第十四話 おーっほっほっほ、見つけましたわぁっ!!
はい、皆様お待たせいたしました。
仕事の都合と個人的な都合で、ようやく第二章、その一話目を投稿です。
二月の一周目に投稿・・・?
ははっ、もうしわけない。
過分な評価を頂きながらも、遅くなりまして申し訳ない。
ではでは、どうぞ。
その日、アドリアナ・ピスタリオ・ロンドベルは王都郊外にあるロンドベル公爵家の邸宅にて、久々に出来た休暇を過ごしていた。
通っているアルドア学園も自主的な休講をしているが単位的に問題はなく、学園側からもおいそれと学年主席のアドリアナに注意を促そうとはしていない。
そもそも通っている理由も学園内にある図書館の内部資料目的ということもあり、目的が達成してしまえば中退しても良いくらいの気持ちでいたアドリアナは、優雅に紅茶を楽しむのであった。
「ふふ、一人目も来週には一時帰国ですか、手土産の方は滞りなく渡しているのかしら?」
アイゼンガルド州での一件以来、カインズは王都に戻るとすぐに休学届けを学園に提出した。
表向きの名目はノースエンド王国から帰国の命が下ったという曖昧なものだが、事実はまったく違っていた。
アドリアナと秘密の契約を交わしてしまったカインズが兄である王太子と対決するための一時帰国、というのが真実であった。
アドリアナにお代りの紅茶を入れていた執事エヴァンスは恭しく頷いた。
「はいお嬢様、万事恙無く。
北方のノースエンド王国でれば喉から手が出るだろう技術書と、その指導員を手配致しました。
今頃は仲良く…とまではいきませんが、最低限の交流をしている所でしょう」
エヴァンスはテーブルにそっと報告書を置くと、アドリアナはざっとその資料を読み始めていく。
名前、性別、年齢、職業、周囲の評価と能力…その全てを考慮しての人材であると見て取ったアドリアナは、念のためにエヴァンスに尋ねる。
「…買収されるような木っ端ではないでしょうね?」
「ロンドベル公爵家に背を向けるような人材ではないのは確かです。
私も直に確認しておりますれば、彼ほどの忠誠心であれば必ずや、ノースエンドの地を発展させてくれることでしょう」
優秀である兄よりも、扱いやすい弟を王位につけるという、いわば内政干渉ともいえる行為をしているにも拘らず、アドリアナは落ち着いていた。
というよりも、むしろ上機嫌でいた。
厄介な婿候補が一人減ったのがその要因なのか、そばにいるエヴァンスもどことなく動きが軽快ということもあり、機嫌が良いようにも見られた。
「よろしくてよ、エヴァンスが言うのなら心配しないわ。
それにしても、『彼女』はまだ見つからないのね…まさか、私が運命を変えたことで、この十年で『彼女』の実家に何か起きてしまったのかしら?」
とはいえ、公爵令嬢である彼女が優雅に紅茶を楽しんでいたのは最初の十分ほどで、残りの時間はこうしてエヴァンスと最近の近況や今後の計画の予定を立てることに使っていた。
特にアドリアナにとって現在の最重要事項ともいえる案件『新たな主人公に面倒事をまるっと押付けてしまおう作戦』は依然として幸先の目処が立っていなかったのである。
自らの死を回避する為に費やした十年の内、怪しい動きを見せた貴族家は容赦なく潰してきたアドリアナとしては、まさかその中の家族に『彼女』がいたのでは…という可能性があるのではと感じていた。
「件の男爵令嬢の件ですね?
