第十一話 おーっほっほっほ、シナリオは快調ですわぁっ!!
もう少し早く更新したかったのですが、本業が忙しく大変申し訳ないです。
今後も拙作、おーっほ(以下略)をよろしくお願いいたします。
PV17万越え、4万8千越えとなりました。
遅まきながら、ブックマークをされた読者の方々に感謝を。
北の都ノルドランドの中で最も目立つ建造物といえば、ドルンズたち領主一族の住むアイゼンベル城だ。
星型要塞都市の中央に位置していて、どの場所から見ても見え、緊急避難先としても利用されるこの城ではパーティーが開かれていた。
そんな中、一台の荷馬車が城の前で止まっていて、門番たちと話し込んでいる。
どうやらパーティーで使用される食事の材料を追加で持ってきたのだが、門番側はこんな時間に持ってくるのはおかしいといって城に通さないのだ。
仕方なしに交渉をしていた代表者が懐から一枚の折り畳まれた紙を門番に渡した。
「…こ、これは!!」
門番がその紙が何なのか分かると、すぐに荷馬車を通す許可を出した。
あまりの変わり様に相方の門番が理由を尋ねると、渡された紙の内容、そして商会印を見せられて納得した。
「そうか、ロンドン商会からの馬車だったのか。
ならば問題もあるまい、通っていいぞ」
門番は彼らがこのアイゼンガルド州でもっとも有名な商会の人間なのだと知ると、態度を改めた。
アイゼンガルド州がノースエンドとの戦争後、最も復興に力を入れてくれたロンドベル公爵家、そしてその一族の次期公爵が立ち上げたロンドン商会はアイゼンガルド州に住む者たちにとって大恩ある存在なのだから。
何せアイゼンガルド州の統括者であるドルンズが『南東に足を向けてはならない』と布告を出すくらいで、恩の感じ振りが桁違いなのだ。
「はい、それでは入らせていただきます」
この時、門番が交代要員でなければ気付いた事があっただろう。
普段このアイゼンベル城へ訪れるロンドン商会の人間がいつも商会印以外に見せる物があったという事を。
交渉をしていた男―――変装をしたヴォルフガングが小さく呟いた。
「…ダメっすよぉ、門番さん。
荷馬車の中身見ない上に会員証の確認もしないなんて…はい減点っと」
ロンドン商会の人間はこのアイゼンベルク城へと訪れた際、発注された注文書の写しと一緒に、ロンドン商会の個人会員証を門番に見せる。
それを問い合わせして担当者の許可がない限り城へは一歩も入る事が出来ない。
門番はその手順を怠った。
ヴォルフガングはシナリオと平行したある任務をアドリアナに命じられていて、それを遂行する為に別行動を取っていた。
それは、このアイゼンベル城の警備試験である。
最新技術の粋を以って建造されたこのアイゼンベル城の警備は概観からしてみれば付け入る隙のない堅固なものだ。
たとえ全方位から大軍を以って押しかけても、この城は落ちないだろう。
だが、アドリアナがこの城を散策した折、どこか緊張感の欠けた兵が要所要所で見られ、この城が鉄壁だという慢心から来るものであると察した彼女はシナリオにこの計画を盛り込んだ。
余裕を持って作られたシナリオは、急な展開となろうが受け入れられ、その役をヴォルフガングが任された訳である。
荷馬車を調理場のある場所のある裏手まで向かうと見せかけて影のある場所へと隠すと、ドームズに指定していた空き室へと向かう。
荷馬車の奥から現れ降りた人数と合わせ、空き室には計12人の人影が集まった。
既に荷馬車は乗り捨てられ、そう時間が経たない内に歩哨に見つかるだろうが、既に場内に張り込んだ時点でこの任務は終了している。
「…んじゃまぁ、報告はこのシナリオを終えたらって事で、始めるっすよぉ」
商人の格好から一変、風格のある皮鎧姿となったヴォルフガングたちは行動を開始する。
彼らは一様に『赤い頭巾』を被り、パーティー会場へと向かう。
シナリオは、順調に進んでいた。
盤上は全て、彼女の思惑通りの展開を迎える。
×××
現在私は面白くもないカインズの、これまた面白くもないノースエンド王国の実情を聞かされていますの。
やれ飢饉だの貴族が不穏な動きをしているだの、心配でもして欲しいのかしら、しないけど。
飢饉になったのは戦争後の復興策に失敗した各領地の、そして王国の問題であって知った事ではありませんわ。
我がエイルネス王国は飢饉なんて最初の1年目で乗り越えていますもの、全力でお父様が解決しました。
貴族が不穏な動きをしているのもノースエンド王家に不満を抱えているからでしょう。
己の不明を恥じるならともかく、王家がもっとしっかりとした力を持っていないのが臣下の不満に繋がっているのに気付かないのかしら?
