乙女ゲームに転生した、平凡な主人公です!!!
ついにこの日がきた。
桜舞う季節、
初々しい新入生達がこれからの青春に胸を高揚感でいっぱいにして並んでいる。
私もその一人。
私立聖輝学園高等部
クチャっとした字面の上に、痛い名前だなと感じた人もいるだろう。
それもそのはず。
ここは平凡な女生徒が、輝かしい美男子7人と恋愛をする
「虹色の青春〜平凡な私のハチャメチャらいふ?!〜」というタイトルの乙女ゲームの舞台だからである。
御察しの通り、そう、私は転生者。
前世でこの虹春をやりまくり、全ルート攻略、全スチルフルコンプ、公式資料を読み漁り、全てを熟知したこの私!
前世ではチョイポチャで、男の子とは縁遠い余り、乙女ゲームに浸かりまくってたけど!
今世では主人公だもの!
手違いで私をサクッと殺っちゃった神様ありがとう!私、幸せになります!!
よーし。待ってろよイケメン!!!!
と、思っていた時期が私にもありました。
「なんでぇぇぇぇえ。」
私の悲しい雄叫びが、夕暮れ時の学校の屋上に響く。
この三ヶ月間、起こるイベントは全く恋愛に繋がらず、私は誰の好感度もあげられないでいた。
最後の頼みの綱の屋上イベントも、屋上に誰も人がおらず不発に終わってしまった。
何故だ。私はこの世界の全てを知っているはずなのに。前世とは違う、青春をするはずだったのに。前世と同じように、全然うまくいかない。
それだけじゃない。この学校は何かおかしい気がする。
何か、何かが…ー
「そんなところに居ると、危ないわよ。」
聞いた事のある声に私が振り向くと、そこにはスクールカーストの上位層、
生徒会長の彼女である三宅先輩がいた。
読者モデルのような可愛らしい顔立ちに、芸能人の様な細い身体。
生徒会長に近づく女生徒を、その圧倒的な女子力ではね除けていると名高い三宅先輩だ!
「あぶないって…?」
「きたわよ。」
そう言った三宅先輩は、目にも止まらぬスピードで私の近くに寄ると、これもまた凄いスピードで何かの印を手で結ぶ。
その瞬間、燃えた矢の様な物が私達を襲った。しかし、先輩を中心にした壁の様な物で守られる。
「きゃああああ?!」
「次がくるわ!我を守れ、完璧な防御!」
そう先輩が叫んだ瞬間、今度は謎の光が私達を襲い、またそれを別の壁が私達を守る。
「とりあえず屋内へ!」
「は、はい!」
「はあっ、はあっ。」
「危なかったわね。」
「あ!どうも助けていただき、ありがとうございます」
「礼には及ばないわ。この学校では、妖怪と陰陽師、それから魔術師同士の戦いが陰で行われてるから、放課後は余り遅くまで残っちゃダメよ。」
なんだ、そのてんこ盛りな非日常感。しかも、全然陰で行われてなかったよね!今の‼
やっぱりこの学校、なんかおかしい。だって、私が知ってる設定で、そんなものは無かったはずだ。
「自分が知っているシナリオ通りじゃない。そんな顔してるわね。」
三宅先輩が、唐突にそんな事を言う。
「どうして…それを。」
「やっぱり気づいてないのね。だから、そんなに甘ったれた体をしてるのね。」
「え?」
「こんな、こんな!こんな揉んで欲しそうな贅肉とおっぱいを曝け出して!この!この!」
「え、ちょっ、え?!やめ、やめてぇぇぇぇぇぇ」
憧れの先輩にセクハラされた。
もうお嫁に行けない。
「あなた、転生者なのでしょ?」
「え、あっ、はい。」
先ほど精神力を削られた事で、驚くリアクションをとる気力がわかなかった。
「…反応薄いわね。」
「あ、すみません。」
「まあ、いいわ。いきなり本題に入るけど。私の予想なんだけどね、まあ多分正解の予想よ?