オニワーヴァンの彼らも学園に所属している男爵家令嬢は全て調べ終えました。
お嬢様も目を通していただいてお分かりかと思いますが、結果は全滅です。
こうなると、後はエイルネス王国全土の男爵家から探すこととなります。
…お時間はもう少しいただけると」
言葉を濁すエヴァンスに、アドリアナは気にしないで労いの言葉を声をかけた。
オニワーヴァンから届いた報告書を読んで、『彼女』を探すことが長期戦になると予想していたからだ。
「既に事は起きてしまっていている以上、『彼女』を見つけられたとしても、身代わりにすることが出来るかは怪しいわ。
言ってみれば、可愛いくてそこそこの能力のある男爵家令嬢と、美しくて賢くて極上の条件の揃った公爵家令嬢。
餌としては後者に目が向いてしまうというのが当然というものじゃなくって?」
「お嬢様、御自分のことを餌などと表現するものではありません」
お小言を受けながらも、アドリアナは気にした様子もなく考えを巡らせていた。
四人の王子の内一人を退けたものの、いまだアドリアナはこの情況が好転したように思えなかった。
アドリアナの知る『モジョ』の持つ記憶は大半が恋愛に関してのものばかりで、近隣の国家の情勢はまるで興味がなかったのか、申し訳程度にしかなかった上に、アドリアナは既に知っていた情報だった。
「…ダメね、彼女の捜索は一旦中断して、ノースエンド以外の三ヶ国の情勢を優先的に調べるわ。
エヴァンス、オニワーヴァンたちを最低限を残して、残りは再配分して各国に追加要員として派遣するように手筈を整えて―――」
『―――お嬢様、吉報をお持ちいたしました…ござる』
天井裏から声が聞こえてくる。
聞き覚えのある声に、アドリアナとエヴァンスが思わず天井を見つめた。
オニワーヴァンの中でも選りすぐりの人材、【ジョウニン】のミハヤの声だった。
相変わらず慣れていないのか、付けて足したような語尾を律儀に守っている彼に苦笑したアドリアナは、降りてくるように命じた。
天井の一部を開けて音もなく降り立ったのは、黒装束に黒頭巾という黒子の人物だった。
長身で体格からして男性としか分からない彼はアドリアナを前にして、跪いて礼をとった。
ロンドベル公爵家に長く仕える彼らにとって、次期公爵であるアドリアナは礼を取るに相応しい主だからだ。
「…お嬢様のご尊顔を拝し奉り、まことに…」
「そういうのはいいから、吉報の内容を教えてちょうだい。
周辺諸国の王が急病で倒れてエイルネス王国にいる私の婿候補たちが帰国の準備を始めたとか、ロンドン商会の今月の売り上げが過去最高を叩き出したとか、ロンドベル公爵家の今月の事件件数が過去最低だったとか…どんな内容なのかしら?」
とはいえ、ミハヤの挨拶もアドリアナは吉報の内容が聞きたかったのか、挨拶をぶった切ってしまった。
反応に困る喩を出されたミハヤは苦笑しながら懐から一枚の封筒を取り出した。
エヴァンスはミハヤから封筒を受け取りアドリアナに手渡すと、アドリアナはペーパーナイフで封筒の封を切る。
「………ミハヤ、これ、本当なのね?」
「ははっ、状況からして、彼女以外の何者でもないかと…でござる」
「お嬢様、自分が見ても良い内容でしょうか?」
エヴァンスもアドリアナが読んでいるものが気になったのか、許可を願うとすぐにアドリアナはエヴァンスに吉報の内容を口にした。
「エヴァンス、見つかったわ」
その一言で分かったのか、エヴァンスは一瞬だが大きく目を見開くと恭しく礼をとった。
「おめでとうございますお嬢様。
後は彼らと彼女を巡り合わせてしまえば…」
「おーっほっほっほ!!
さぁミハヤ、彼女を呼んできてちょうだい!!
私自ら彼女が使えるかどうか、確かめて差し上げてよ!!」
「ははっ、すぐに連れてまいるでござる」
高らかに声を上げたアドリアナにこの場にいる誰もが驚くことなく、ミハヤは一礼すると物音を立てることなく天井まで飛び上がると、どこかへ行ってしまった。
「……お嬢様、詳細をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
話が一部付いていけていないエヴァンスは、高揚気味のアドリアナに努めて冷静に声掛けを行うと、驚くべき答えが返ってきた。
「件の男爵家令嬢ね……今公爵家邸宅にきているのよ!!」
機嫌の良くなったアドリアナは滅多に見せない満面の笑みをエヴァンスに向けると、もう一度『おーっほっほっほ!!』と高らかに声を上げた。
アドリアナの波乱に満ちた人生の第二幕、二章目が始まろうとしていた。
?????『おーほっほっほ、どんな娘かしら?』
??????『お嬢様の御眼鏡に適う娘だといいですね』
次回、『第十五話 おーっほっほっほ、とある男爵家令嬢の呟きですわぁっ!!』
予定は…今月だといいな!!
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。