路地裏1 #『塵芥』
路地裏1 #『塵芥』
明智美智子は少々不安だった。
クリップボードを片手に、彼女は一つ年下の高校生、法華津穂高に説明する。
「速度は時速五十キロにします。そして得られる運動エネルギーだけど……さっき計測した法華津君の体重が49キロ、それに軽ワゴンの重量950キログラムををプラスするから、総重量は999キログラム」
制服の上からフードつきの白いパーカーを羽織った法華津が、コクコクと頷いている。だが明智は経験則で、彼はさして理解していない事を知っていた。
「法華津君に確保して欲しい運動量は、一度目、法華津君一人を30メートル、二度目、法華津君一人を50メートル、三度目、法華津君と海野の二人を70メートル。つまり法華津君一人分が80メートルと、二人分の70メートル分のエネルギーよ。
前者は49キロ×9.8ニュートン×80メートル=3万8416ジュール。
後者は、(49キロ+50キロ)×9.8ニュートン×70メートル=6万7914ジュール。
この二つの和は10万6330ジュール。これだけを軽ワゴンとの接触で確保するから、106330÷(999キログラム×9.8ニュートン)=10メートル。軽ワゴンは時速50キロだから、秒速に直すと約14メートル。まぁ1秒触れなくていいくらいかな。大丈夫?」
まくし立てるようにして説明を終わらせて、明智は年下の男に心境を尋ねる。
「大丈夫です」
法華津が返事をした直後、路地裏に猛スピードで入ってくる軽ワゴンがあった。