#02 ?(2)
彼にとって、やってきたチャンスは、待ちわびていたものだった。
斉明が一人。世話係の雅がおらず、富之の監視もない時間。
決定打となったのは、昼間、大広間の卓に置かれていた斉明のノートだった。他の冊子と一緒に置いてあり、ノートそのものも偽装されていたが、観察してみて、解創の道具であることが分かった。隠蔽されていた情報を読み解き、重大な情報をいくつも発見した。
富之の地下の解創と、その監視システム……そして、斉明の部屋までの行き方だ。
富之が地下を監視できるのは、地下にある自室の卓によるもの。つまり一階にいる間は、監視ができないと分かる。
斉明の部屋に移動できるかは、富之と孝治が、話の休憩がてら一階に来ている時を見計らって、実際に行ってみて確認済みだ。
そして今……夕食後、雅と富之はともに一階にいて、斉明は部屋に戻っている。このチャンスを逃す手はない。
念のため、戦闘の準備もしてあるが、放火で十分だ。火の元は斉明の部屋にでもしておけば良いだろう。
重い空気の地下。距離感覚を狂わせてくるが、記憶どおりに歩いていくと、斉明の部屋の近くまで、難なく辿りつけた。解創などは宿していない、廊下に落としておいた毛髪……童話のパンくず代わりも、ちゃんと記憶どおりの場所にある。
あとは斉明を油断させ、一撃で仕留めるだけだ。
いくら作り手としては大人顔負けの才能を持つ斉明とはいえ、所詮は子供。それに道具を使う才能は、徹底的に欠けている。作ることならまだしも、こちらが先手を打てる暗殺において、遅れを取る事はない。
ついに部屋の前まで辿り着く。外の見た目は他の部屋とは違わない。
とはいえ、ここまで来たら気付かれているだろう。部屋の戸に細工されていると面倒だ。あえて無警戒を装って、部屋の外から声をかける。戸を開ければ、一撃で仕留めてやる。
「斉明くん、いるかい?」
呼びかけに応じる少年の声は無い。
「そこに斉明はおらんぞ」
ぎくりとする。思わず後ろを振り返る。
「まったく……よからぬことを考えた馬鹿者もおったものよのぉ……洋一郎」
上宮富之――上宮家現当主が、男の名前を呼んでいた。




