第十三話 おーっほっほっほ、フラグをへし折りましたわぁっ!!
タイトル通り、第一章はこれにて完結です。
あとは後日談が少々、といったところです。
時を少し巻き戻しましょう。
ザックス殿下はこの計画の結末を知る前に反対の意見を取られました。
やっているのは相手のマッチポンプを完全に上回る代物ですから、悪辣とか卑怯とか、殿下はそう思うのでしょう。
婚約者のミスティ様は顔色を悪くしているが口を開こうとはしません。
婚約者とはいえ、未だ王籍に入っていない彼女には本来この会話を聞く資格を持っていませんもの。
ですがこの甘さの目立つ2人が次代の王と、その王妃なのです。
この2人の覚悟を再度確かめる為に、私は心を鬼に致しましょう。
「確かに、カインズ殿は本国ではかなり危険な立場にいるのは分かる、分かったよ。
アドリアナ嬢の隠密から齎された情報だ、かなりの確度なんだろね。
だけど、そんな彼が意を決してこの国に来たというのに、アイゼンガルド州の殆どの貴族が寄って集って!!」
「殿下、何も私は彼が嫌いでこの様な手段をとっている訳ではありませんわよ?」
いえ、実際カインズの頭の悪さには辟易していますが、それだけでこの婚約を退けた訳ではありませんわ。
北部と西部の反発、そして陛下も難色を示すだろうこの婚約に一体何の利益があるのでしょう?
カインズをロンドベル公爵家が入り婿として迎え入れれば、カインズはおそらく自分の身の安全に安堵して、私に協力的にはなってくれるでしょう。
…で、ろくな能力もない、ただ逃げ回り続けてきたカインズに夫として何をしてもらうというのです?
成績は中程度、剣術や指揮の腕が際立っているという訳でなく政治経済も素人に毛が生えた程度。
えっと………ないでしょう?
彼との子が生まれれば、低位ではありますがノースエンド王国の王位継承権が手に入りますわね。
ですが、あんな貧寒極まる国を手に入れて、一体何の利益があるというのでしょうか?
間接的に属国に出来るというの点はあるでしょうが、現状素寒貧で何の旨味もない相手を属国にしたところで利益じゃありませんわよね。
「殿下、殿下が王族として守るのは民草です、それはご理解いただけていますわね?」
「そ、そうだよ。
このエイルネスの民草を守り、富ませ、平和を築いていくのが、僕の願いだ」
実に壮大で子供らしい願いですわ。
本当に、夢見がちで現実が若干見えていないので早々に矯正しますが。
「では、この国の民でもないカインズを守る、助けようするのはおかしいとは思いませんか?」
「そ、それは…っ!!」
殿下もこれには驚かれていますし、ミスティ様も悲しそうな表情をされています。
泣かせる気はなかったのだけど…まだ早過ぎたのかしら。
けど、遅かれ早かれ教育係には現実を叩きこまれるでしょうし、構わないでしょう。
「殿下はこの国の王となられ、ミスティ様は王妃となられます。
その時何の利益もない、害を持ち込もうとする輩を庇い守ろうとすればどうなるか、聡明な殿下ならばお分かりになるでしょう?
今回の件で言えば、ノースエンドのカインズ第二王子ですわ」
カインズをこの国に迎え入れて、ノースエンドがただ祝福してカインズを送り出すなんてありえません。
低位であれ継承権を持つ子供がいれば、それを大義名分に国に攻め入るという選択肢が出来るからです。
となれば、送り出した先でカインズとその妻であろう私は命を狙われる事になるでしょう。
ロンドベル公爵家となればさらに危険度は高いでしょう、何せ周辺諸国に知られている準王家と見られている我が公爵家が本気で国取りを射程内に入れる事が出来るからです。
エイルネス王国において、ロンドベル公爵家の資産を上回る貴族は存在しません。
周辺諸国にしてもそう、経済の悪化しているサウスザスター、内戦をしているウェスタンスやイストリアと比較してもそう。
唯一我が公爵家の資産を上回るとしたらエイルネス王家くらいのものでしょう。
そんな訳でして、その気になれば国を乗っ取った上に回すだけの資産があるので余計に危険なのです、現実味がありますからね。
懇々と説明する私に表情を硬くさせていく2人に若干申し訳ない気持ちにさせられますが、これも2人の将来の為です。
…というよりも、殿下は少し慌て過ぎのようね。
まだ、本当の結末を見終えていないじゃないの。
「殿下、一つお尋ねしたい事が」
「えっと、何?」
「そちら…もう一つの計画書、最後まで読まれましたか?」
確かに手酷いマッチポンプでカインズには悲惨な末路しか残っていない…と思えるかもしれませんが、死ねば利用価値が減ってしまうので、そんな事は致しませんわ。
―――だって、死んだら利用出来ないじゃない?