この学校の女子生徒は全員、乙女ゲームにきた転生者だと思うの。」
「ええっ?!」
思わず驚いた私に、先輩が満足そうな顔をする。
「逆に男子生徒は全員攻略対象よ。」
そういえば、男子は皆やたらキザな事を言うやつが多いし、
世紀の天才が各クラスの勢いでいて、すごい一芸を持った人も多かったり、人気芸能人もちらほら通っていたりする。
「だからうちの学校、スポーツは全国大会バンバン行くし、有名大学に国内外問はず輩出するし、
生徒の経歴が凄い事になってるんですね…。」
「そうよ。」
先輩が同意する。
「多分、この聖輝学園だけで軽く世界征服できるわね。」
「せっ世界?!」
「ええ、よく他国の王族の留学もあるしね。そういえば、秋頃になると留学生、転校生シーズンよ。」
「し、シーズン」
凄いシーズンがあったものだ。
しかしそれだとおかしい気がする。
「でも、あの、言えばあれなんですけど。別に、男子全員美形じゃないですよね?」
いい事を言う、というように先輩が私にビシッと指を差す。
「たぶん、乙女ゲームっていっても同じゲームじゃないと思うのよ。
聖輝学園が舞台っていう条件で、色んな世界からの転生者が来てると思うの。だから美醜感覚も合わない事があるのよね。」
だから私が仲のいい、てんこちゃんは、言い方が悪いけどB専だったのか。
納得である。
「ただ、違う乙女ゲームからきてるせいか、妖怪がいたり、陰陽師がいたり、
はたまた吸血鬼がいたり、魔法使いがいたりするのよ。さっきのもそれね。」
カオスである。
そういえば、やたら豪華な教会や謎の地下室がうちの学校にはある。
興味半分で行かなくて良かった、と心底安心する。
「なんか、すごいですねこの学校。色々教えてくださって、ありがとうござ「そこであなた!」
突然先輩が叫ぶものだから、体が固まる。
「もう攻略は無理だなって諦めたでしょう。」
「あ、はい。そんな凄い学校だって知らなかったし、今までも全然イベントが不発だったのもしょうがないかなって。
平凡な私なんかだ「甘ーーーい!!!」
また台詞を重ねられた。
「甘いわよ!例えどんなに学校がゲームからかけ離れていたとしても!
ここは貴方が好きな乙女ゲームの中なのよ!」
「はあ。」
「貴方のキャラ愛はそんなものなの?」
「!!!!!!!」
いきなり頭がハッとさせられる気分だった。まだ先輩は言葉を繋げる。
「それに自分は平凡主人公だから、ありのままの自分でいいやって考えてたでしょう。」
「!!!!!!!!!!」
図星だった。
「たぶん私と貴方の美醜感覚は似てると思うからいうわね。」
先輩がオホンと、息を整える。
「乙女ゲームの主人公、恋する乙女のはずなのに外見にこだわらないのは大間違いよ。
外見にこだわらなくても、ありのままの私でいいと思っていたからよね。
だから、そんなチョイポチャになったのね、肌も荒れてしまったのね!
さあ、思い出してみて。大好きな乙女ゲームのスチルの中で、
顔は見えなくても、主人公の体型は整ってなかった?肌は荒れてた??」
衝撃で体が震えた。
「すごく、スタイルが良かったです。」
「そうでしょう。」
「肌も、すっごく綺麗で。」
「ええ。」
「髪も服も、小綺麗にしてました…!!!」
甘えていた自分を自覚する。
そうだ、主人公も努力していたのだ。それを私は、
「あなたは私が一年生の時によく似てるわ。だから、こんな事を話したくなったの。
私だってとりたて可愛くはない、
でも頑張って、色んな美容法も試して、そうして好きな人と付き合えたわ。」
がんばりなさい、そう言って去ろうとする先輩に慌てて追いすがる。
「まって下さい!私、私…!
全然オシャレとか、わかんないんです!教えてください!」
「Sixteenとか、yan yanとか読めばいいじゃない。」
「yan yanって、なんかやらしいですね。」
「もとが◯n◯nだもの。しょうがないじゃない。」
「美醜感覚とか違うのに、雑誌どうするんですか。」
「同じモテ特集なのに、ページ毎に全然違うこと書いてやがるわ。
だから分厚さも週間少年誌くらいあるし。」
「自分で勉強できません。」
「そうね。」
私に師匠ができた。
これでイケメン捕獲作戦はバッチリになるハズである。
今度こそ待ってろよ!イケメン!!!!
毎日の筋トレや、なんかのサラダを食べたり、スムージーを飲む生活が辛くなってきた頃。
もうやめたいなー、
モテナクテモ イインジャナイ?
そうだ!
「し、師匠!」
「なに?」
「学生の本分は勉強です!」
「転生者なんだから、イージーモードでしょ?」
…ソウデシター。
普通はソウナンデシター。
「…薄々感じてたけど。あなた、成績は?」
「いやっ、この学校っ、レベル高く「成績は??」
そっと成績表をだす。
魔法で言葉の通り雷を落とされました。
なんでこの人、陰陽道も、魔法も使えるんだろ。
私の修行は逃げようとしたつけのように、更なる厳しさを増すのだった。