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沖ノ浜の紛い者  作者: 指猿キササゲ
$1$ 本章
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ヘリコプター1 #『塵芥』


    ヘリコプター1 #『塵芥』


 海野火早野は内田大樹と共に、ヘリコプターに乗っていた。金属資材を積むことで、最大離陸重量ギリギリの7トンまで量増ししていた。

 予定だと、実用上昇限度の5760メートルまで上がるという話だった。富士山よりは高いのだろう、くらいにしか海野は考えていない。

「ってかさ、こんな回りくどいことするくらいなら、最初からスナイパーでも雇った方が安上がりじゃない? いくら会社の株も一緒に落とそうったって、もっと良い方法があるでしょ。私、思うんだよね、『上』の奴らってさ、絶対私らのこと使って遊んでるよね」

「そう言うな。ここは日本だ。銃を使うと色々面倒だしな。日本の警察ってのは、存外真面目だから賄賂が効かないんだよ……無論、例外もあるが。っつか、分ってて言ってるだろお前。アイツらはコトの揉み消しそのものよりも、紛い者のテストのほうが大事なんだって。目的と手段が入れ替わってる連中に、何を言ったって無駄だ」

 小難しい話に飽きて、海野は窓の外を見る。地上5000メートルのヘリコプターから覗く俯瞰の世界は綺麗に見えるが、シートから伝わる重機的な振動と、それに同調するプロペラの轟音で、魅力が差し引かれて減点ものだ。

 とはいえ、それでも俯瞰からの世界は綺麗なものだ。なんでもそうだ。遠目から見れば綺麗に映る。例えば油絵。近くで見たら粘性の物体が塗りたくられているだけなのに、遠目から見れば、それが絵になっていて、見た者は思わず、感嘆の溜め息を漏らす。

 この街もそうだ。世間一般という遠い目から見れば、地球を救い、日本のエネルギー産業の未来の架け橋となる希望の地。だが沖ノ浜の住人である海野から見る実態は、新エネルギー開発という餌に食いついた、成金のハイエナたちの狩猟場であり、そのハイエナの動向を観察して豪遊する『上』の者達の賭博場。さらに物理学と魔法の境界に存在する『紛い者』の実験場。

 だとすれば、いま自分が俯瞰を綺麗と思っているのは、本質から程遠い要素の集合によって、感覚を詐騙(さへん)されている結果なのだ。海野は唇を噛んだ。どれだけ化物じみた力があろうと、私たちは誰かの手の上で踊る人形なのか。

「せっかくさっきカラオケしたのに、お前にゃ無駄か」

 打つ手なしだな。まるで子供の機嫌が取れないで嘆く親のような口ぶりだった。この男は、人の心が読めるんじゃないだろうか?

「吹っ飛ばすわよ」

「お前が言うと冗談にならん」

 降参の意を込めて、内田は両手を軽く上げた。

「だったら黙ってなさいよ……で、法華津は?」

「明智から連絡があった。準備の進捗に問題なし。あとは福田がホテルに入ったかの確認待ちだ」

 不機嫌そうに、海野は鼻を鳴らした。

 直後、良いタイミングで内田の情報端末が振動した。内田が通話に出る。

『お久しぶりぃ。竹内でぇーす!』

 通話主でもない海野の鼓膜すら破りかねない高音――当然ながら、通話主である内田は顔をしかめていた。

 竹内宇智巴。『烏』のパウエル……リーダーの女で、かつ現在の『烏』の三人の中で、唯一紛い者ではない人物。当然、海野も知っていた。

「まさかお前が連絡役とはな……それで? 福田はホテルに?」

『ええ。オープンしてないホテルに一人寂しく。従業員も建築会社の連中もいない。正真正銘のただ一人。こっちの脅しのネタが効いたのかもね。写真一枚十万円から。流石に奥さんいるのにキャバクラで遊んだ女とプライベートでもアンナことやコンナことして遊んでるのはマズいよねー。奥さんはTPSDだかなんだかで入院してるってのに。知ってる? アイツの奥さんの実家ってさ、フツーの家らしいよ。お見合いで結婚したらしいけど……やっぱ価値観が違いすぎると、いくら金があっても、幸せな生活は手に入らないのかもねー』

 込み入った話は聞かないに限る。海野はスピーカーの向こうから聞こえてくる竹内の声を、右から左へ聞き流す。

「現場の周囲に、人はいるか?」

 電子機器の向こう側の人物とは違い、内田のテンションはあくまで平常運転だ。海野は相手のテンションに飲まれない内田の精神力に感心した。もっとも、この男の感心できる点といえば、そのくらいしか見当たらないが。

『あんま人通りの多い場所じゃないから、東側に倒せば問題ないわ、前にショッピングモールがあった場所、今は放置されてるから、人はいない』

「分った。じゃあ決行する。『上』によろしく」

『はいよー』

 内田が情報端末の通話を切ってポケットに突っ込む姿を、海野はジト目で窺っていた。

「……なんだ?」

「相手、誰?」

 分かっているが、一応訊いた。

「ああ。『烏』の十五番だ」

「ああ。竹内……」

 やっぱり。海野が視線を逸らす。

「嫌いなのか?」

 それだけの会話で、内田は察したらしい。堪忍した、とばかりに海野は自白する。

「少なくとも好きじゃないわね。気味が悪いわ。私、あぁいうヤツが一番苦手なの。そりゃ、やろうと思えば力ずくで捻じ伏せられるけど……なんていうかね、二年前も紛い者同士のガチなやりあいで生き残ってるヤツだから……化物じみてる」

 内田は笑いながら言う。

「俺からすりゃ、お前の方がよっぽど化物だよ」

「あっそ」

 無礼な言葉だったが、少々気に入り、海野は笑った。

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