その後、改めてザックス殿下はこの計画書を最後の結末まで読まれて、渋い顔をされていました。
…あら、やっぱり後味悪いのかしらこれ?
×××
大捕り物を終えて、アドリアナたちは後始末を任せ、カインズとドームズの2人と別室で相対していた。
アドリアナの側にはドルンズ、ザックス、ミスティ、そしてエヴァンスが静かに控えている。
貴族たちはこの場にはいない、双子たちもこの場にはおらず会場から出てアドリアナからの指示を待っていた。
「…ではカインズ様、この依頼書に心当たりはない、そういう事でよろしいのですね?」
「……くどいぞアドリアナよ、俺はそのようなもの知らぬ」
アドリアナがテーブルに置いたのは、一枚の用紙だった。
ロンドン商会への依頼書であり、つい先日盗難されたものだったという。
襲撃者の話によれば、ある人物からの指示で動いたというもので、その人物がカインズを指してこういったという。
『ノースエンド王国からの依頼で受けたんだ』と。
アイゼンベル城へと潜入する際、ロンドン商会の書類があれば潜入は容易だと下調べで判明し、この襲撃に繋がったのだと訳知り顔で襲撃者は語ったのだとアドリアナはいうと、カインズは知らないと無関係だと声を荒げた。
ドームズもまさか襲撃した血霧の傭兵団が全員捕縛されるなど予想外だったようで、こちらはカインズと違い黙したままだ。
ただ、顔を赤らめているカインズに対し、ドームズの表情は蒼白く震えていた。
警備の不備には責任がこちらにあるとドルンズやアドリアナはいうが、その隙を突いて襲撃者がやってきたのとでは責任の追求所が違ったのが問題だ。
「……では、こちらの用紙も見ていただきましょうか?」
ところどころに血が付着しており、カインズとドームズが顔を顰めるが、それは付着した血に不快感を覚えたからではない。
カインズはこれ以上なく混乱し、どういう事なのか分からず絶句していた。
だがもう一方、ドームズは違った。
アドリアナ以外の、何よりカインズに知られてはならない証拠が出てきてしまい、口元を押さえていた。
その内容を、アドリアナは読み上げていく。
「襲撃者の証言とは少し違いますが…カインズ様のお母様のご実家、カロリアナ家の紋章略印が押された依頼書ですわ。
内容はノースエンド王国第二王子カインズの殺害とありますわ。
あらあら、私てっきりこの依頼書の内容の目標は『ロンドベル公爵家令嬢アドリアナへ』と思っていましたが、随分と変わっていますわね?」
そう、ヴォルフガングたちが襲撃した際、男から抜き取った証拠にはアドリアナたちが知っていた物とはまるで違う証拠があった。
アドリアナに危害こそ加えるものも、それをカインズがその寸前で阻止し関係を深める。
その為に、万が一の為に呼び寄せていた血霧の傭兵団には襲撃を任せ、会場で一暴れした後撤退するという予定だったのだ。
何もかもが違う、カインズの知る計画と、まるで違う何かだった。
「ドームズ、これはどういうことだ!?」
「わ、私にもどういう事なのかは…」
「馬鹿を言うな!!
お前以外の誰がこの依頼書を渡す事が出来るのだと言うのだ!?」
「あら、ではカインズ様はこの依頼書をそちらのドームズが血霧の傭兵団に渡したという事を認めるのですか?」
自分を殺すような依頼書を何故渡したのか、アドリアナは尋ねるがカインズも知らないという。
となると、直接手渡したドームズに注目がいくのは当然だろう。
だが、ドームズも貝のように口を閉ざしてしまい、一向に開く気配がない。
一向に場が進行しないので、仕方なしにアドリアナはオニワーヴァンから送られてきたノースエンド王国の最新情報を元にした推理を披露する事にした。
「ドームズ、貴方のご実家の領地は随分と経済状況が逼迫していたようね?
