第八話 おーっほっほっほ、開幕ですわぁっ!!
遅くなりました、20時投稿の予定が時間がかかってしまい、申し訳ありません。
サブタイ通り、ついに始まります『ざまぁ』劇が。
最初から飛ばして行きます、短いですが。
次の投稿は…9月の予定が残念ながら未定ですので、1週間前後とさせていただきます。
それでは、どうぞ。
北の都ノルドランド。
北方の領地で最も繁栄して国内でもトップクラスの防壁を有した星形要塞都市である。
過去の戦争でノースエンド王国を退けた後、もはや修復するよりも一から作り直した方が良いという意見が多く出た事で、元あった倍近く都市が広くなったという逸話を残す都市である。
広さだけなら王都を遥かに超え、第二の王都といわれている公都に匹敵するノルドランドは、アドリアナを始め多くの貴族の融資と多くの識者から最新技術を集めて築き上げられた北の最重要拠点だ。
仮定ではあるが、もし再びノースエンドが南下を始めた際、周辺の領地は即座に持てるだけの物資を持った後は自らの領地を焼き払い、このノルドランドへ逃げ込むよう徹底した通達が敷かれている。
ノースエンドに渡すくらいなら、いっその事自分で始末をつけた方がマシという事なのだろう。
ノルドランドに着くなり、アドリアナは城壁の圧倒的な威圧感に固まってしまったカインズにこの都市の歴史を伝えた。
冷や水を浴びせられたカインズはその説明に苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
今回引き連れてきた馬車の代表者としてアドリアナは辺境伯ドルンズに救援物資と『手土産』を持ってきたと伝えるように門番に指示を出した。
アドリアナに指示された門番は顔を赤らめながら噛み噛みになりながらもその指示に了承し、馬に乗って駆けていった。
北方の名産は軍馬で、先ほど門番が乗っていた馬もその一頭だ。
国内の領邦軍の騎兵隊の軍馬は全てこの北方から仕入れられていて、貴重な収入源である。
この要塞都市で使われている軍馬はその規格から落ちた馬たちで、それでも一般の馬より遥かに優秀だ。
あっという間に見えなくなった馬を見送り、アドリアナたちはノルドランドに迎え入れられた。
城に迎え入れられても挨拶をすぐにしたい所だが、予定では明日の午前となっている。
同じ城内にいてもそれまではドルンズに会う事は出来ない。
「…ここが要塞の中か…なんとも入り組んだ場所だな」
王都と違い、優美さの欠片の無い息苦しい建物の多い都市内部にカインズはそう呟いた。
「万が一に備えて市街戦も想定していますので、このような難しい作りになっていますのよ。
カインズ様も側近の方も、もし外出される際は案内役から離れないように行動してくださいませ。
初めてこの都市に入られた方は、まず間違いなく迷子になりますから」
余談だが、アドリアナはこの星形要塞都市の設計に関わっているからか、迷った事は一度も無い。
頭の中に衛星写真でも入っているのか、広大な要塞都市のどの場所にいても周りを見ただけですぐにどこか把握出来てしまうのだ。
「そうか…では気を付けるとしようか」
アドリアナの説明に思う所があったのだろう、カインズは眉を顰めると側近のドームズと馬車に乗り予め伝えられていた宿屋に向かっていった。
そして、アドリアナは見た。
ノースエンド王国の紋章の入った馬車を見た住民たちの鬼気迫る表情を。
目を吊り上げて、今にも路上の石を手に取り投げつけないかと不安になったが、一部の良識ある者たちが住民たちを抑えた。
「……本当、どうして来たのかしらね。
別にこのノルドランドで無くてもよかったと思うのだけど…」
「あちらの思惑とこちらの思惑がどこかで繋がっていたのでしょう。
先日の『トーチョーキ』ではそこまで深くは探れませんでしたが…監視を増やしましょうか?」
「そうね、ドルンズ様にもその事は伝えておきましょう。
…ねぇエヴァンス、血霧の傭兵団はすでにこの都市に侵入していると思う?」
厳重な警戒網を敷いているとはいっても凄腕の傭兵団相手にどこまで通用するのか、アドリアナは気になったのだろう、エヴァンスに尋ねる。
アドリアナは血霧の傭兵団が既にこのノルドランドに潜入しているのではないかと疑っていた。
そうなると、何らかの工作を企てているのではないかと不安に駆られたアドリアナはオニワーヴァンを使ってノルドランドで何か不審な情報が上っていないか探らせる事にした。
「可能性は高いかと。
破壊活動を好き放題にして撤退…といった悪質な嫌がらせをするだけでも十分考えられますし、カインズ…王子の依頼を受けて何か行動する可能性もあります。
なんにせよ…あの側近、ドームズという男は要警戒ですね、おそらくは彼が連絡役でしょうから」
今回カインズは側近をドームズしか連れてきていない。
それはつまり、全ての業務に彼が関わっているという事。
「…まずはドルンズ様と会いましょう。
話はそれからね」
心の内に溜め込んだモヤを吐き出すためにも、アドリアナは明日の会見を待ち遠しく感じていた。
× × ×
次の日、私はドルンズ様のいる応接室へと招かれました。
そして予想通りなのですが、カインズも行きたいと言ってきたので、少々ごねる演技をして連れてきましたわ、計画通りです。
いつもの様に私が連れてきたのはエヴァンス、そして別室にはドレヴァンを控えさせています。
案内された先にマリウス陛下を上回る体格をした軍服と間違えそうな特注の服を着た男性が待ち構えていました
「久しぶりだなリア嬢よ!!