既に知っている情報だからか、耳を傾けても面白みに欠けて乾いた笑顔しか浮かびません。
というより、そんなに自国の恥部を晒すだなんて恥ずかしくないのかしらね。
それほど必死になって婿入りしたいのだろうけど………我が身可愛さに不良物件の押し売りとかお断りですわ。
そもそも自分を良く見せようとしているところが見えないので、私に好意を持たれようと思っているのかしら?
まさか、全ての女は俺に恋をしている、だなんて頭のおかしい妄想でも湧いているのかしら?
あらやだ、口調が荒れてしまったわ………けどまさか……まさかね?
「…では、カインズ様は婿入りされる可能性が高いのですね」
「ああ、公爵家を新たに作ると領地や資金が莫大なものとなるだろう。
我が国はそこまでの領地の余裕はなくてな、どこかの貴族の婿となることが内々に決まっているのだ」
遠回しにアピールしているのでしょうが、ロンドベル家はおろかエイルネス国内にいる貴族を含めた民は絶対に認めませんわよ?
北部は間違いなく反対、西部もロンドベル公爵家同様少なからず兵が散っていますので良い顔はしないのは間違いありません。
唯一接点がないのは南部ですが、南部を統括しているアズライト侯爵はそもそも損得勘定に厳しい方なので、カインズに価値がないと見抜けばその時点で反対するでしょう。
そしてお父様や陛下からは潰しても良いといわれていますので、再考の余地はありません。
自信満々に語るカインズの猫被りの評価はともかく、またぽろっと重要な情報を漏らしている彼、側近のドームズもその度に眉間に皺を寄せていますわね。
資金がないという割には、血霧の傭兵団を雇うお金はあるようね、お金の使いどころが間違っているわ。
軍というのは金食い虫なのが当たり前、傭兵団はもちろんのこと『二つ名持ち』は更にその上をいく金食い虫です。
田畑も耕せない凶器にお金を払う暇があるのなら開墾しなさいな。
私はそんなアピールに気付かない振りをして、
「婿入り先が決まったら是非御一報ください。
お祝いのお手紙を贈らせていただきますわ」
としたくもない笑顔を浮かべて言ってやりました。
「そ、そうか。
その時がきたら、一報を入れよう。
……失礼する」
あら、この程度で顔を赤くするだなんて、猫の被り方が本当に下手なのね。
そそくさと出て行かれましたが、カインズに近づく方は誰一人としていません。
まぁ、敵国の王子ですもの、話かければ間違いなく騒動を起こし兼ねないので、自制心が利いているの方が多いのは一安心ですわ。
このアイゼンガルド州の貴族にとって、ノースエンドは終戦した今でも敵国なのですから。
恨み骨髄に徹していますので、滅ぶまで恨み続けるでしょうね。
ドームズとしきりに何か話しているのは分かります、大方自分たちの計画がどうなっているのか聞いているのでしょう。
残念…でもありませんが、貴方たちの思惑なんて最初から終わっているのですけどね。
上手くいっていると見せかけて、実は何も上手くいっていない最悪の結末にして差し上げますわ。
「…ところでエヴァンス、そのにやけた顔はどうにかならないの?」
「そんな顔はしていないのですが?」
「何年一緒にいると思っているの、丸分かりよ?」
さっきからエヴァンスが珍しくにやけているわ。
滅多に見せないから貴重なのよね、美形がにやけるなんて相当嬉しい事があったのでしょう。
何に対してかはさっぱりだけど。
…あら、外が騒がしいわね。
役者が来たのかしら?
