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  #10 富之

「さて、解散としよう。外に健を控えさせておるから、案内に従って出ろ」

 とりあえず聞けるだけの事は聞きだしたと判断し、話を終わせ解散とする。個人個人との面談は明日からだ。とりあえずは孝治と眞一を優先しよう。次に卓造と正和たちの兄弟だ。

「さて、ワシも少し散歩するかの」

 ひとりの部屋で呟いて、廊下に出ると、富之は老眼鏡を掛けたまま歩く。部屋の構図と部屋の移動パターンは頭の中に入っているが、念を入れるに越した事はない。自分で作った迷宮で、自分が迷うなど考えたくもない。

 しばらく散歩していると、違和感に囚われた。地下の雰囲気が、どこか少し、変わっている気がしたのだ。

 ――この感じ……解創に手を加えられたか?

 解創が変化したとすれば、それは追求者による工作だろう。作り手の中で七人にはアリバイがある。となると残りは斉明と雅くらいのものだ。そして雅では力不足だ。となると少なくとも斉明は関わっている事になる。

 ――あ奴らめ。なにかしよったな?

 この地下は富之の空間だ。違和感に気づいたが最後、原因はすぐに突き止められる。

 しかし斉明がこんな事をするとは、予想外だった。斉明が悪戯をしない生真面目な曾孫とは言わない。ああ見えて狡猾で、本心を隠したがる一面もある。そんな彼なら、自分に悪戯がバレない可能性を考慮してない筈がないが……。

 数分で、富之は違和感の発生源にたどり着く。他と変わらない障子張りの部屋が左右にある廊下。だがこの一角だけ、少し違和感がある……。

 板張りの廊下、天井の照明……各ポイントを見ていると、原因が、和紙に似せた磨り硝子の障子だと気づいた。端の方にある磨り硝子をつまんでみて、厚さを測る。この程度でノギスなど必要ない。

「ほぅ……なるほど」

 磨り硝子の厚さは、全て五ミリだが、ここだけ四・五ミリになっている。

 持っていた杖で、加工前と後のガラスを突いてみる。……感触からすると、加工後も性能は衰えていないようだ。

 物質的素材の良し悪しが、解創の機能に直結するわけではないが、重要な要素である事はに変わりは無い。それでも同じだけの性能を維持させているということは、富之の解創を物質的にいえば〇・五ミリ分、より洗練させているということに他ならない。

 磨り硝子に宿してある解創は『消散』で、物理的衝撃や音など、解創の道具であるガラスに触れた、あらゆる影響のみを消し散らすというものである。突けば刺突の力を消し散らし、火を当てれば熱を消し散らす。

 ただの守護では、害意の無い力をスルーしてしまうので、部屋の中の音を外部に漏らしてしまい、盗聴される危険があるが、この解創なら両方を対象に出来る。

 この『消散』の解創に、厚さはそれほど関係ないが、消し散らしきれない場合は、ガラスの堅牢さによって耐える必要がある。これを、どうしているのだろうか?

 目を凝らすと、塗装によって誤魔化されているが、内側に透明なもの……セロハンテープが貼り付けられている。これが秘密の正体だ。テープは解創の道具に作り直されている。

 それは『通過』の解創だった。内側の音はスルーして『消散』の解創に触れて掻き消す。外側からの消し散らせない衝撃は、内側に『通過』させることで、部屋の空気中に分散し、ガラスそのものへの影響を防いでいるのだ。

「カッカッカ。一本取られたの」

 斉明が手に入れた〇・五ミリの磨り硝子は十六枚、何に使ったのかは明白だ。身を守るための解創の道具の材料だろう。なるほど、この家や、その周囲にあるものより、富之が事前に手を加えているものの方が、素材としては、より優秀である。

 斉明の目的は、身を守るための解創の作成だ。つまり悪意は無い。それに、こちらも学ぶところがあったことだ、大目に見るとしよう……そこまで考え、ふと気づく。

 まったく狡賢い悪童よ。こちらが大目に見る事すら、おそらく彼の手中だ。

 階段を上り、地下から出ると、廊下は橙色の西日染まっていた。

 時は夕暮れ。もうヒグラシが鳴いていた。

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