旅立ちの日
この洋館に拾われて2年が経った。
最初にシェリルさんがギルバーツ王国に帰るために必要だと言ったのと
同じだけの月日が流れた。まだ俺はこの場所にいる。
でも、無駄に月日を費やしたとは思わない。
確かにあの時、すぐに帰ることはできた。
だが、無事に辿り着けることはなかっただろう。
俺には力がなかった。
旅を乗り切るお金も、大陸を歩ききる体力も、全てが足りなかったと思う。
だから、俺はこの2年が無駄だったなんて思わない。
父様が言っていた、護りたいものも増えたしな。
未だに何故俺が誘拐されたのかは分からない。
偶然だったのかも知れないし、必然だったのかも知れない。
誰の悪意があったのか、それすら俺には分からない。
あの時、フェニちゃんを助けたのは俺だし、
協会を頼ったのも俺だ。
だから俺が誘拐されたのも、結局は俺の選択した結果だ。
結果には責任が付きまとう。
だから俺は責任を取ろうと思う。
誘拐された責任を取って、何としても家に帰る。
例え、何年かかっても。
………フェニちゃん無事かな。
馬車にはいなかったし、誘拐されてないといいんだけど。
考えても仕方ない。
無事を祈ることしか、今の俺に出来ることはない。
せめて、旅をしながら他に誘拐された人がいないか探そう。
俺は、ここに来て色んな力を手にいれた。
シェリルさんから貰った土魔法の腕輪。
イスカさんから貰ったクニナガ。
グランドオーラ。
風魔法に、武技だって習得した。
お金もコツコツ貯めてある。
筋肉だってついた。
……メイドとしての技能もある。
今が、旅立つ時なんじゃないか?
俺はすっかり長くなった赤い髪を縛る。
決意のポニーテールだ。
この旅が終わったら、母様に切ってもらおう。
挨拶に行こうか。
「シェリルさん。」
「…ん。本当に行くの?」
「はい。」
「そう。寂しくなるわね。」
「今までありがとうございました。」
「ええ。私こそ、貴方が来てから毎日楽しかったわ。
また、会いに来てね。」
「…はい。また来ます。
絶対にまた、……また来ますから。」
簡単に来れる距離じゃないことは分かってる。
それでも、俺は約束した。
涙は流さない。
この別れは悲しいものじゃないから。
「貴方は、行かなくていいの?」
「私はシェリル様のメイドですから。」
「あの子、探してるわよ?」
「いいんです。今会ったら私は……」
「そう。
じゃあ、貴方はクビね。」
「えっ?」
「クビと言ったのよ。すぐに荷物をまとめて出ていきなさい。」
「で、ですが。それではシェリル様がお一人に……」
「いいの。また、別の人を雇うわ。」
「…シェリル様。」
「貴方は、エミルを家に帰すんじゃなかったの?
私に遠慮して、自分を曲げる必要なんかないわ。」
「わ、私は……。」
私はエミルを護りたい。
あの頑張り屋なハーフエルフの少年を。
いつも一生懸命なエミル。
この2年、彼が訓練を休んだことはない。
どんなときでも彼は投げ出さなかった。
グランドオーラが出来なかったときも。
刀に拒絶されたときも。
諦めずに何度も何度も挑戦して。
そうして彼は必ずやり遂げてきた。
でも、私は知っている。
彼の弱い部分を。
彼は寂しがりだ。
何時だって独りになることを恐れている。
その不安は何処から来るのか、
私には分からないけど、
彼を独りになんかしたくない。
それだけは言える。
「シェリル様。今までありがとうございました。」
「うん。またね、イスカ。」
「はい。」
行こう。私も彼と共に。
「エミルー!」
「イスカさん!」
「私も、私も行く!
一緒に行くから!」
「‼
…シェリルさんはいいんですか?」
「うん。私、クビになったから。」
「え!?クビになったんですか!?」
「クビになったよ。」
「………そうですか。」
「なら、一緒に行きますか?」
「うん!」
俺は、イスカさんと共に旅に出ることとなった。
「エミル、ずっと気になってたんだけど。」
「何です?」
「その服のまま行くの?」
「………これしか無いんです。」
この2年、商人は一度も男物の服を持ってくることはなかった。