だけど、宰相府から援助を受けて、状況は厳しいけど借金は帳消しになったそうじゃない?」
「ど、どうしてそのことを!?」
情報によれば、ドームズの故郷であるノースリムス子爵領の経済状況は崩壊寸前だった。
他の領地と違い、子爵領は比較的税率は低い。
だが、それすらも支払えない者がいるほどに経済状況は悪化の一途を辿っている。
治安の悪化も甚だしく、どの村や町もまるでゴーストタウンの如く静まり返っているくらいだという。
納める税が滞り、王国へと送る税も段々と小額になっていき、それを補うため子爵は借金をしてまで領地を守ろうとしたが、もはや風前の灯だ。
だが、半月ほど前―――情報が届くまでの時間を加味し一月ほど前―――事態が急変した。
子爵家が溜め込んでいた借金が何故だか帳消しになり、息を吹き返したのだ。
どういう訳か、宰相府が逼迫している子爵家の借金を肩代わりし、経済援助をしたのだという。
悪化していた領地が一転、宰相府からの手助けにより息を吹き返した。
宰相府は第一王子―――カインズの政敵である兄王子の派閥が完全に掌握している。
状況証拠ではあるが、限りなく真実に近い証拠だろう。
繋ぎ合わせればどういう事なのか、アドリアナだけでなく、カインズでも分かった。
「私、耳が良いのよ。
そう、隣国の声が聞こえるくらいには…ね?」
カインズやドームズはアドリアナがノースエンド王国の情報を詳細に知っているのだと知ると、自分たちがどれだけ規格外の化け物を相手取ったのか気付いた。
だが、カインズの怒りの火はまず先にドームズに向かった。
「…ドームズ、お前まさか…俺を売ったのか!?」
長年側近を務めてきたドームズの裏切りに、カインズは怒りと悲しみがない交ぜになり目から涙が伝ってきていた。
「申し訳…ありません」
それだけしかドームズは口を開かなかったので、アドリアナが追求する。
「つまり、貴方は本来私とカインズ様との関係を近付けようとする裏側でカインズ様を亡き者にしようとしていたという訳ね?
それが宰相府からの交換条件だったと…そういう事なのよね?」
宰相府が密かに側近であるドームズの実家であるノースリムス子爵家に近付き借金を肩代わりする事でカインズを亡き者にする。
報酬を前渡しされた以上、断れば対立している派閥からこの情報が漏らされて子爵家はどの道破滅だ。
これにはその場にいたザックスとミスティも顔を顰めていた、あまりにも人の弱みに付け込んだ卑劣な手だと思ったからだ。
だが、アドリアナとしてはその手際を卑劣とは思うものの否定しなかった。
彼らがカインズを亡き者にする事で得られる物を知って、納得したからだ。
「…ザックス殿下、もしこの事件が…カインズ様が亡き者になった場合、我が国はどのような立場になると思われますか?」
「そ、それは…他国の王子が留学中に賊に襲われて死んだとなると外交問題になるから、我がエイルネス王国がノースエンドに賠償金を支払う立場になる」
アドリアナに既に説明されていた事を気まずそうに答えたザックスは、ミスティの手をぎゅっと握り締めていた。
「…そういう、ことか」
カインズも気付いたのだろう、この事件のからくりに。
自分が賊に殺される事で、ノースエンド王国を生き長らえさせようという事を。
ザックスの言ったとおり、留学中のカインズが死ねばたとえ疎まれていようと王族が殺害された事件だ、そこには謝罪と賠償が発生する事になるだろう。
そう、賠償である、更に言えば賠償金をノースエンド王国は必要としていた。
より正確にいえば、この事件を皮切りに、かつての戦争で提示された賠償金の減額ないし帳消しを狙っていたのだ。
「…殿下、もうノースエンド王国は限界です。
どの領地も借金で首が回らなくなり、小規模ではありますが反乱も起きています。
我が父も最後まで民の為にと身を切っていましたが…限界となって」
「もしこの件がばれたとしても、国内のカインズ様の実家、カロリアナ家の紋章略印が押されている時点で責任は全て実家が負う事になる。
どこをとってもノースエンド王国にとって悪い事ではないわね。
カインズ様が犠牲になる事で国が救われるのだから」
目の前にいる婚約者候補の心に容赦なく刃を突き立てるアドリアナは打って変わって明るい声を上げた。
「では、今後の話をしましょうか」
「今後の話…だと?
