労働者になった日
待て、待って、待ってくれ。
俺は誘拐された。確かにされた。
だが、けして2年も馬車に揺られてなんかいない。
「お姉さんは冗談がお上手ですね。」
「…冗談を言った覚えは無いんだけど。」
…………。
か、仮にだ。
ここがオルデバラン公国?だとしよう。
それを認めるには避けられない疑問がある。
距離だ。
シェリルさんはギルバーツ王国からは2年かかると言った。
ならば、どうやって。
どうやってその距離を誘拐犯は進んで来たのだろうか。
「…ここは本当にオルデバラン公国何ですか?」
「ええ、本当よ。
と言ってもオルデバラン公国でもここは辺境に当たるけどね。」
魔法か?
距離を縮める魔法なんて存在するのだろうか。
そんなものがあるなら、馬車なんて走ってないし、
シェリルさんも2年かかるなんて言わないだろう。
だが俺は知っている。
前の世界では、その存在を書いた多くの物語があった。
転移。
誘拐犯の奴等は転移を使ったのだろう。
その存在が世間に知れ渡っていない理由は分からないが、
ファンタジー世界の移動手段としてなら、
もう転移以外思い付かない。
「だから、私は貴方に諦めてここに住む様に言ったのよ。
折角助けた子供が、のたれ死ぬのなんか見たくないしね。」
……この人やっぱりいい人らしい。
見ず知らずの子供でも死なせたくない。
それは同意できる。
「本当に住んでいいんですか?」
「ええ、歓迎するわ。ここには私とイスカしかいなかったし。
新しい住人、それも貴方みたいな可愛い子なら大歓迎よ。」
可愛いってよ。
う、嬉しくなんかないもん。
2年か。遠いな。
母様、大丈夫だろうか。心配だ。
泣いてはいないだろうか。
俺が帰ってこなくて不安だろうな。
でも、すぐ駆けつけることが出来ない。
俺は無力だ。
「あの、お願いがあります。」
「なにかしら?」
だが、それが何だ。
「俺をここで働かせて下さい!」
俺が無力な凡人だなんて、痛いほど分かってる。
「俺は魔法が使えます!用心棒でも何でもします!」
だけど、それは。
「俺は何をしても、帰るための力が必要なんです。」
もう俺が諦める理由にはならない。
こうして俺は、人生通算26年目にして初めて就職した。




