、うん。何をするんだい、エミルちゃん。」
「いいから、早く。」
「5メートルぐらいかな。ぐるっと囲まれてる。」
「よし、なら。」
魔力を廻らせる。
手の甲に魔力を溜める。
『ストーンストーム』!!
発動した魔法は、岩弾を含み、辺りの木々を薙ぎ倒した。
ゴブリンと、ブラッドウルフの死体も見える。
成功だ。
「この威力、エミルちゃん君は、」
「話は後だ!来るぞ!」
先陣が薙ぎ倒されても、ブラッドウルフたちは怯まない。
キバを剥き出しにして、飛び込んできた。
その数30。
くそ、まだこんなに要るのか。
魔力を溜めている暇はない。
なら、近接戦闘だ。
飛びついてきたブラッドウルフを、クニナガで切り伏せる。
返す刀で、次を切る。
絶え間なく続く特攻に、体力を削られる。
あのキバは、掠めただけでも致命傷だ。
紙一重で避けながら、ユーリを見る。
携えた剣で上手く捌いているようだ。
まだ、余裕があるように見える。
狼達の勢いは弱まらない。
結構な数を切った筈だが、何かがおかしい。
まるで、命を捨てるような攻撃だ。
普通、群れで行動する魔物は、一定数を下回らないよう撤退する。
でも、こいつらは。
ユーリの後ろから飛びかかろうとするブラッドウルフが見えた。
ユーリはまだ気づいていない。
まずい、間に合え!
『瞬斬』!
雷のごとく、移動する。
目標までの距離を一気に詰める。
イスカさん仕込みの武技の一撃。
狼のキバがユーリを捉える前に切り伏せる事ができた。
「!」
ユーリはそこで気づいたらしい。
「いいから!次だ!」
俺とユーリは狼を切り続けた。
日も暮れてきた頃、ようやく戦いは終わった。
結局、狼達は最後の一匹まで逃げ出さなかった。
討伐証明を剥ぎ取り、帰路につく。
ギルドについた頃、辺りは真っ暗だった。
「はい!確かに確認したわ!
災難だったわね、エミルちゃん。
怪我はない?」
「はい。大丈夫です。」
「そう、ゆっくり休んでね。」
ユーリとは城門で別れた。
戦いの後、あいつは一言も話さなかった。
よく分からないが、何か考え込んでいたようだ。
報酬を受け取り、宿屋に着くと、
イスカさんが飛びついてきた。
「エミル!大丈夫?怪我はない?」
「大丈夫ですよ、イスカさん。」
「私、エミルが帰ってこないから心配で心配で。」
同じ犬科でもこっちは落ち着くなー。
「心配かけてごめんなさい。」
「ううん。いいの。
でも、次は私も一緒に行くわ。」
「はい。」
知らないおっさんが奥から出てくる。
「ははは、イスカ嬢は過保護だな。」
「からかわないでください。」
「どちら様ですか?」
「おっと自己紹介が遅れたね。
私はゼール、ここの領主だよ。」
「りょ、領主様?!」
こうして長かった初クエストは終了した。
だか、今日はまだ終わらないらしい。




