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#01 ひれ欠く理由
あらゆる立場は不変ではない。
人として当たり前の願いを失ってなお、目指さなくてはいけない所がある。
達した時の意味を失ってなお、求めなければならない形がある。
形だけの龍になることを求められ、龍になることで得られる力ばかりを追い求め、無駄を省き、至るまでの安易さを求めるうちに、いつしか、まともな龍が生まれなくなる。
その現実に歯向かうには、行き着き、そして気高き龍となる為の力のみを持ち、あらゆる無駄は排除しなければならない。
尾さえあれば龍になれるのだとしたら、鯉にひれは要らない。要らぬひれは泳ぐ楽しさを覚えさせ、理想へ至らぬ畜生に堕落させる。
そうして、欠けたひれに劣等感を持った、ひれ欠けた鯉が放たれる。