第七話 おーっほっほっほ、すべてお見通しですわぁっ!!
遅くなった挙句、5000文字以下という短い量に作者もびっくり…。
エタってはいないのです、ただエンジンがかかり難い状況なのでただただ申し訳ないとしか…。
次の投稿は、27日か28日のどちらかになる予定です。
*ブックマーク350件を超えました、ありがとうございます。
8月までに1人目を片付けたかったですが、足が出てしまいそうですね、残念です。
アドリアナ一行はあれから北の都ノルドラントを目の前にして、今日は一つ前の街ガリバンにて宿を取っていた。
残念ながらこの街には高級宿が一つしかない為にカインズたちと同じ宿になってしまったが、初日の失敗からかカインズはミスティやザックスとは最低限の顔合わせで済むように行動しているのが見られ、その意図に気付いたアドリアナはカインズの行動を黙殺した。
フェイレンで途中合流したロンドン商会の商会長ドレヴァンからの『仕込み』にしても万全という報告を聞いて、先日影を見せた血霧の傭兵団にもカインズたちにも警戒を怠らないアドリアナは目を光らせた。
「…ではカインズ様、今日も馬車での道程お疲れ様でしたわ。
食事までまだ時間がありますので、用意された部屋でお休みくださいませ」
「……分かった、そうさせてもらおう」
借りてきた猫の様な大人しさで歩いていくカインズの背を見送り、見えなくなった所でアドリアナたちも自室へと入っていく。
そこにはすでにザックス、ミスティ、ドレヴァン、そしてエヴァンスが揃っていた。
「…お待たせいたしましたわ。
それでは、作戦会議を始めましょうか」
楽しそうに笑うアドリアナに、一同は頷いた。
エヴァンスが壁にある装飾に手をかけるとそれが外れ、中からラッパのような物が生えていて、ザックスが首を傾げた。
「アドリアナ嬢、それは…?」
「ザックス殿下、まずは耳を澄ませてください。
面白いものが聞こえてきますわよ?」
アドリアナに言われるがままにザックスは耳を澄ませる、ミスティも興味があったのかザックスの真似をして耳を済ませていた。
可愛らしい2人に和ませていると、ラッパからどこか聞き慣れた声が聞こえてくる。
『―――だ、このままでは―――』
『―――ですね、ここから―――』
「ザックス様、これ…」
「…こ、これって!?
カインズ王子の声じゃないか!!
それに…もう一つの声は側近の…?」
ザックスの言ったとおり、ラッパの部分から聞こえてきたのはノースエンド王国第二王子カインズとその側近ドームズの話し合っている声である。
しかもその内容は今回の辺境への訪問時にアドリアナにどう自分をアピールする事で好印象を与えられるのかという話で、その中に『危機を共有することで二人の距離を縮める』というものがあった。
「…興味深い案件ですわね、つまりカインズ様は何がしかの『危機』を演出する可能性が出てきたのですね」
それが先日の強盗未遂事件、その陰にいたとされる血霧の傭兵団を利用するという事に繋がるのか。
可能性としては最も高く、自作自演な以上は命の危険はないのだろうが、それでも不快な事には違いない。
特に間近で巻き込まれるアドリアナにしてもそんな面倒御免蒙るとでも言いたげな顔をしてラッパを睨み付けている。
「あ、アドリアナ様、この会話って向こうには聞こえないのですか?
