第五話 おーっほっほっほ、カウントダウンの始まりですわぁっ!!
遅くなりまして、大変申し訳ありません。
カウントダウンが始まりました…とっても短いですが。
区切りを良くするため、今回はアドリアナ視点のお話は抜きにして、次話に繋ぎます。
次回からカインズたちにじわじわとジャブが…きますよ。
次回は2日後、8月19日となります。
アドリアナが学園に休学届けを出し、同時にカインズも休学届けを出した事が一部の生徒に知れていたが、それはアドリアナが故意に流した情報だった。
これでカインズがアドリアナと共に行動して、問題を隠滅する事を出来ない様にしていたのだが、さすがにこの段階では誰も気付く事はなく、周到な計画は順調に進んでいた。
そして出発当日、アドリアナは王都の北門でザックスとミスティと共にカインズ達を待っていた。
予定している時刻を既に1時間が経過している。
「…指定していた時間を間違えたのかしら?」
相手が一向に現れない事に対し、アドリアナは自分が書いた手紙に指定していた時間を間違えたのかと首を傾げていたが、エヴァンスは『有り得ません』と断言した。
アドリアナがカインズ宛に手紙を書いていた際、エヴァンスも同席して内容を把握していたからだ。
「きっと相手は文盲なのでしょうね。
お嬢様のお手本になる様な綺麗な字が読めないだなんて…幼等部の子供でも分かる事なのですが」
吐き捨てるようにのたまうガラの悪い執事にザックスとミスティが目を丸くして驚いていた。
淡い金髪とまるで人形のような作り物と勘違いしてしまいそうなほど精緻な造詣をした彼が表情を歪めて毒を吐くなど、まるで予想していなかったのだろう。
庭園で顔は合わせたが会話する事無く別れ、ザックスたちを公爵家に招いた時も会話らしい会話など全くしなかったからだ。
「エヴァンス、そう毒を吐かないでちょうだい、殿下たちが驚かれるでしょう」
「失礼いたしました、お嬢様。
ザックス殿下、ミスティ様、お耳を汚すような発言をしてしまい、大変申し訳ありません」
「き、気にしないで…」
「は、はい、大丈夫ですよ…」
深々と頭を下げたエヴァンスに、恐縮しながら慌てるザックスとミスティにアドリアナは内心同情した。
エヴァンスが本心から謝っていないと察しての事なのだが、エヴァンスに気圧されてしまった2人はアドリアナが用意した馬車に一足先に乗ると伝え乗り込んでいく。
カインズを迎える為に彼是1時間ほど立ち通しだった所為で足が痛くなったのだろう、と好意的ににアドリアナは解釈した。
間違っても、草食動物たちが肉食動物から逃げる為に巣穴に逃げた…という妄想はしていない。
「…そういえばエヴァンス、ドレヴァンはどこで合流する予定になっているの?」
「ここから3つ先の街にあるフェイレンという街でございます。
3日目に合流する予定ですね、既に『仕込み』の方も用意出来ていますので、予想していなかった事態にも十分対処が可能の運びとなっています」
今回アドリアナたちがロンドン商会の商会長ドレヴァンと途中合流しドルンズ辺境伯領への道程は綿密なスケジュールを基にアドリアナが作成しているのだが、既に予定が狂い始めていて今日泊まる宿のある街に閉門時間まで間に合うのか怪しいものとなってきていた。
「…そう、護衛の者たちも十分いるし、情報にあった血霧の傭兵団が襲ってきても十分対応可能…と思ってもいいのね?」
血霧の傭兵団の本隊はノースエンド王国の王都に駐留しているとの情報があるが、それでも別動隊が秘密裏にエイルネス王国に潜伏していないとは限らない。
百戦錬磨の『二つ名持ち』である、アドリアナも油断はしていない。
とはいえ、情報不足な点が否めない為に可能性の話をエヴァンスに洩らした。
「無論です、お嬢様。
この時の為に、公都より『刀刃隊』の精鋭たちを招集しています。
北の道程は遠足気分の安心安全が保障されています。
陛下からも近衛騎士団から団長のカリギュスト様が派遣されていますし、何も問題はないかと思われます」
警備体制についてはアドリアナが【彼女】の知識を参考にした特殊戦闘部隊『刀刃隊』と呼ばれる騎士たちが道中の護衛につく事となっている。
アドリアナが考案した特訓方法と専用の『カタナ』と呼ばれる片刃の斬る事に特化した武器を主体に闘う彼らは創設されて10年と経たず、公爵家が保有する領邦軍でトップクラスの戦闘力を有する部隊であった。
そして、国王マリウスからは近衛騎士団長へと昇進したカリギュストが近衛騎士団の精鋭たちと共に旅の警備に協力してくれることになっている。
2つの組織による警備となると何らかの衝突が起こるのではないかと危惧していたアドリアナだったが、父アリストより刀刃隊は近衛騎士団の下につく事がいつの間にか決定しており、王宮にいる父に感謝するのだった。
警備体制についてはエヴァンスに一任していた為、どういった采配をするのか楽しみにしていたアドリアナは、予想以上の出来栄えに喜んだ。
―――これならば、どう転んでも巻き返しが利くと、そう微笑んで。
「…そう、呼んだのね。
しかも配置に関しても問題はなさそうだし…安心してザックス殿下たちとのお話を楽しむとしましょうか」
そして30分後、大幅な遅刻をしたカインズはやって来るなり不機嫌な様子で『出発するぞ』と謝罪の一言もなしに言い捨てると馬車に乗り込み、警備上の配置を無視して先行していった。
「…なんですか、あれ?」
「…もういいわ、アレが何を考えていようと事は既に始まっているのだもの。
ある程度は自由にしてもらいましょう。
けど、そのツケは何十倍にもして取り立てるけれど」
「…その方がお嬢様の精神衛生上非常によろしいかと、自分も賛成です」
あまりの態度に溜まっていた怒りが霧散し、脱力したエヴァンスとアドリアナはぼやくと、すぐさまカインズたちの馬車を追いかけた。
計画通りに進んではいるが、頭を悩ませる原因は衰える様子がない事にアドリアナに酷い心労を与え続けた。
だが、それももう少しだと思いアドリアナは奮起する。
旅は、始まったばかりである。
読んで頂き、ありがとうございました。