#12 斉明
斉明がその事を思い出したのは、事件から二日経過してからだった。
未だに後見人が決定されず、ひとまずは情報部の大船という男が、斉明の面倒を見ていた。いまいち信用できない飄々とした男だったが、しばらくの辛抱だと自分に言い聞かせた。
一時的に割り当てられたホテルの一室は、斉明の専用となった。後見人が決まるまでの間、そこで過ごしていたのだが、ふと思い出した事があった。
富之と後取り候補の会話を盗み聞きするために、富之の部屋の座卓に貼り付けていた『聞き覚え』の解創のことだ。
斉明はそのことを大船に話して、一日限り、大船の同伴を条件に、端子島への渡航を許された。
火災現場にいた記者の二人が消えてから、斉明は火事現場に舞い戻った。
だが――そこは想像していた以上に、酷かった。
思い出される二日前の記憶に顔を顰めつつ、地下の階段があった場所に行くが、中は真っ暗で、そのうえ物が崩れていて、とても入れそうに無かった。
「くそ……」
もともと焼けていたかもしれないとはいえ、斉明は富之が殺された直後に、どうして思い出せなかったのかと、自分を恥じた。
もしかしたら、何かしらの手がかりが得られたかも知れないのに。
斉明は結局、何も得られないまま、島を後にする。
この事件の裏に、何かあったのではないかという、根拠のない悪寒を拭えないまま。
かくして放れた鯉は、ひれ欠けたままに放浪する。龍に成るその日までに、ひれを手に入れられるのか、本人さえも知らぬまま。
To be continued.
とりあえず第一部完です。
第二部でお会いしましょう。
……と言いたいところですが、
すぐに第二部が出せないので、その間は
「解創エピソード集」を1章分あげるので、
そちらが先になります。
1章分終わったら、ひれ欠けた鯉の滝登りの第二部に……というつもりです
それでは