元気そうで何よりだぞ!!」
怒号ではないのに空間が響くような大きな声をかけたのはドルンズ様…ライゼガング・ラズィ・ドルンズ辺境伯。
代々軍人家系とあって体格も一般人と違い厚みのある身体と高身長、私はこの方より恵まれ過ぎた体格を持った方を見た事がありませんわ。
顔立ちも整っているというよりも先に睨まれているのではという錯覚に陥るほどの強面をしていて、子供が見ればまず間違いなく泣きますわね。
カインズも驚いて目が点になっていますわね…まぁ、私もそうでしたし、むしろこの方と初めて会って『軍人系貴族』というものがどれだけ私たちの知る貴族とかけ離れた存在なのか思い知りましたわ。
「…ドルンズ様も、お元気そうで何よりですわ。
いつもの様に物資と『手土産』をお持ちしましたわ。
目録はこちらになります」
修正入りした目録を渡し、別枠でその理由を書かれた報告書も渡すと、大雑把に目を通したドルンズ様は私たちのいる前で舌打ちした。
あまり褒められた事ではありませんが、近くにカインズがいるというのも大きな原因なのでしょう。
私との再会を喜んでいましたが、それと同じ位目の前にいるカインズをこの手で縊り殺してやりたいくらい憎んでいるのですから。
ドルンズ様は御年62歳、全く見えませんが私と同じ年頃の双子の孫がいます。
そして、当然孫ということは息子…娘夫婦がいるはずなのですが、ドルンズ様は未だ現役で当主を続けられています。
実は、娘夫婦は前の戦争で残念なことにお亡くなりになってしまっていますの。
それが理由で、ドルンズ様は孫の双子の内どちらかに引き継がせるまで当主を続投されているのです。
まあ、その2人の孫も現在このノルドランドにいるのですが…この会見が終わったら、会いに行きましょうか。
「いつもリア嬢には感謝してもし足りんな!!
ワシをはじめとした領民たちもリア嬢たちのいる南東側には足を向けて寝られんわい!!」
…ドルンズ様は変わった布告をしていまして、就寝時南東に向けて足を向けてはならないという布告をしていますの。
…南東というのは公爵領のある方向で、あの戦乱の復興には各地の貴族の方々も尽力していただいたのですが、公爵家には特に世話になったとかでその布告をしたとの事なんですが…お父様もそれを知った時は固まっていましたわね。
私は最初何を言っているのかさっぱりでしたが、後になってドルンズ様の出した布告がどれだけ感謝しているのか知る事になりました。
「……それで、そこの御仁が?」
声に険が篭っていますわよドルンズ様、落ち着いてください。
「はい、こちらがノースエンド王国第二王子であらせられるカインズ様です」
「…お初にお目にかかる、ドルンズ辺境伯。
私は…」
「―――結構だ、カインズ王子。
ワシは貴殿と話し合う行為をする予定は今後一切無い。
…リア嬢よ、事前に知らせてくれた文にコレを連れてくるとあったが、まさか本当に連れてくるとはな、何を考えておる?」
「ぶれいなっ!!