今更何の話をするというんだ…」
カインズが遣る瀬無いといった表情をするが、アドリアナは傷心のカインズの事など一切気にせず口を開いた。
「ええ、カインズ様の未来についてのお話ですわ」
アドリアナは語る。
生き残ったカインズが取る手は限りなく少なく、一例をあげれば裏切りの発覚したドームズを切り捨てる事だ。
長年側近を務め上げてきたドームズの裏切りはカインズの派閥に強烈な一撃となって襲う事になるだろう。
少数派である以上、離脱者が出てもおかしくないほどだ。
だが、それが分からないアドリアナではない。
分かっていて尚打つ手があるのだと口にしたのだ。
「…俺は、お前に危害を加えようとしたんだぞ?
失敗こそしたが…いや、そもそも裏切られたと気付かなかった俺が何を言っても道化でしかないか」
「…まぁ、カインズ様が道化なのはこの際否定しようがないので…」
「―――お嬢様?」
エヴァンスがアドリアナの容赦待ったなしの口撃に注意を促す。
カインズに同情している訳ではないが、話が進まないので仕方なく口を挟んだのだ。
「…カインズ様、私が貴方様に好意を抱いていないのはもう分かっておいでですよね?」
「はっきりと言ったな…まぁ、ここまでくるとな」
「となると、カインズ様が目的としていた婿入りも限りなく難しい…というより不可能というのもまた、分かっていますわね?」
「……ああ、分かっている」
すでにこの計画が破綻している上にアドリアナにも事情を徹底的に知られているとあり、これで婿入りできた方がおかしいともカインズは口にして、そこにアドリアナが同意した。
容赦を知らない彼女である。
「では、殿下は今後どのような手を取られるのでしょうか?
そちらの側近を切り捨てるというのなら、止めた方が良いとは思いますが」
裏切りが発覚した場合、切り捨てるのが基本だ。
だが、その基本に対してアドリアナは『待った』をかけた。
「事情はどうあれ、ドームズを切り捨てれば側近すらも切り捨てたというカインズ様の派閥は瓦解するでしょう。
どんなに言い繕っても側近にすら裏切られるような主が派閥の長というのはそれだけで求心力が弱いと見られてもおかしくありませんから。
そして、切り捨てたとなれば孤立したカインズ様は今度こそ殺されるでしょう。
その頃には我が国ではなくノースエンド王国内でしょうから、関係のない話ですが」
「…では、どうしろと言うのだ?
このままドームズを側近のままにして、生き長らえたとして、一体どうなると言うのだ?」
話についていけないのか、カインズがどこか苛立った様子でアドリアナに話を急かせる。
アドリアナもそんなカインズの態度を気にせず話を進めていく。
「カインズ様、王になりたいとは思いませんか?」
この言葉を口にしたアドリアナに、カインズはぞっとした。
ごく当たり前の、まるで日常会話のような軽い口鳥で『王にならないか』と口にしたのである。
どこか納得の出来ていないドルンズは鼻息を荒くし、エヴァンスは冷ややかな視線を向け、ザックスとミスティはどこか可哀想な視線をカインズに向けていた。
「……それは、一体どういう?」
「そのままですわよカインズ様、王にならないかとお尋ねしましたわ。
ああ、間違っても我がエイルネス王国の王になるという話ではありませんわよ?
王妃という地位に興味ありませんし、今の地位で十分満足していますもの」
ザックスとミスティに安心するように笑顔を向けるアドリアナだが、余計に渋い顔をする2人にあまり効果はなかったようだった。
「…じゃあ、俺がなるのは―――」
ようやく理解出来たのか、鈍い頭で答えを口にしようとしたカインズに被さる様にアドリアナは口を開いた。
「ええ、カインズ様に王にとなっていただきたいのは、ノースエンド王国」
密室の中、歴史を変える密談の核心部分が今開かれようとしていた。
×××
2人とも驚いているみたいね、それも当然かしら。
今まで逃げに徹してきた2人がその可能性を示されたのだもの。
「俺が…兄上を退けて…王に?