×××
突如、パーティー会場の入り口が大きく音を立てて開かれた。
最初に入ってきたのはこのアイゼンベル城を守る兵士たちだ。
彼らは必死の形相で会場の中央で立ち止まると、深く大きく吸い声を上げる。
「緊急事態です、襲撃です!!
赤い頭巾をした戦闘集団が10名以上!!
目的は不明、この会場へ向かってきています!!
練度は高く、負傷者が多数出ております!!
皆様、ご準備を!!」
この言葉を聴いた会場内にいる者たちは一様に声を上げた。
特に爵位を持つ男性貴族は目に鋭さを持ち、声を張り上げた。
「班に分かれろ、子供たちは最奥、その次に妻たちだ!!」
「シャマル子爵、武器をお持ちしました!!」
「捕縛用の鉄網はどこだぁっ、こちらの班にないぞぉっ!?」
「剣戟の音が近いぞっ、出来た班から配置につけぇっ!!」
軍人系貴族の当主たちの命令が矢継ぎ早にされ、会場の入り口にはテーブル下から取り出した剣を全員が持ち構えていた。
そんな中、アドリアナはエヴァンスと供にドルンズのすぐ傍まできて事態を静観していた。
カインズは客人ということもあり後続でやってきた騎士や兵士たちに囲まれている。
「アドリアナ、お前もこちらに来た方がいい。
賊が来ている以上、戦闘能力のない女人が前に出ていれば護衛を危険に晒す事になるぞっ」
護衛のいる中からカインズが声を上げるが、アドリアナは意に介さず、冷たい声で返した。
「ご心配なくカインズ様、これでも私は護身術に自信がありますの。
賊の1人や2人、軽く対処出来ますわ。
それに、カインズ様はどうやら誤解されていますわね」
「誤解だと?」
この状況下で何をと訝しんだカインズはその答えをすぐに知ることとなる。
「―――皆様、短剣はお持ちですか!?」
「盾持ちの皆様は連携の最終調整を!!」
「投擲班は装備の最終点検をお急ぎくださいまし、遅れていますわ!!」
「捕縛用の鉄網を旦那様に、急いで!!」
―――聞こえてきたのは、守られていると思われていた夫人たちの声だった。
夫たちに負けず劣らず、むしろ女性らしさのある通った声が最奥で響き渡る。
それはどれも夫たちと同様の、戦いに臨む声。
ある女性は短剣を、ある女性は丸盾を、ある女性は何かの薬品が入った瓶を構えている。
鉄網を数人がかりで持っていき、前線にいる夫たちの班にテキパキと置いていく彼女たちの動きは慣れたもので俊敏だった。
その目には先ほどまでパーティーを楽しんでいた顔つきとは違う、夫たちと同様戦いに身を置いた戦士の目をしていた。
カインズはそんな彼女たちを見て絶句する。
何故貴族の夫人ともあろう者が、武器や防具を持って身構えているのかと。
夫人というのは戦いに臨む者ではないだろうと、そんな思いが目にありありと映っていた。
そんなカインズに、アドリアナは場違いなほどにころころと笑い、否、嗤った。
「―――カインズ様、この国の女人を甘く見ていては、痛い目に遭いますわよ?」
いつの間にかアドリアナの両手にも、武器が収まっている。
内側に湾曲した、カインズも見たこともない短剣をアドリアナは堂に入った構えで入り口を見据えていた。
「―――きたぞぉっ、ぞくだぁっ!!」
入り口近くにいた兵士の声が会場に響く。
会場にいた全員が緊張した面持ちで、現れる賊を待ち構えた。
カインズ&ドームズ 「エイルネス王国おかしい」
アドリアナ 「意識改革頑張りましたわ」
…作者もちょっと驚きな展開です、現実にこんな国あったらびっくりですね。
誰も彼もが武器持って…うん、頼もしい国です。
読んで頂き、ありがとうございました。
次回の投稿日は……「待て、しかして希望せよ」という事で、近日公開です。