貴様、この方をどなたと心得ている!!」
側近のドームズが激昂してドルンズ様にいきり立つとすごい剣幕で息巻いています…すごいわね、ドルンズ様に無謀にも立ち向かうだなんて。
まぁ、確かに他国とはいえ王族の方々の話を遮るなんて不敬もいい所なのですが、今回ばかりはドルンズ様には通用しないでしょうね。
「無論、敵国の王子にして娘夫婦の仇じゃな。
王子よ、一度しか言わぬから心して聞くがいい。
この要塞都市に入って未だ何故主らが危害を加えられていないのかをな」
…シナリオ通りなのですが、演技に熱が入りすぎて…いえ、殆ど本音なのでしょうがドルンズ様が手を出さないか心配ですわね。
ドスの利いた口調でドルンズ様は私の方を指差し、『これだ』と言って大きく吸いました。
私とエヴァンスはすぐに耳を押さえます。
「リア嬢が、この北の大地アイゼンブルク州にとって大恩あるロンドベル公爵家の娘にして次期当主の彼女が連れてきたからだ!!
大恩ある一族の彼女が連れてきていなければ、主らがこの都市に入って5分とかからず八つ裂きにされておったわ!!
リア嬢も無論商会を通じてワシらに支援をしてくれる大恩人じゃ、そんな彼女の面子を潰す訳にはいかんから主らが五体満足でいるのじゃ、勘違いするでないわコゾウ!!」
ビリビリと耳を押さえていても響き渡る轟音にクラクラします、えっと、今ドルンズ様なんて仰っていたのかしら?
ドームズはドルンズ様の口撃に腰を抜かしたのかへたり込んでしまいましたわ、勇者敗れる、ですわね。
カインズに至っては…これはこれですごいですわね、目を開けて固まっていますわ、気絶しているのかしら。
「…悪いが失礼するぞリア嬢よ、挨拶を済ませた後は今後の予定を話し合う予定じゃったが、こんな不快な者がいる場所では碌な話も出来ん!!
一秒たりともこの場に居たくないのでワシはこれで失礼する!!
案内の者を遣すゆえ、今日の所は戻るがいい」
普通、どれだけ怒りに震えても客人を叩き出すというのならともかく、自分の方からその場から立ち去るというのは貴族社会でも滅多に見られる事ではありません。
カインズが来る事でドルンズ様にはその様に演技するよう…まぁ、十中八九本気なんでしょうが、事前に通達していましたので事が運びましたわ。
八つ当たりするかのように扉を叩き付けて部屋から出たドルンズ様がいなくなり、残ったのは私とカインズ様、そして側にいるエヴァンスとドームズだけです。
「…カインズ様、私共もこれで失礼しますわ。
ドルンズ様にあのような形で帰られてしまうと、今後の交渉が非常に困難なものになりますので。
カインズ様は落ち着かれましたら客室に帰られるといいでしょう。
ですが…部屋の外には出ないことをお勧めいたしますわ。
何かあってはお互い困った事になってしまうでしょうから」
「…ああ、そう…か」
あら、起きていたのね、まともな反応が出来ていないけど。
私は一礼すると部屋を出た。
そこには2人の使用人が控えていて、その内1人がカインズたちの案内役なのでしょう。
私はメイドに案内されて自室―――驚くべき事に、この城にはロンドベル公爵家専用の客室がありますの、無駄遣いはやめてほしいですわね―――ではなく、別の部屋へと案内されました。
そこにいたのは―――、
「すまんかったなリア嬢、あんな大声を出して!!
つい演技と思っても熱がなぁっ!!」
「…いいえドルンズ様、迫真の演技でカインズ様たちもあれが演技だとは思わないでしょう。
ご協力、感謝いたしますわ」
ドルンズ様がドレヴァンと共に迎えてくれました、開口一番謝罪を口にされていていますがあまり反省した様子がありませんわね、してもらっても困るのですが。
「……それでは、邪魔者から都合よく離れられた事じゃし、話し合いといくかな」
ドカリとソファーに座ってニヤリと笑うドルンズ様に、私は苦笑しました。
やはりこの国の出来る貴族というのは、この笑い方がとても似合いますわね。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想、ご指摘、誤字脱字等々よろしくお願いいたします。