無理だ、出来る筈が―――」
「ならなければ、待っているのは死だけですわよ?」
現実が見えていないのなら、何度でも直視していただきましょう。
カインズは死ぬ、今はよくても近い未来必ず殺されるでしょう。
私の手を取らなければカインズは他でもない兄に、血の半分繋がった兄に殺される未来しか彼には待ち受けていません。
この兄王子、シグルド第一王子の事を調べてみました。
真っ黒ですこの方、ええ、ドス黒くていらっしゃる。
表面上優れた王太子とされていますが、裏では随分人を死に追いやっています。
遊びで殺してはいません、大抵が政敵や売国奴、無能な官吏を理由を突いては死刑にしているのです、優秀ですわね。
ですが、優秀過ぎる王を隣国に持つと我が国の将来に何らかの禍根を作りかねません。
その点カインズはギリギリ及第点なところが好ましいのです。
派閥は王になるので大きくはなるでしょうが、最大派閥はおそらくシグルドのいた派閥が何らかの形で残るでしょう。
シグルドの派閥の最大支援者は彼の生みの親である王妃の実家であるアドラー公爵家ですからね。
奉り上げる存在がいなくとも、既得権益を守る保守派にでもなって国の発展の妨げになってくれるでしょう。
王であり続ける限り、カインズは生き続ける事が出来るでしょう。
まぁ、子供が生まれればどうなるかはまだ不明ですが。
「カインズ様が私の手を取っていただけるのなら、影から支援を続けましょう。
王になる手助けをいたしますわ、必ず貴方を玉座につかせてみせましょう」
生き残る手立ての中で、最も確率の高いのは私なのですよカインズ。
貴方が生き残り王となる、命を脅かす者は限りなく少なくなるでしょう。
対価としてそれなりの技術供与はいたしましょう、農業限定ですが。
その代わり、貴方は私たちの、エイルネス王国にとって都合のいい隣国の王を死ぬまで演じ続けていただきましょう。
ええ、死ぬまでずっと。
「確かに、そちらの側近はカインズ様を裏切りました。
ですが、それはおそらく立場が逆転していても起きていたでしょう。
決してカインズ様を恨んで裏切ったのではなく、泣く泣く、そう、泣く泣く裏切るしかなかったのです。
幸い未遂で済みましたし、未来の王としての度量をここで私に見せていただけませんか?」
このドームズにも共犯者として生き続けて貰わなければなりませんね。
こちらも対価として子爵領の回復と発展を約束すれば良いでしょう。
急激な発展は余計な火種となるでしょうが、それもまたよしですわ。
「……魔女め」
「あらあら、うふふ…魔女ですか」
あらあら、カインズは悪態をついているつもりなんでしょうけど、そんな弱々しい目で見つめられてもなんとも思いませんわよ?
けど、魔女、魔女ですか…ついに彼女と似たような呼び名で呼ばれるようになるなんて、日頃の行いかしらね。
エヴァンスがカインズを睨んでいますが、私は目で制して止めました。
せっかく良いところなのだから、邪魔をしてほしくないわね。
「では、その悪くて怖い魔女と契約しませんかカインズ様?」
最後に、これ見よがしに手の平を差し出して見ました、ええ、本当にいい顔をしていますわ2人とも。
2人は見詰め合ってお互いに肯くと、カインズが代表として私の手を取りました。
「…よろしく、頼む」
「承りましたわカインズ様、いえ…陛下?
必ずや貴方様を玉座までお連れいたしましょう」
本来の作法からすれば程遠い行為ですが、密約において手を取ったという事は相手の話に乗り、協力する事を指しています。
これにて無事解決、この事件でカインズが留学を切り上げて帰ろうと私たちは共犯者ですわ。
襲撃者である血霧の傭兵団も既になく、公式発表で『襲撃者は全員処刑』とすれば帳尻を合わせられます。
ええ、何もかもが落ち着きましたわ。
婿候補からも自発的に退いていただき、面倒なノースエンド王国は都合のいい隣国への第一歩を踏み出し、アイゼンガルド州も少々ですが鬱憤晴らしも出来て四方八方丸く収まりました。
おーっほっほっほ、完・全・勝・利で、す、わぁっ!!
ようやく1人目ですわ、 フラグをへし折りました!!
王子様は悪い魔女に唆されてしまいました(笑)
はい、こんな恐ろしいオチになるとは作者も予想外、作品が暴走していますね。
なんというか、元々コメディチックに落とすはずだったんですが…作者の頭が固すぎる所為か、『面白おかしく落とせるわけないじゃん国同士の話だぜ?』という思いがどうしても拭い切れず、こんな事に。
読者の皆様の反応が怖さ半分楽しみ半分です。
読んで頂き、ありがとうございました。
感想お待ちしています。