#16 ?(1)
彼は、やっとのことで箱庭を手中に収めた。
ずいぶんと時間を食ってしまったが、精密な作業だ。下手なことをすれば、本来の持ち主に、すぐ感づかれてしまう。
自然の中に溶け込ませた鳥類や羽虫と感覚を共有し、全ての部屋を監視するというこの解創を手に入れたことで、彼は外部にいながらにして、富之と大差ないレベルで、現在の上宮家邸内の状況を知ることができる。さらに鳥類と羽虫の配置を操作して、死角を作ることも出来るようになった。
富之に感づかれないよう、少しずつ動かして死角を作ると、大胆にも彼は邸内に侵入を果たした。
暢気な事に、曾孫たちは島の海岸へ散策に出かけたらしい。これも『庭園の眼』から取得した情報だった。さらに孝治以外の面子も、なにやら秘密の会議をしている。これほどの好機は二度とないだろうと、彼は侵入という行動に踏み切ったのだ。
アレの奪取が、彼にとっての目的だった。それには上宮富之が邪魔だ。
手段は、既に考えてあった。準備もかなり整えている。だが、あと一押し欲しいところだ。
過程として、上宮富之が当主からいなくなれば、孝治、卓造の動きは想像できる……そこからは彼の手中だ。問題は、どう誘導するか、だ。
大広間を我が物顔で徘徊する。ここに特別役に立ちそうな物はない。こんなものかと溜め息をつくと、ふと、座卓に置かれていたノートに目がいく。
ノートと鉛筆の配置を確実に記憶し、ノートを手に取る。パラパラとページをめくると、そこに何かしらの意図を感じた。
――ああ、なるほど……。
意図は読めた。おそらく富之も知っているだろう。となると……これに助力するという手もある。孝治らをコレで危機的状況にもっていき、その後、上宮を乗っ取る機会を作ってやれば……。
いけるかもしれない。少なくとも、試してみる価値はある。
記憶したとおりに、ノートを元の場所に戻す。
庭に出て鳶を呼び出す。この島に多く生息する、ありきたりな鳥だ。初列風切羽を一本毟る。
即席に為す『風為し』の解創だが、問題ない。それを縁側からは見えない、かつノートに当たる庭の適当な場所に配置する。
屋敷を出る。暫くの間、彼は『庭園の眼』で大広間を監視しつつ、目当ての人物が来るのを待った。
小一時間ほどして、その人物は現れた。大広間の前の廊下を通る。一人だ、おそらく会議が休憩に入ったのだろう。
彼は願いを切り替えた。風を成そうという初歩の初歩。風が部屋に届き、紙類を飛ばしに掛かる。
飛ばせたと思った瞬間、願いを戻して『箱庭の眼』で大広間の様子を伺う。
廊下を通っていた人物は、強風で飛んだノートに気付いた。拾おうと、それを座卓に戻しかけて……同じように、違和感に気付いた。
「……」
無言で庭を睨むが、バレてはいないようだ。彼はそれで満足し、監視をやめた。
しばらくは様子見に徹するべきだろうと、彼はその場を離れた。