当たり前の様にこちらは喋っているのですが…」
「ええ、大丈夫ですわミスティ様。
一方的に音を送る機能しか持っていませんので、こちらは好き勝手に話しても、向こう側にはこの声が届いたりする事はありませんわ」
【彼女】の記憶から取り出した『トーチョーキ』と呼ばれる代物を参考にして作り上げたこのラッパはアドリアナたちのいる部屋のちょうど上、二階に位置していて、装飾にして隠している為見つかる事はない。
そもそもこの宿屋自体がロンドン商会の持ち物という事もあり、設計から建設、人員まで全てに掛けてアドリアナ好みの趣向が満載していた。
ロンドン商会が関係している宿屋にはこの仕掛けが殆どされていて、この事を知っているのはその地方を統括する貴族、国王マリウス、そしてアドリアナと身近にいる者たちだけだ。
そしてザックスはこれがどういう事を意味しているのかを瞬時に理解し戦慄した。
誰もいないと思い込んで漏らした情報をこうも容易く手に入れられるという事実に。
「アドリアナ嬢、貴女は…」
「ザックス殿下、この件に関しましては陛下より許可を頂いていますわ」
アドリアナの一言で、ザックスの口にしたかった言葉は全て封殺される。
とは言え、ザックスはアドリアナを批難したかった訳ではない。
悪用してほしくないと、そう言いたかっただけなのだ。
ザックスとて、この宿屋による情報網がどれだけ貴重なものか分かるし、それを一から構築したアドリアナの功績も重々理解した。
現在ロンドン商会が関わった宿屋は王国の四割に及び、その殆どが富裕層、特に貴族に人気のある宿屋が大半だ。
一般層では手の出せない宿泊料金なので、利用者を選ぶという事もある。
もちろん、ロンドン商会は一般層でも手の出せる宿屋を経営したりもしているが、情報の量と質を考えての事だ。
アドリアナにしても、その事を知る商会長のドレヴァンもこの盗聴行為を多用してはいない。
怪しい人物や不審人物にしかこの機能を使っていないという事をアドリアナは説明して、ザックスはそれ以上この件に関しては口にしない事にした。
ミスティにもザックスはこの事を他言しないようにと約束し、ミスティもザックスの言葉に頷いた。
「…それにしても、カインズ王子は本当に血霧の傭兵団と契約しているのかな?
『二つ名持ち』といえば…雇うとなればかなりの大金が必要になってくるよね、どこから調達したんだろう?」
ザックスの疑問に、アドリアナも同意する。
ノースエンド王国といえど、現在は財政が逼迫していて『二つ名持ち』の傭兵団を雇うような金があるなら、エイルネス王国への賠償金や国の運営に力を注ぐべき状況になっているのだ。
「…協力者がどこかにいるのでしょう。
少なくとも、我が国以外の…ノースエンド王国に属する貴族ですわね」
影働き(オニワーヴァン)といえど、全ての情報を知り尽くしているわけではない。
殆どがロンドベル公爵家の利益に繋がる情報を中心に手に入れて来るため、それ以外の情報となると一気に捜索範囲が広大になるからだ。
「お嬢様、カインズ…王子のご実家などは如何でしょうか?
側室といえど確かその実家は伯爵家の中でも裕福な資産家として自分も何度か聞いた事がございます」
「なるほど…となると、今回の一件はノースエンド王国が仕組んだというよりも、第二王子派ともいえる派閥の独断と見ればいいのね」
エヴァンスの助言にアドリアナは事の状況を把握した。
カインズの実家もこのままではカインズの命に危機が及ぶと判断して影で協力しているのだろう。
ノースエンド王国の王都に血霧の傭兵団の本隊がいるという事は、つまり今回派遣されているのは分隊、小隊規模という事になる。
「……明日の会談で、ドルンズ辺境伯に警備に関してご忠告しなければならないわね。
まぁ…あの方なら喜んで『復讐戦の機会を得た』なんて喜びそうだけど」
辺境伯ドルンズのノースエンドへの恨みは現在に至るまで衰えておらず、現在進行形でノースエンド人を恨んでいると公言しているほどだ。
そこにノースエンド王家に連なる王子を連れて行き、更に何か怪しげな計画が進行しているとなれば、『十分な手土産』になるだろう。
「…ドルンズの小父様、怒ると怖いんだよね」
ザックスが何故か遠い目をしているのだが、2年ほど前にザックスが夜会の折ドルンズに見当違いな発言をして、それに怒ったドルンズが激怒するという『珍事』が起きたのだ。
その発言というのが、辺境の建て直しに方々の貴族と夜会で顔を繋いでもらい、何か良い商談がないかと回っているドルンズに、ザックスが『大変だろうけど頑張って』という普通に見れば極当たり前の激励の言葉だったのだ。
だが、ドルンズは違った。
『勘違いなさるなザックス殿下!!
ワシは領民達の為にしている事を『大変』などと思った事は一度としてない!!』
会場中に響くほどの声を上げたドルンズに、あわてた国王マリウスも謝罪するという事態に発展したという珍事で、アドリアナもその場にいたためよく覚えていた。
領民を愛するあまり、自身の全てを原動力にして働き続ける仕事中毒者にしてアリストに匹敵する愛国者。
その怒りの矛先は常に北へと向かっていて、再び北から侵略の魔の手が挙がれば、国王マリウスより増員された北方の砦ハイアデスを任された王国軍、そして北方における領邦軍合計8万が待ち構えている。
特に領邦軍は復讐の刃を研いでいるのだ。
不謹慎ながら、ドルンズは北の再侵略を一日千秋の思いで待ち構えていた。
彼の苛烈な人柄を想像したザックスは身震いすると、咳をして誤魔化す。
「…犠牲者が出ないように、こちらも細心の注意をしておこう。
血霧の傭兵団の戦力が完全に把握できない以上、用心に用心を重ねて悪い事じゃないからね。
アドリアナ嬢も、それで良いかな?」
「了解致しましたわ殿下、随時そのように取り計らいます。
エヴァンス、近衛騎士団長のカリギュスト様を呼んできなさい、事情を説明するわ」
「畏まりました」
ザックスの言葉にアドリアナは了承すると、すぐにエヴァンスに警備の責任者であるカリギュストを呼ぶように命じる。
一礼すると部屋を出たエヴァンスがカリギュストを連れてくるのに、そう時間はかからなかった。
事情を説明し、カリギュストが警備体制をすぐに変えれば怪しまれる為、ギリギリまで動かず、すぐに行動できるように通達するのみに留める様に提案した。
アドリアナたちはこの提案を快諾し、カインズたちに悟られないよういつも通りの行動を心掛ける様に全員に指示し、エヴァンスを残して解散した。
× × ×
解散し、エヴァンスと残った私は難しい表情を崩さず、『トーチョーキ』から未だ垂れ流されているカインズとその側近の言葉を耳にしていた。
「…それにしても、知れば知るほど不快になる人間というのも珍しいものですね。
カインズ…いっその事暗殺出来ればどんなに良いか、本当に残念です」
人形めいたエヴァンスの容姿が歪む、最近のエヴァンスはカインズ…いえ、婚約者候補の彼らの事となると感情が表情に出やすいわね。
良くも悪くも成長したと言えばいいのだけど…素直には喜べないのよね、複雑だわ。
「そうね、けど彼を殺せば即座に戦争よ、しかもその時は完全にこちら側に非があるし、何よりノースエンドと今更戦争した所で、得る物なんて何もないわ。
あんな不毛な大地、赤字物件以外の何物でもないのだから」
ノースエンド王国はエイルネス王国と違って食糧を輸入に頼っていて、その代わりに豊富な鉄鋼資源を輸出する事で何とか国を維持出来ていると言っても良い。
確かに鉄鋼資源は魅力的だけど、エイルネス王国にだって豊富な鉱山はいくつもあるしノースエンド王国だけと交易しなければならないと言うほど逼迫してはいない。
国交は最低限回復していて、その中に鉄鋼資源を一部買い取るという条文はあるけど、輸入の際北から入ってくる商人たちをドルンズ様は忌々しそうに睨んでいると聞いた事がありますの。
正直、今まで商人たちの『事故死』がなかったのはドルンズ様の忍耐のお陰なのでしょう。
「…鉄鋼資源なんて、採り尽くしてしまえば後は何の価値もないわ。
一年後…いえ、明日にはなくなってしまうかも知れない鉱山だけの国を管理するなんて、絶対にイヤよ。
貧乏クジにもほどがあるわ」
「早くあの4人を叩き出して、平和な日々を取り戻しましょう。
その為にも…」
「その為にも、まずは1人ずつ、確実に仕留めるわ。
エヴァンス、計画に変更はないわ。
見届けなさい、私の『完全勝利』の道筋を」
深々と一礼するエヴァンスに、私は二階にいるカインズのいる部屋を睨みつける。
覚悟なさいカインズ、そして血霧の傭兵団。
私を…この国を嘗めた代償、高くつきましてよ?
さし当たっては明日より始まる北の都での一幕を万全にするため、早く休むとしましょうか。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想、ご指摘等々、よろしくお願いいたします。